第十六話 我、弓とらば真田に劣らぬが、知謀には7日の遅れあり。


 「はい論破!!このガラガラ声以下のゴミめ。」

 「ボケ女が!!」

 「はい将棋でもアタイの勝ち!!このガラガラ声以下のゴミめ。」

 「......」

 

  討論会、将棋。幸隆ゆきたかはトラに何度も苦汁をなめさせられていて「あの、ボケ女。俺は、なぜアイツに勝てない。」と、業正なりまさにあてがわられた部屋でうつ伏せになりながらボヤいていた。

 そのとき、隣の部屋から佐太夫さだゆうが幸隆の部屋に入ってきて「また、トラに負けてたな。そして、トラは、いつまでガラガラ声って言われたことに怒ってんだろ?」と倒れてゴロゴロしている幸隆に近づいていくのであった。

 佐太夫が幸隆の目前でかがむと彼は倒れながら「ガチで、アイツ女々しすぎだろ。」と畳をバンバンと叩いた。

 「......幸隆。女にそれ言うかよ。トラの性格は男より男だけどな。」

 「あのトラとかいうガラガラ野郎にに勝ちてぇ。」

 「贅沢な悩みだな。俺は、万年最下位だぞ。」 

 「佐太夫、テメェはもっと向上心をもて。」

 「おう!!」

 「いつも、返事だけじゃねぇか。」

 「そんなことより、さっきトラが一人で勉強してたぞ!!」

 「なんだと!?」

 幸隆は突然飛び起き、佐太夫を置いて、塾が毎日開催される大部屋に足を運んだ。フスマを少し開けると、本当にトラが一人で書物を音読していた。その光景を見るや否や幸隆の心に火がついた。フスマをガッと勢いよく開けると、幸隆はトラの横に座って、偶然持っていた書物を自分の目の前に置いてトラとともに音読をし始めた。

 すると、トラは幸隆を挑発するように「なんだ、お前?アタイの横に座って。ひょっとしてアタイのこと好きなのか?」と言った。

 幸隆も負けじと「そんな訳ねぇだろボケ!!テメェに負けねぇっていう意思表示だよ。ガラガラ野郎。」嫌味な返答をした。


 それからも幸隆は負け続けた。


 「はい論破!!このガラガラ声以下のゴミめ。」

 「ボケ女が!!」

 「はい将棋でもアタイの勝ち!!このガラガラ声以下のゴミめ。」

 「......」


 そして、ついにその日がやってきた。


 箕輪城からほど近い町でトラは眉間にシワをよせて「負けた。このアタイが。幸隆、許さん。許さんぞ!!」と叫んでいた。

 幸隆はトラに嫌味ったらしい目をしたあと「黙れボケ。ガラガラ野郎の負け姿はサイコーだな。俺の勝ちだ。」とドヤ顔をかますのであった。

 ちなみに、今日の業正塾は草履売りという謎の授業だった。幸隆は自分の部屋で「ヨシヨシヨシ」と勝利を噛みしめていた。

 そんな中、佐太夫が幸隆の部屋へ、ニコニコしながら「オッス、幸隆。お前スゲェよ。よく、こんなイカサマ思いついたな。この卑怯者!!」と入ってきた。

 幸隆は頬を赤らめ「ボケ、褒めんなよ。」と笑った。

 すると、佐太夫はウキウキしながら「俺が町で売った草履の金を幸隆のものにした。あげく、売れ残った自分の草履の何足かを俺の売り場の台に置いて、自分の売り場の草履が売れてるように見せかけるなんて。このペテン師が!!」とノリノリに言った。

 幸隆は「ふふふ。集計していた業正様は実はメンドくさがりで、最下位の草履の売上は基本的に集計しないからな。余計にバレない。ありがとよ相棒!!。」と佐太夫と握手するのであった。

 

 一方その頃、城下町では業正と上泉かみいずみが何やら話していた。

 上泉は興奮してるようで「幸隆は、最高でやんねぇー!!」とここが町だということを忘れて大声をだした。通行人も驚いてるようだが、本人は気にしてないようだ。

 そして、業正はクスクスと「彼にはイカさまの才能があるみたいですね。大した才能だ。」と笑うのであった。



トラ、のちの上杉謙信は真田幸隆をこう評している「我、弓とらば真田に劣らぬが、知謀には7日の遅れあり。」と。

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