第4話 独占(後)

ずっと放り出されていた、美しい世界。




 親指と人差し指が直角になるように広げ、鳩尾で左右の親指と人差し指の先をくっつける。節の立った指が作るフレーム。

 そこは快適だが、自由はない。極めて安全である。透き通ったガラスは外界とフレームの内部をくっきりと分けた。閉じこめられれば、ガラスを挟んで見られ、ガラスの向こうを見る。

 完全に閉鎖された空間は、時間の流れも止めた。フレームの中にあるのは、一瞬の生という死すら閉じこめる。

 阪口はあの頃、出会った頃の姿をしている。黒い学生服も端然とした青年が、とっておきの昆虫標本を晶子の前に広げる。

 晶子は阪口を見上げる。阪口は晶子に目もくれず、熱心に標本箱に羽を広げた蝶を見つめている。

 先生、先生。

 晶子が呼んでも阪口は返事をしない。先生、阪口の腕を叩いた手が、ガラスを叩く。冷たいガラスは叩いてもびくともしない。晶子は力なく座り込む。背中から大きく広がった羽がかさばり、動きにくい。羽を広げると、ガラスの向こうから銀色の光が射し込んだ。晶子は光を浴びて、更に大きく羽を広げた。

 先生。


 固く干からびた蛹に、幼虫を溶かす。自ら望んで溶ける。形をなくす。

 どろどろの肉の海から構成される。再び生まれてくる何か。





「そろそろ起きなさい」

 晶子は、阪口に起こされて目を覚ました。

 カーテンはすでに開けられていて、寝室には光が満ちている。

 阪口の声に瞼を押し上げると、ベッドに腰掛けた阪口がこちらをのぞき込んでいる。眩しくて目を開けるのに苦労している晶子に向けられた阪口の端正な顔に、わずかに気だるさが漂っている。晶子は何となく心が浮き立って、晶子の顔の両脇、枕の上におかれた阪口の手、その腕時計のはまっていない方に、額を擦り付けた。阪口がついていた手をあげ、晶子の頬にあてる。しばしその温もりを味わってから、晶子は顔を綻ばせた。

「先生、おはよう」

 阪口の手が頬から肩へと滑る。

「いい朝ですよ」

 晶子が手を伸ばすと、阪口が晶子を抱き上げた。

「歩けます」

 晶子が降りようと手を突っ張っても、阪口は相手にしない。

 手を伸ばしたから、了承したと思っているのだろう。

「私から逃げ出したくなりましたか?」

 阪口の眼鏡に、白く朝の光が映り込んでいる。切れ長の双眸がひたと向けられていて、晶子は瞬間、ぎゅっと心臓が握られたような痛みを感じた。

 首を振ったが、阪口の視線は強くなるばかりだ。

 不安が鎌首をもたげる。顔を青ざめさせて、瞳を潤ませた晶子を見て、阪口はふっとため息をついた。

「ただの意地悪です、朝から泣かないで下さい」

 ぽんぽんと頭を叩かれて、晶子は阪口の胸にすがりつく。ワイシャツが皺になることに気づき、離そうとした手を、阪口が制する。

「そのままで」

 阪口の手は力強く揺るぎない。彼は晶子を抱いたまま、ダイニングに連れて行った。




 晶子は、あの夜からずっと阪口の部屋で暮らしている。


 晶子が阪口の部屋に招かれて次の日は目の回るような忙しさだった。

 泣きすぎて腫れた瞼を冷やすのもそこそこに、家具屋に連れて行かれた。そこで、阪口は手持ちの家具を全て買い換えてしまった。晶子は都度、阪口に意見を求められた。最初は何も言えなかった晶子も、阪口が根気よく聞いてくれるうちに、少しずつ言えるようになっていった。晶子が何かを選ぶと、阪口は満足そうに晶子の頬に手の甲で触れた。

