第21話 Happiness 幸福というもの 加筆修正有2021.2.28/12.26
21.
" They left the house. 家を出た"
あかねが慎一からプロポーズを受けていた頃、竜司は家を出た。
その頃、母、政恵は誰とも結婚しないと言った息子の本気を悟った。
それからほどなくして、政恵が友達との2泊の旅行から戻ると
長男夫婦が家を出てしまい部屋はきれいに掃除されていて、息子も孫も
いない寂しい空間になっていた。
「どうして?」
夫に聞くと、
「お前がどうしてか判らないから稔達は出て行ったんだよ」 と言う。
「ナニ、そのなぞなぞみたいな言い草、答えになってないわよ」
「お前、本当に判らないのか?
お前が知沙子さんを大事にしてこなかったからだよ。
それしかないだろうよ」
「うんまぁ~、何てことを言うの、あんな気の利かない嫁に
どうやさしくしろっていうの。
私がいろいろと注意してやらないと、この家は回っていかないじゃないの」
「だめだな、こりゃぁ」
少しの反省もない妻の言い草に、夫である茂も又長男夫婦に続くように
1ヵ月後に家を出て行ていってしまった。
21-2.
父までもが母親を捨てるように出て行ってしまい、竜司は心底驚いた。
父親から兄と竜司のところへ連絡が入ったのは兄達が家を出てから更に
1ヶ月後のことだった。
父が家を出て行こうと決め手になったのが、やはり今回の黒崎さんに
対する母の仕打ちだったらしい。
今までも散々幻滅することは多々あったので、前々から出て行きたい
できるなら離婚したい、そんな気持ちがどこかにあった。
だが実行するとなると、それはまた別のことかとあきらめの気持ちも
半分あって行動に移すことなく来た。
けれど今回の母のやりようを見ていて、今まで何を迷っていたのかと
自分を叱り飛ばしたくなる程で、決して息子達に続いて家を出たわけでは
ないのだよと、言われた。
すでに昨年の黒崎さんとの顔合わせの時の母の言動や、その後の僕に
交換条件のように見合いをさせたこと、それから義姉さんや兄さん達も
いる前で、
あんな7つも年上の年増のバツイチなんて絶対家になんて上げないわよ!
どこか他所の場所で充分でしょ!!
と黒崎さんとの顔合わせの前に暴言を吐いたことで、一気に母さんへの
気持ちが醒めてしまったとのこと。
21-3.
父の説明の中で俺は知らなかった母の更なる暴言を知り
とてもショックだった。
顔合わせなんて必要なかったんだ。
母は黒崎さんを最初からそんな目でしか見ていなかったのだから。
更に父の説明が続く。
それから信じてもらうしかないけれど、断じて不倫はしてない。
大学に残って働いた3年間、私の仕事のサポートをしてくれていた
女性とは、まぁ仕事の合間に雑談したり本好きが高じてお互いの持っている
本を交換し合ったりという、ただそれだけの付き合いだった人なんだが
家を出ることにしたと話したら、いろいろと家のことやら何やら世話して
くれて、まぁ早い話がその女性(ひと)と暮らすことになった。
その女性ともどうなるか、今の段階では判らんがお前達に状況だけは
伝えておこうと思ってな。
後で不倫疑惑など持たれたら、たまらんからね。
そう父は控えめにうれしさを隠して連絡してきた。
そんな父親とは裏腹に、母親の怒りに満ちた様子が手に取るように
想像できてしまう。
2021.10.15 11/21
21-4.
俺の過去にはなかった位好きになった女性黒崎さんとの恋愛の着地点は
俺の家族をこれでもかという程、バラバラにしてしまった。
そして俺は恋しい女性(ひと)を失くしてしまった。
静かな気持ちでそれらに対峙した。
時だけは無情にも過ぎていく。
課もフロアーも違うので、会おうという意志が無い限りは
黒崎さんとほとんど会うことはない。
父が家を出る少し前に、黒崎さんの再婚のことを倉本から聞いて知った。
「俺、てっきりお前と黒崎さんの付き合いが上手くいってるとばかり
思ってたからびっくりしたわぁ~!彼女、設樂課長の弟さんと結婚する
らしい」
「倉本、この話はオフレコな。
お前だけに言うけど、俺の母親の反対で僕等の結婚話はぽしゃってたンだ。
俺は何とか説得して・・って考えてたんだけど、結婚しても上手くいく気がしないって彼女の気持ちが強くてね。
最初はプロポーズOKしてもらってたんだけど、結局は俺が振られたんだ」
「一度振られた位で引き下がったのか!なんとかならなかったのかよ。
もういい年の大人なんだから、母親の承諾なんていらないじゃん、って
俺は第三者だから言えるけど、きっと笠原も黒崎さんもいろいろと葛藤が
あった上での結論なんだな。
あれから俺もまさみチャンに振られたんだよ。
振られたモン同士、今度飲みに行こうぜ」
21-5.
「あぁ、またな」
倉本が気を遣ってそんな風に言ってくれた。
それから気をつけて周りの話を注意して聞いていると女子達はどこから
そんな詳しい話を聞いて来るんだよって言いたくなるくらい、黒崎さんの
結婚にまつわる話をよく知っていた。
特に休憩時俺は耳をダンボにして聞き耳を立てた。
いや、耳をダンボにすれば凹むだけ、聞くんじゃない竜司
自分に止めろと命じたが、ジャンボになってしまった耳は
俺の言う事を聞いてはくれなかった。
設樂課長の弟さんも所謂バツイチで、似たような境遇の
ふたりを課長が引き合わせたようだ。
時期的にもしかして二股されていたんじゃないかって思う
くらい早い時期に紹介されていたようだけど、黒崎さんの
心の中では、別れを言い出すもっと前に心の中で俺達のことに
決着をつけていたみたいだし、そこのところはないと信じたい。
それに俺自身、別れを切り出された後ひたすら凹むばかり
で、やり直したい・・家を出てでも君と結婚したいと・・
まぁ何のアクションも起こさず諦めてしまった訳だから
彼女を責める資格なんてないさ。
誰もいない所で"あーーーーっ!!"と大声で叫びたい気持ち
だった。
ヘトヘトになるまでその辺を駆けずり廻って叫びまくって
何も考えられないほど疲れて眠っていたい、そう思った。
毎日仕事に行く足取りも重く食欲も出ず、失恋を引きずって過ごした。
気が付くと、夏を迎えていた。
2021.10.16 11/9
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