WILD WILD WEST
ホテルのバー・カウンターに移動したあたしは、お疲れ様のコロナビールと、シェイクダウンのモヒートを渋めなウェイターにオーダーした。
日本では近寄り難いのか誰もあたしに寄りつかないけれど、こういう海外のバーなんかでは、周りから声を掛けられることがよくある。
第一にあたしがイイ女だからってのが前提には有るんだけど、残念ながらそれだけが理由じゃない。
じゃあ何が困るのかっていうと、ただナンパ目的で口説かれるというだけではないからなのよね。
老若男女問わず、往年のシネマファンが、いそいそとスマートフォン片手に近づいて来たらまず要注意だわ。
そりゃまあCANDY HEARTのスカジャンを身にまとってる訳だから、興味の的になるのは致し方ない。
CANDY HEARTは、彼らにとっていまだに銀幕の中の人気キャラクターなのだ。
あたしがまだ一般の女子高生の頃だったなら、街でこんな女を見掛けたなら、間違いなくキャーキャー騒いで押し掛けているだろう。
ただ中にはあたしをコスプレイヤーだと勘違いする人がいて、記念スナップを撮らせてくれとか、一緒にセルフィーに写ってくれとか頼んでくるのだけは、閉口する。
気の毒だけど、そういう輩には、早々にお断り願うことにさせて頂いてる。
なんたってあたしは現役バリバリのトレジャー・ハンター・2代目CANDY HEARTなのだから。
本物のプライドが許さない。
てな訳で、ここのカウンターに座った瞬間から、好奇の視線を浴びてるのを感じとっていた。
コロナビールを飲み干した辺りから、奢りたくてウズウズしてる男達がソワソワし始める。
タダ酒にありつけるのは、正直有難い時もあるけれど、今日みたいな危ない目に遭った日は、結構荒れ模様だから気をつけて。
陳腐な台詞を吐こうものなら、目の前のカウンターにジャックナイフを突き立ててやるから。
荒くれ者達の中に、単身女ひとりで乗り込んでいくワケだから、かなりヤバい状況に陥る時もある。けどだからと言って、映画の中じゃあるまいし、何処でも銃を出してたら、こっちの命の方がまず保たない。
分かりやすく例えるなら、西部劇と同じ理屈ね。
後出しで射殺する分には、正当防衛が成立する世界なの。
だから、如何に丸腰でコトを収められるかがまずは重要で、銃はあくまで最終手段として取っておくことよ。
とはいえ、初めのうちは大抵我慢出来なくて、所構わず、2丁拳銃をぶっ放していたもんだから、えらく物騒なルーキーが現れたって話題にのぼったみたい。
そこらのトレジャー・ハンターの親父さん達にもなんだかんだと可愛がられる様になっちゃったもんだから、ここぞって危険な仕事の時にはサポートしたり、してもらえたりの機会も増えてきた。
相身互いでセーフティを確保する余裕が生まれたのは、あたしが成長した証と言えるのかな。
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