 阪口は、マンションに移るにあたって、インテリアをすっかりコーディネーターに任せてしまったのだそうだ。モダンな部屋は阪口に似合っていたが、晶子がくつろぐには寒々しい。阪口はそれをよくわかっていた。

 コーディネーターはすっかり新婚カップルの新居だと思っているようで、興奮した様子には辟易した。コーディネーターは年嵩の女性で、阪口のことをしきりに素敵だと、晶子をかわいらしいとほめちぎった。

 晶子は、うまく説明することができないので黙っていた。

 晶子は、己をごっそりと阪口に差し出して、やっと受け取って貰ったという思いで、阪口の隣に並んでいるのだ。阪口にいらないと言われれば、もう晶子にはその先はない。

 阪口に疲れたかと尋ねられて、晶子はゆるゆると首を振った。阪口の目は晶子の物思いをどう思ったのか、晶子の手を取った。阪口は晶子の冷たくなった手を厚みのある手で包み、親指で晶子の手の甲に円を描いた。



 家具屋の次に連れて行かれたのは、百貨店だ。そこで、店舗ではなく外商部に出向き、新しく必要になるリネン類や、晶子の衣服を注文した。これは比較的早く済んだ。

 その後は、阪口のマンション周辺を案内して貰った。昨夜連れてこられた時にはわからなかったが、阪口のマンションは五階建てて、敷地を広く問っており、町並みによく調和していた。上層に行くほど戸数が減り、最上階には数部屋しかない。完全な分譲マンションであり、共用フロアにはスポーツジムなどの設備も整っていると聞いて、晶子はしきりに感心してしまった。

 合間に喫茶店で軽く食事を取り、スーパーに寄って食材を買った。阪口はここでも、晶子に好きなものを尋ねながら食材を選んだ。晶子が好きなものと、阪口の好きなものが一緒だと聞いて、喜色も露わな晶子の頭をぽんぽんと撫でてくれた。


 その日の夕方には、阪口の部屋は全く様変わりしてしまっていた。ダイニングのテーブルは、高さの低いソファと合わせたクルミ材のテーブルに変わっていた。リビングには厚手のラグが置かれた。阪口の寝室は、書斎になった。もとからある主寝室は使っていなかったので、そこに新しいベッドを運びこんだ。


 めまぐるしい一日のどこでかはわからないが、阪口は晶子の両親に連絡を取っていた。その日の夜の電話で、両親は晶子に「大切にしてもらいなさい」とだけ言った。おかしなことを言うものだ、と晶子は思った。でも両親は阪口の宝物を見たこともないのだから仕方がない。阪口の、あの宝物達に触れる、美しい手を知らない。

 電話のあと、阪口は晶子に「新しい部屋は気に入りましたか?」と聞いた。

 晶子は頷いた。部屋の雰囲気は一変し、落ち着いた暗さと暖かさが満ちていた。

 続いて阪口は、「これから君がここで暮らすんです」と告げた。

 瞬きをして、晶子は室内に視線を巡らせた。カーテンも、テーブルも、ラグも、晶子が選んだ部屋だ。晶子にとって、最も居心地のよいように整えられた部屋だ。

「先生、それは何だかいけないことのように思うんです」

 なけなしの理性が上げた声は、阪口が小さな笑いでかき消した。

「何がいけないのですか?」

 阪口は透徹と尋ねた。

「君は誰のものになったんですか?」

「…………先生」

「もう一度」

「私は、先生のものです」

 口に出した瞬間、頭の芯が痺れた。

「あなたがいたいと思う場所にいられるように、私がしてあげます、あなたのために」

 瞳を揺らめかせた晶子を、阪口は、

「私とずっと一緒にいられますよ」

と、甘く誘った。

 晶子は阪口の声にすっかり酔わされた体で、こくりと頷いた。



 阪口との暮らしは、晶子を中心に、完全に阪口が整えた様式で回っている。

 例えば、その日の夜から、晶子は阪口と一緒に眠っているのだが、理由は『晶子を起こすため』だ。

 驚いたことに、阪口の部屋には時計が一つもなかった。あるのは、阪口の腕にはまった腕時計だけ。携帯電話を見れば時間はわかるのだが、携帯電話は阪口に預けてしまっていた。取り上げられたのではない、「預かりましょうか?」と問われ、「お願いします」と言ったのは晶子だ。元から、あまり使っていたものでもない。

