第22話 Happiness 幸福というもの 2021.12.26
22.
" Break 絶縁 "
夏の終わりに黒崎さんのオメデタのニュースと併せて退職することを
知った。
春先の結婚が決まった頃、いろいろ知り得たことがあった。
この結婚には設樂課長の押しがかなりあったこと
家族ぐるみという形での紹介があった後、弟さん本人はモチロンのこと
課長やご両親達からのモーレツなラヴコールがあったこと。
皆から祝福されて結婚した黒崎さんは、きっとご主人やご家族から
大切にされているのだろう。
妊婦になり、来年のまだ寒さのぬけない頃に出産を予定している
そんな設樂家は輝かしい年を迎えるにちがいない。
当初はもっと早くに母からの呪縛から逃れていれば、あかねとの
明るい未来があったかもしれない、そういう思いに捉われ、やりきれ
なかった。
だが今は違う。
笹原家から受けた仕打ちと設樂家から大切にされている状況を
目の当たりにしてみれば、黒崎あかねの為には、これで良かったのだと
心から思えるようになった。
人は心の持ち方ひとつで他者を幸せにも不幸にもできる。
自分の母親は残念ながら他者を不幸せにしかできない体質のようだ。
やっと黒崎あかねとのことを自分の心の中で本当の意味で決着
つけられるようになった頃、政恵があかねさんとでもいいわよと、何を
トチ狂ったのか連絡してきた。
「どうせ、あかねさんまだ独り身でしょうから私が許したと言えば
喜んであなたの元へ帰ってくれるわよ」
22-2.
「遅いんだよ、もう。何言ってるんだ、いい加減にしろよ。
彼女はとっくに再婚して子供にも恵まれて、その上相手のご両親からも
とても可愛がられて幸せな結婚生活送ってるんだから・・。
母さんがバツイチと蔑んだあかねさんは他所の人達からは、熱望される
ような優良物件だったんだよ。
見る目を持たない親を持った俺は哀れなもんだよ。
年上の女なんて子供も持てるかどうか判らないって言って反対したよね。
どうだいっ、あかねさんは来年には可愛い赤ちゃんが生まれておかあさんになるよ。
対して俺はどーだい?な、母さん俺は?
妻も子もなくて寂しいもんだよ。
俺の未来の予想つかなかった?
人の心はそんな上手くいかないってこと、そんな簡単なことが
判らないんだ、アンタって人は」
・・・・・
本当は判ってる。
自分にいくじがなかったせい。
予測があまかったせい。
自分こそがあかねさんを軽く見てたんだ。
半年や一年、待っててもらえるはずだってね。
彼女を熱望する誰かがいるなんて思いもしてなかった。
母さんだけのせいじゃないって判ってる。
もっとちゃんと彼女と向き合って、彼女の手を強く握って放しちゃあ
いけなかった。
欲しいものは、大切なものは、手放しちゃいけなかったんだ。
この先あれほどの情熱で人を好きになれる日はもう二度と来ないだろう。
俺の後悔の言葉に母は何も言えなかった。
政恵のことを多少なりとも不憫だと思わなくもなかったが
先ほどの、どうせ発言で迷いは払拭された。
兄や父に続き自分も完全母親の前から去ること(連絡先不明)を決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます