第四章 Ⅲ
○
「戦争の歴史は戦闘糧食の歴史でもある。今でこそ高い栄養素と手軽さから焼き菓子のように小麦粉に混ぜて作った
と、長ったらしい講釈を垂れたクロムウェルは中型六人乗り
「っちょっと、クロムウェルちゃんずるい! 私も! 私も食べる!」
「ああ、この馬鹿! 身乗り出すな! この車屋根がないんぞ! 危ないやろが!」
「手前ら死にたくなければ手伝え! 私だけに難しいこと押し付けてんじゃねえぞ!」
今、二番街は大混乱に陥っていた。
大都市御自慢の四車線の街路は急いで逃げようとするあまりに激突事故が多発し、恐怖と焦燥が飽和状態にあった。そんな中で、車と車の間を縫うように生徒五名は
「ところで、レビィはどこで車の操縦を覚えたんだい? 学園で車の運転免許を取得するのは十八歳になってからだろう。ゲホゲホ。ああ、御茶が欲しい。ちょっと喉が痛い」
「人の気も知らねえでボリボリ菓子食ってんじゃねえぞボケが! オヤジの運転を今、必死こいて思い出してんだよ。こん畜生が。おい、アディリシア。手前、ちゃっちゃと誘導しやがれ。こっから先公の家までの道のり知ってんの、手前だけなんだぞ」
「……このまま大通りを真っ直ぐですわ。それにしても、呆れましたわ。せっかくの休日が台無しです。パトリシー・メイスンの歌にもこんな一節があります『まるで熱湯にブチ込まれた蛙の踊りを見てるみてえだ。最高に糞ったれな気分だぜ!』ってね」
アディリシアは助手席に、レビィの隣に座っていた。こちらはすでに、右手に輪転式拳銃を握っている。一発も撃たないのは、一早くカノンの家に到着するためだ。今、街には大勢の学園生徒が集まっている。その証拠に、魔物を討伐する生徒の姿が車内からでも観察出来た。傭兵や自警団の人員も集結しつつある。大都市・アマンデールはそう簡単に陥落するほど、やわではない。そして、今の少女達には大きな使命があった。レビィにとっては、戦友や自警団、傭兵達と協力せず、逃げ回っているように見える自分が情けないのだろう。噛んだ下唇から、血が滲んでいた。血管と理性が千切れる一歩手前である。
「おい、アディリシア。手前の話は本当なんだな。あの家に、魔導具があるんだろう?」
「その通り。カノンを見縊らないでくださいな。あの大馬鹿は中毒者と評するに相応しい馬鹿です。地下倉庫にこれまでに作った魔銃を保管しています。それがあれば、私達は王国の完全武装した一個大隊にも負けない火力を得られる。今の装備はでは返り討ちに合うだけですわ。お分かりですか、レビィ? 焦りは禁物ですわよ?」
皮肉気味な微苦笑を浮かべながら、アディリシアは
吸い口は緩やかな弧を描く。これは、口に咥えた時に垂れても火が零れないようにする配慮だ。火口を留めていた
――王国では十八以下の喫煙は禁止されている。御嬢様は自分の欲望に正直だ。
「……手前、頭のネジをどっかに落としたのか? さっきの菓子屋か? それとも、御袋さんの腹の中か? 糞ったれ。ああ、上等だ! しっかり掴まってろ。馬鹿野郎共がっ!」
誰もが『お前だけには言われたくない』と冷ややか視線を作った。レビィは構わずに車を加速させる。灰と赤い景色は後ろへと絶え間なく凄まじい速度で流れて行ったのだ。
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