第四章 Ⅸ
「カノン。どこへ行こうというのですか?」
外へと戻り、石炭が轟々と燃える
アディリシアもカノンも、二番街へ行くのが〝普通〟だろう。
「……俺は、別の場所で戦ってくるよ。だから、アディリシアはついてこないでいい」
「愚問ですわね。この私は、貴方の飼い主なのですのよ。着いて行くのが当然ですわ」
アディリシアは退かない。だから、カノンは一番言いたくない言葉を使った。
「ここで暴れている魔物は人工物だ。本当の意味で、人から造り出した紛い物だ」
風が吹いた。夕焼けを過ぎた夏の風が時に肌寒い。汗を掻き過ぎたカノンは、肌寒さを覚えた。今、アディリシアの目を真っ直ぐ見られる自分がないから、薄暗くなった空を見上げる。
「昨日、『
忌ま忌ましそうに、カノンは奥歯を噛み締めた。姿形が変わろうが、人間同士の戦いほど、醜いものはない。そして、さらに胸が締め付けられる苦しみを彼は知っている。
「そして、これらの事件には、過去の事例がある。世界救済連合は、生贄さえあれば無尽蔵に魔物が生み出せるのさ。……俺は、大本を断ってくる。アディリシア、お前は――」
だが、彼の制止も待たず、アディリシアは
「私に指図する権限が、貴方にあるとでも? パトリシー・メイスンの歌にもこんな一節があります。『主人が犬に命令することは珍しくねえよ。けど、その逆っていうのは有り得ない。犬が犬で、人が人である限り』とね。貴方が最高の舞台に立つというのなら、私も傍に立ちましょう。そう、約束したでしょう。カノン・レミントン。貴方こそ、思い出しなさい。貴方は一体〝何者〟ですか?」
強情な少女だった。カノンは嘆息一つを零し、
「足手纏いを守る余裕はないぞ。手前の身は手前で守れ」
声が乱れるのを嫌ってか。アディリシアが返事変わりに、ぎゅっと両腕に力を入れたのだった。
「この大馬鹿が……」
苦味の濃い笑みを浮かべるカノンの横顔は、泣きそうな程、歪んでいた。彼はアディリシアの前で、正義の味方ではいられない。彼には彼の目的があるからだ。ゆえに、見せたくはなかったのだ。――鬼になる光景など。
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