第23話 Happiness 幸福というもの 2021.12.26

23.


" Restart 再出発 "


 その後、竜司はそれまで勤務していた役所を辞めた。



 半年余りは旅を兼ねて住む場所を捜し歩いた。

 住む街が決まると、勉強をし直して試験を受け直し、再び小さな田舎町の

役場で勤務することになった。




 昼時になると、役所から5分と離れてない食堂でいつも昼食を摂る。


 その食堂ではまだ少女に見える程、子供時代の名残を色濃く残している

山内真砂19才が、毎日元気で明るくチャキチャキ働いていた。





 真砂には泉という8才の弟がいて、学校が終わると自宅には帰らず店に

帰って来ているようで、とても仲が良い。


 いつも昼食を摂る時間には、弟はまだ学校で、見かけることはないが

外回りで昼食の時間がずれ込んだ時などに、時々姉にまとわり付いている

弟を目にすることがある。



 その日も外回りの仕事で昼食を摂るのが遅くなった。


 泉が死にそうになって凍えている仔猫を拾って来た。

 飯屋の人の善い夫婦も姉、真砂と一緒に顔を出し、どうしたものかと

思案に暮れていて、泉と真砂はきょうだい揃ってどーしよう、どーしようと

オロオロしている。



 オンボロアパートは飼えないのだろう。

 仔猫が可哀想で捨て置くことも出来ず、悩む姉弟。



23-2.

 


 様子を伺っていた竜司が助け舟を出す。



 「仔猫、俺の家に置いてあげるよ。

 だけど世話までは大変だから仔猫の様子はちゃんと毎日見に来て

くれないかな。


 鍵は作って渡しておくから、なるべく世話しに来てくれ。

 君達が世話出来ないときだけは、仕方ないから俺が世話しよう。」



 瘦せっぽっちで小さめの姉、真砂は弟、泉と併せて竜司の

目からは子供のように見えるので、どっちが仔猫なんだか~と、ひとり

ごちた。



 ふたりが仔猫のことで必死に頭を悩ませている姿を、竜司は

よるべのない仔猫に重ね合わせて見ていた。



 聞くところによると真砂たちは母親がシングルマザーで

その母親も過労が原因で昨年亡くなったのだとか。


 真砂は小さな弟がいるので普通の企業にOLとして就職

出来なかったのかもしれない。


 アルバイトでボーナスも出ず、生活は苦しいだろうにふたり

共明るくていい子達だ。


 雇い主の夫婦がふたりのことを何くれとなく気にかけてくれる

善良な人たちなのが救いだ。



 仔猫の件で姉弟たちと繋がりが出来た。

 これも何かの縁、自分は独身で自由のきく身、猫共々このちっこいふたり

の面倒も見てやらねばなるまいと心密かに思っている。



 23-3.



  まだ大人になりきれていないふたりは、ある意味無邪気だ。


 大人の入り口にいる真砂は、後数年したらいろいろと困難にぶち当たる

こともあるだろう。


 その時は陰ながら助けてやろう場合によっては足長おじさんにも

なってやってもいいと思った。


 ふたりと出会ってからの月日は言う程長くはないけれど、

そう思わせる健気さがふたりにはあったから。




 ふたりはその日からしょっちゅう、仔猫の様子を見に来るように

なった。


 そんな中、竜司がいる時に真砂が1人で来たことがあった。




 「今度から家に来る時は弟と一緒に来な、」



 「どーして?」


 きょとんとして真砂が問う。



 「どーしてもだっ。

 真砂は一応女の子だろ、悪い噂が立つと君の為によくないからだよ」



 「そうなの?」

 

 「そーだよ!」




 「だけど竜司さん、おじさんだよ?」



 「あぁ、そーだな・・そーだな・・おじさんだよっ 」



 「あっ、ごめんなさい、本当のこと言って」



 「あのねぇ、・・まっ、いいや。

 おじさんだからよけい良くないんだよ。

 こんなおじさんと変な噂立てられたら困るだろう?」



 「竜司さんがこまるンでしょ?あたしはこまんないもんっ!」


 「こりゃこりゃ、グズグズ言わずおじさんの言うことを聞けよ、いいな」





「うん、判った。

 なるべくひとりでこの部屋には来ないように気をつけます」



「よろしい」

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