 だから、阪口に起こして貰わなければ、晶子は適切な時間に起きることができない。そのためには、阪口と一緒に眠るのが最も都合良い。

 時間の意識が遠のくとともに、晶子の習い性―――いい子でいたい、理想に近づきたい、そうあらなければならない―――常識への準拠のようなものも遠のいていった。不思議と思考は冒されておらず、阪口に盲従することが、社会的規範から外れていることにも気づいていた。しかし、外れたからといって何なのだろう。世間は晶子の望みを叶えてくれるだろうか。

 阪口はいっそ甲斐甲斐しいと表現できるほど、晶子の面倒を見た。晶子に箸の上げ下げすらさせたがらない。人形遊びをしているようでもあり、そうなれば晶子は人形であるということになるのだが、果たして違う。

 阪口は晶子が自分の意志を示すことに拘った。生活の端々で問われる。

『逃げますか?』

 晶子は答えを探す。





 殆ど毎日、阪口の車で、一緒に職場である学校へと向かう。阪口は堂々と晶子をエスコートする。最初は戸惑ったが、誰も何も言わないので、こういうものかと今では晶子も受け入れた。

 職員室に入ると、教頭は相変わらず晶子につっけんどんだが、同僚教師達が晶子に話しかけてくるようになった。

「それで、お式はいつなの?」

 晶子よりも幾分年上の女性教師に聞かれて、晶子は首を傾げる。それを見た女性教師の顔が赤く染まる。不審に思ってのぞき込むと、もっと赤くなる。

 女性教師は、晶子が答えるよりも前に、阪口を見つけて逃げ出した。晶子は何のことかわからないままだ。職場で見る阪口は、とても凛々しくて格好良い。晶子は、阪口に微笑んだ。阪口からは表情の薄い会釈が返ってきた。


 公然と阪口の彼の姿を見つめることができるようになったのが嬉しい晶子は、阪口に認められたいと打ち込んでいた仕事も、より一層がんばろうと思えるようになっていた。

 もう一月も経てば卒業式だと思うと感慨深い晶子である。最近は生徒達にも舐められることはなくなって、なぜかよくなついてくる生徒も現れた。皆一様に「かわいい、かわいい」と小動物にでも接するようにひっついてくる。

 生徒達は、時に晶子に「阪口せんせって、家だとどうなんですか?」と聞いてくることもある。晶子は、阪口について尋ねられるということだけで、きっととろけるような表情になってしまうのだろう。阪口に連なると思われることが嬉しい。生徒達は呆れた様子で散っていく。

 校内でも、阪口の視線を感じる。それに振り返っても良いのだ。晶子は幸せでならない。

 晶子が周囲に与える印象はがらりと変わった。阪口の庇護に入り、それこそ花開くように、美しくなった。見かけではなく内面から、艶やかに変化した。おどおどとひとの顔色を伺っていたばかりいた陰気な娘は、あどけなく素直な笑顔を向けるようになった。そんな晶子に惹かれる人間も少なくはなかったが、彼らはすぐに、晶子の視線が常に阪口に向いていることに気づき、ため息をついて顔を見合わせるのであった。




