第16話 Happiness 幸福というもの 加筆修正有2021.2.26/12/16

16.

" Fate ご縁 1 "


 「え~~っ!あの、その、そんなに良く言っていただいて、

そしてそしてよくしていただいてありがとうございます。


 でもひとつ大事なことが。慎一さんの気持ちがもしも課長や

ご家族の皆さんとはかけ離れていたとしたら、大変ですよ!」




 そう言いながら、私は冷や汗をかいていたけれど、それと共

に自分で心配を装いながらも、この御縁はまとまるな・・

とも感じていた。


 それは何故か!先日から来ている、何か来てるよ・・心震え

る何か、私の未来を大きく変えてしまう程の何かが今はもう

確実に、今日のこの話であったと確信していたから。




 「そうだね、ほんと本人がいないや」設樂課長が今気が付いたみたいに

ぽそっと言うと、奥さんやご両親もあっ、ほんとねって笑い合った。


 この流れに身を任せていれば私はきっとこの先、この人達と

家族になって毎年一緒にクリスマスパーティをし、初詣に行くのだ、と

思った。



 設樂家の人達には掻い摘んで話をしただけなのだが

あかねはつらい思いをたくさん経験して前の夫と別れた

のだった。


 借金癖が治らず離婚したあかねの元夫は紺野翔太37才

大学の同級生で結婚生活3年間は夢のように幸せだった。




2021.10.05-14/9



16-2.



 だが、ある日仕事帰りにパチンコ好きの同僚から誘われて

パチンコに行った日から人が変わったようにパチンコに

のめり込んでしまい、給料のほとんどをつぎ込み、毎日の

ように通うようになってしまった。


 行くのを止めるように言うと、その時は、もう止めると言う

のだが、3日も我慢できずにパチンコ店に入りびたりになって

しまうの繰り返し。



 給料だけでは足りなくなった紺野はサラ金にまで手をつける始末。


 義両親に謝られ支払ってもらったが、50万、100万、

3回目は450万円だった。


 この頃になると姑から意外な発言が飛び出すようになっていった。



 毎日一緒にいてどうして息子のパチンコ通いを止められないのか。

 あかねさんにも大いに責任があるはずと言い出し、私達は今後一切

息子の借金の肩代わりはできないと言ってきた。


 肩代わりしてやりたくても財産も底をつき、できなくなったのだろう。

 何度も助けて貰った。


 あかねは何も言い返すことが出来なかった。


 どうしよう、どーしたらいい?こんな不安定な生活続けて

いたら子供だって持てない。


 私達に将来などない。

 止めるように何度促しても暖簾に腕押しの夫。


 借金さえ、パチンコさえしなければやさしくて良い夫なのだ。

 どうにか立て直すことはできないのだろうか。

 


16-3.


 借金、パチンコをしなければいい夫?


 果たして借金を止めずパチンコを続けるような男が良い夫と

言えるのだろうか!


 良い夫のはずがない。


 生活基盤を根本から崩している人間が、精神的に弱い弱い人間が

良い人のはずがない。


 そんな事とうの昔にあかねにも判っていた。


 毎日苦し思いで過ごしていたある日、またもやどこぞで

借りていたという借金の取立てが始まった。


 今度は650万円。





 「翔太、どうするの?もう無理だよ。

 こんな事続けてたら私達に未来はないよ」




「ごめん、あかね。止められないんだよ。

 パチンコがどうしても止められない。


 命を取られる位にならないときっと駄目なんだと思う。

 だから両親と同じように僕を捨ててくれ!」


 夫はそう言って離婚届を置いて家を出て行ってしまった。




 私のバツイチの理由はそんな信じがたい嘘のようなつまらな

いものだった。

 

 離婚後義母からは謝罪の手紙が届いた。


 「あなたの人生をムチャクチヤにした息子とそんな息子を

更生させる事ができなかった我が身を許してほしい」


と。



 私はそれでもまだ夫のことが好きだった。

 悲しい別れだった。




 しばらくは誰かと付き合う事など、まして再婚など考えられなかった。

 夫が恋しくてしようがなかった。


 確かに時は私の心を少しずつ癒してくれたけれど、夫のことを

忘れることが出来たのは竜司と付き合うようになってからだった。




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