FLY HIGH

あたしは今、プライベートジェット機に乗って、遠くマイアミへと続く大西洋上空を飛んでいる。

撹拌しながら巻きついてくる薄い綿菓子みたいな雲海から飛び出すと、どこまでも青い海と空が眼前に広がっていた。


LINDAと親友兼個人秘書の小鳩菖蒲にかつがれて、憤慨させられてからまだ3時間と経っていないのだ。

もしも、目隠しして耳を塞がれていたなら、あたしはトレジャー・ハンターというよりも、バラエティ番組に拉致されて、世界の果てに連れて行かれる芸人といった方が相応しいだろう。

こうしていてもなんだか狐につままれた様な気分だわ。


でもまあ、今は取りあえず、このリッチな旅を楽しませてもらうことにしよう。

どっしりとした重厚な本革製のシートに奥深く身を沈めると、ライラックの心安らぐ落ち着いた香りが鼻をくすぐった。

寝不足気味の瞼は魔法が掛かった様に重くなり、あたしは抗うことを諦め目を瞑ることにした。



食後に頼んだキール・ロワイヤルの泡が弾けて立ちのぼる細長のカクテルグラスを傾けていると、イケメンな白人スチュワードがタブレットPCを手にやって来ると、あたしの傍らにかしずいた。


「CANDY HEART様、ウォルター会長より、テレビ電話が入っております。」


「まさかまた、タチの悪いジョークじゃないわよね?」


「は?」


「いいの、ごめんなさい。こっちの事だから気にしないで頂戴。出るわ。」

あたしは苦笑いをして、PCを受け取る。



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