 もうすぐ春になる日差しは暖かい。晶子は職員室から中庭を通って教室へと向かっていた。

「先生」

 呼びかけられ、振り向くと一人の男子生徒が立っている。木嶋だ。

 まだまだ木々は春の支度の途中だ。彼もまた、成長期の途中だ。大人になるまでの大切な蛹の時期にある。

 さあっと風が吹き抜け、晶子の髪を散らす。阪口が結ばない方を好むので、晶子の髪は下ろしたままだ。柔らかな黒髪が晶子の小さな顔の周りを踊り、肩に落ちる。

 彼はしばらくじっと晶子を見つめてから、口を開いた。

「先生はそれでいいの?」

「何のこと?」

「先生、おかしいよ。前の先生はもっと、びくびくしてて、臆病でさ」

 おもしろいことを言うものだ。晶子は笑った。全くその通りのことを生徒に指摘されてしまった。笑ってから、木嶋の言葉を、潔く受け入れられることに気づいた。

 晶子は臆病者なのだ。

「阪口のことだって、避けてたじゃん」

「木嶋君の言うとおり、私は恐がりなの」

 恐れているものが何かわからないくらいの臆病者。だからこそ、長い間じっと息をひそめて、確かめ続けたのかもしれない。

『逃げますか?』

 形になりつつある晶子の意志は、問われる度にはっきりと、対峙する形で鮮明になる。

 晶子は阪口に捕らわれることを恐れているのではない。晶子は阪口に解き放たれることを恐れているのだ。

 この腕は本当に、確りと自分を閉じこめてくれるだろうか。この永遠に終焉はやってこないだろうか。

「だから、勇気を出して、ずっと望んでいたところに帰ったの」

 晶子は微笑んだ。また風が吹き、晶子の唇に一筋の髪が残った。晶子はそれをゆっくりと払った。木嶋は息を飲み、逃げるように駆けていった。



 いつものように阪口と一緒にマンションに帰り、阪口の作る夕食を取る。外食は殆どない。今日の夕食は和食だった。阪口は家事全般が得意で、晶子は全く張り合える気がしない。

 朱唇皓歯とは美女の形容だが、阪口の白い歯が、肉の脂にほんのりと色づいた薄い唇の間に覗く様の艶かしさ。食事は、晶子の頭も腹も満たす。

 食事の後に、阪口が授業での相談を聞いてくれたり、チェスなどのゲームをすることもある。風呂を使った後の阪口は、洗ったままの髪で、黒いパジャマの襟が湿っている。学校でのスーツの印象が強いから、いつもより深く覗く胸元に、晶子は妙にどぎまぎしてしまう。

 クイーンの駒をもてあそびながら、ふと晶子は尋ねた。

「先生はどうして家事が上手なの? 先生だったら、やってくれるひとたくさんいるでしょう」

 晶子は丸く襟の開いたピンクのパジャマを着て、その上にガウンを羽織っていた。昼間の緊張がほどけて、床に座っていた姿勢が崩れると、阪口が自分の膝に晶子を寄りかからせた。

「自分のテリトリーに入られるのがいやなんです」

 掃除や洗濯も、阪口が手早くやってしまう。晶子は興味津々でその様子を見ているのだが、洗濯物を干すところまで様になっていて、腹立たしい位だった。晶子の下着まで阪口が洗おうとして、慌てて取り返したことを思い出して、晶子はクイーンを取り落とした。以来、下着は入浴時に自分で洗って、目隠しをしてベランダに干している。

