第二章 上野人質生活

第十四話 突然の宣告

幸隆たちは今、箕輪城みのわじょうの門の前に立っている。箕輪城とは何を隠そう幸隆たちをここまで連れてきた長野業正ながのなりまさの居城である。関東管領かんとうかんれいの威光を示すような立派な門が開くと、一際不細工な大男がでてきた。その身長は実はそこそこ背が高い幸隆ゆきたか二人分はある。その大男は突如「皆さん。こんにちはぁぁあああ!!」と聞くに耐えないほどの大声をあげた。

 彼の目の前に立っていた幸隆は思わず「なんだ、アイツ?」と口から出てしまった。

 その横にいた佐太夫さだゆうも思わず「なんだ!?俺と気が合いそうなアノ男は。」と口から出てしまった。

 幸隆は驚いた顔をして佐太夫を凝視すると「それはよかった。俺は、生理的に受け付けねぇわ。どうぞ!」とはにかんだ。

 業正の家来が目の前の大男のことを知ってるらしく「お前、上泉様かみいずみさまに謝れ!!」と声は怒っているのに顔は笑っていた。家来が上手いぐあいに上泉に背を向けているところを察するに、内心はよくぞ言ってくれたと思っているに違いなかった。

 上泉は幸隆たちを箕輪城の本丸まで案内してくれた。ここで、業正の家来たちは、それぞれの寝床へ戻っていき、残った幸隆たち四人は本丸の中に入った。そして、上泉にとある一室に案内された。

 部屋に入るやいなや一緒に同行していた業正は幸隆と佐太夫にむけて「君たち、死んでください。」と唐突に狂気の発言をした。その顔は笑っている。もはや、悪魔だった。

 幸隆は目を引きつらせながら脂汗をかき「それは、どういうことだ。」と業正に聞いた。

 佐太夫も同調して「そりゃねぇぞ!!。チビダヌキ!?」と果敢に大声をだし、彼のツバが方々に舞った。

 そして、そのツバをかき消すかのように上泉は「だまれ!!」とイナズマのような爆音で叫んだ。

 業正はお礼をするかのように上泉にお辞儀をすると「君たちは自分たちの存在価値を考えたことがありますか??。海野の方々は失礼にもほどがあります。城を歩いてると、君の陰口ばかりが聞こえてきましたよ。弱小勢力の分際で、そんな価値のない者を人質によこすだなんて。」とタメ息を吐いた。

 ㇺッとした佐太夫は「言わせておけば!!」と叫び、横にいる幸隆が何も言い返さないのが違和感に思えて横をむくと。そこには、まるで死んだ目をした幸隆の姿があった。

 業正はあわれみのニヤケ顔をすると「真田幸隆さなだゆきたか。……目が死んでしまいましたね。上泉君、もう彼らに用はない。さっさとコイツらをヤレ!!」と上泉に号令をだした。

 鷲塚佐太夫は「ヤレるもんならヤッてみろ。」と言って刀を抜いた。臨戦態勢の構えをとった。

 上泉も刀を抜き、不気味に巨体を揺らしながら「なんだぁ!!お前はぁ!!!食べちゃうぞぉ!!」と佐太夫に向かっていった。

 佐太夫は幸隆を指差し「オッス。俺は、コイツの相棒の鷲塚佐太だ!!」と上泉を倒すべく、勇みながら向かっていった。

 佐太夫は上泉と刀で果敢に戦っていたが内心「この変な奴。本気だしてない平賀源心より強いぞ。俺も、もうダメかもしれん」と思うのであった。


「血が怖い」

「血が怖い」

「血が怖い」

「こんなところで、負けたくない。」

「怖い」

「怖い」

「怖い」

「怖ぇよ。でも、誰にも負けたくねぇ、おらぁぁああ」


そこへ、なぜか真田幸隆の目が突然生気をおびだした。幸隆は自身の刀を抜くと、電光石火の全力疾走で、上泉の背中を斬りつけた。上泉から血が吹き出す。


「血が見える。血を見て思い出すのは父の優しさと、その父をコケにしていた、父が死ぬまでの自分。」


幸隆は自身が気絶する少し前に、かすかに業正が逃げ出すのが見えたような気がした。

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