第十三話 サラバ故郷
幸隆は「ヘイヘイ」と言って、門をくぐった。そして、城の中に入り、フスマを開け、当主・
座敷の中央に座っている棟綱はそうした状況を「やめるの!!」と言って一喝した。
すると、幸隆はボソッと「やめてください。慣れてるんで」と言うのであった。
棟綱はシュンと涙ぐみ「ソナタの父上に詫びねば、急でスマヌ。」と幸隆に頭をさげた。
その会話に割って入るようにフスマが開くと、偉そうな男を先頭に十数名が座敷のなかに入ってきた。
偉そうな男は背は※五尺ほどしかなく、それにも関わらず、ここにいる誰よりも強い威圧感を放っていた。その男は真田幸隆をナメ回すように見たうえで「あれ!?思ったより男前なんですね?」とクスリと笑った。
※一尺で30.3センチほど。五尺は151.5センチほど。
幸隆は死んだ魚の目をして、目の前にいるチビで偉そうな男にガンを飛ばし「余計な御世話だコラ。テメェは誰だ?チビ狸!!」と威嚇の大声を発した。
幸隆が暴言をあびせると、その家来たちは怒り狂っい「
チビ狸こと業正は家来を制止すると「御仕置きは、そこまで。※
※上野は今の群馬県
幸隆は、その手をパチンと叩くと「立つぐらい簡単だ。チビなくせにおっさん顔は黙ってろや」と、いつになく目を鋭くさせて、またしても暴言を吐いた。
その暴言を受けて業正の家来たちは再び幸隆に殴りかかろうとした。しかし、業正は余裕な笑みをニヤリと浮かべて「やめなさい!!。僕は、こんな小物に何を言われても気にしませんよ。」と家来たちをなだめた。
幸隆はヨロりと立ち上がると、業正の家来たちに「さっさと、歩け!!」と罵声を浴びせられて座敷の外へでた。
外はちょうど雨が降り始めていた。海野城の門へとさしかかるとズブヌレになりながら幸隆は「......惨めだ、マジで。」と自分の今の状況をなげくようにボソッと言葉を吐いた。そして、業正たちに連れられて幸隆は門の外へ一歩出た。故郷を離れる覚悟を中々決められない幸隆の目は光を失っていた。
ちょうど、そのとき「待てぇぇ!!」という大砲のような大声が聞こえてきた。そして、その声の主の足音が段々と近づいてくる。
業正の家来たちは目の前にいる、ニコニコした男に呆気に取られて「なんだコイツ!?」とざわついていた。
業正は意を決して「君は誰ですか?」とその者に尋ねた。
その者は「俺の名前は
業正の家来は脇にぶら下げていた鞘から刀を抜き「そんな訳ないだろ。失せろ!!」と怒鳴り声をあげた。
業正は自身の家来に「まあまあ落ち着いてください」と言って落ち着かせると佐太夫に近づいた。
幸隆の顔に血の気が戻り「そいつは関係ねぇ。だから見逃しやったくれ!!」と佐太夫を守るため大声を張り上げた。
すると、佐太夫は業正は業正をジロっと見ると一言「同行を許してくれ。」と言うのであった。
業正は、ニヤケヅラの狸のような顔をして「イイ目してますね。家来君、同行を許します。」と言った。
佐太夫は破壊的にハジケタ笑顔をして「しゃあ!!やったぁぁあああ!!!幸隆!!!」と幸隆を見ながら右手の拳を天にかかげた。佐太夫の笑顔につられたのか雨はやみ、色鮮やかでくっきりした虹がでていた。
幸隆は笑いと涙が一緒にでるという奇妙な表情をしながら「お前、本当に無茶苦茶だな。......でも、ありがとな。」佐太夫のところまで近づくのであった。
二人の上野人質生活が今幕をあける。
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