「そんなこと言ったって、つきあっているひとがいるんでしょ」

「今はいませんよ、ほっとしましたか?」

 そう言われると、そうでもない。世の女性は見る目がないのだろうか。いやまさか、と阪口の言葉が胡乱に思えてきた。

「先生の好みのひとって、どんなひと?」

 阪口は小さく噴き出した。

「君がそれを聞きますか」

 子供扱いされていると感じるが、親しさの表現でもあるように思われるから、嬉しくもある。阪口にはきっとお見通しだろうから面白くない。

 晶子は阪口との暮らしの中で、幼い頃の無邪気さをそのまま取り戻しつつあった。過去と現在がたるみなくつながる。阪口への希求が過去から現在への連続を貫いていた。

「私の好みは、そうですね。前にも言ったとおり、私は独占欲が強いので、それに耐えられるような女性でしょうか」

「たくさんいそう」

 羨ましげに答える晶子の腹に阪口の手が回り、抱き寄せられる。

「そんなことはありません、大体は愛想を尽かされて逃げられてしまいます。蝶みたいなものです。すぐに飛んでいってしまう」

「そんなのひどい。折角先生が捕まえてあげたのに」

 言ってから、晶子は自分の言葉に深く納得する。阪口から逃げる蝶が悪い。逃げられた阪口がかわいそうだ。阪口ならきっと、蝶を愛でてくれる。死ねば針を打ち、ずっとずっと閉じこめ続けてくれるだろう。

 阪口の腕に力がこもった。肋が軋み、息が詰まる。

「せんせ……苦し…………」

「ずっとね、逃げない蝶を待っていたんです」

 力がゆるみ、正面から引き寄せられた。阪口が晶子の髪を梳く。眼鏡の向こうの阪口の目には、長い髪をそのままに流した晶子がうつっている。晶子は、阪口に与えられた服を着て、阪口の手から食べ物を与えられ、阪口の手で連れ出され、また戻ってくる。

「私だけのかわいい蝶をね」

 阪口の手が、パジャマの上から晶子の体を辿る。優しい手つきで、うっとりとするような、けれどどこかそわそわする触り方だ。晶子が望むから阪口は晶子に触れる。触れられるほどに嬉しい。かわいがられたい一心で、晶子は阪口に体を預けた。

 耳元で阪口が囁く。

「私の晶子」

 頭の芯はぼうっとして、体は熱くとろけていく。脳裏に蝶の鱗粉が舞うように光が瞬く。

 阪口の書斎にはたくさんの標本が眠っているはずだ。また、見せて貰いたいと晶子は強く思った。

「先生、逃げないの、って 言って」

 すっかり力の抜けた体を、阪口が抱き上げる。阪口が立ち上がると、ぐんと重力がかかって、まだ自分の体が無くなっていないことに驚く。

 阪口は晶子の腕を自分の首に回させた。

「もう、言いません」

 阪口は明かりを落としながら、廊下から寝室へと進む。ゆらゆらと揺らされながら、闇が徐々に深まっていく。

 ベッドに下ろされる。柔らかな褥が晶子を受け止めた。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 ぽ、と僅かな光が灯る。まだ闇は満ち切っていない。

 横たわった晶子の傍らで、阪口は座して本を開く。晶子は阪口のわき腹に頭をすり付けた。

 大体いつも、枕元の灯りで読書をする阪口の横顔を見ているうちに、晶子は眠ってしまう。



 夢の中、晶子は蝶になっている。手のひらで作った繭の中で、羽を休めている。かわいいね、手の主の声がして羽を動かす。かわいいね、ずっとこの中においで。

 ずっとここにおいで。


 阪口の声は漆黒のビロードに似ていた。晶子を包み、誰の目からも隠してしまう。

「逃がしてあげてもいいと思っていたんです」

 夢うつつに聞く阪口の囁きは、ぞっとするほど優しい。よく研ぎ澄まされた刃の放つ輝きに似ている。恐ろしいのに引きつけられてやまない。

 眠りの淵にある晶子の体が震える。阪口は晶子の体を抱きしめた。

「ほら、こうしていれば大丈夫」

 阪口の胸に抱かれているうちに、晶子の体の震えが収まり、甘い寝息が戻ってくる。あどけない寝顔。阪口は晶子の唇を親指で辿った。

「もう逃がさない、捕まえたよ」

 晶子の唇が笑みを結ぶ。



 時折、阪口の目に、ほの暗い炎が揺らいでいるのが見えるときがある。そう遠くない未来、阪口はきっと、その炎で晶子を焼いてしまうだろう。炎の中で晶子は晶子の形を失う。生まれてくるのは何だろう。晶子は阪口の唇を瞼に受けながら夢想する。

 きっと、きっと美しい蝶が生まれるはずだ。

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