第2話 愛馬

「家から一時間なんて遠いね」ため息を吐きながら宗馬ね言った。

「グダグダ言うなよ。ほら着いたよ」

「広いね〜。鷹先乗馬クラブ?」

「そうそう俺も親父が経営してる乗馬クラブなんだ。そょう年少女たちに馬の良さを知ってもらいたいって作ったんだって」

「へぇーいい人だねお父さん」

「まぁ、単なる趣味だろうけど」

「こんにちわ、今日から障害跳べるからって早く来すぎじゃない? 宗馬君」と言ってきたのは、鷹先乗馬クラブの経営者の鷹先冬馬さんだ。

 鷹先冬馬さんは、優馬の8つ下の弟だ。

「こんにちわ」

「あれ? 隣の子は?」期待の眼差しで宗馬に質問してきた。

「こいつは幼馴染の愛莉だよ。馬術を始めたいから見学にきたんだって」

「初めまして本間愛莉です!」

「そうなの! 初めまして私は、宗馬のお父さんの弟の冬馬って言います。ここの経営を任されてるんだ。宜しくね!」

 宗馬は、足早に更衣室へと向かっていると冬馬が、声をかけてきた。

「障害は!藤田さんに教えてもらってね」

「わかった、サンキュー冬馬さん」

 冬馬が、着替え終わると馬場には、藤田さんが立っていた。藤田さんは、優しそうな顔立ちの方だった。その横には、太陽の光で黒々と輝いている馬が立っていて。藤田さんは、その馬をローゼンスターと言っていた。

「ふーじーたーさーん」と元気よく宗馬は言った。

「おぉー宗馬! 今日から障害だからってはしゃぎすぎじゃないか? ローゼンの馬装はやっておいたぞ」

「ローゼン! 今日から障害跳ぶから宜しくな!」

 ローゼンは、高崎厩舎に所属していた競走馬で引退を理由に競技馬となり、ローゼンのオーナーから許可をもらって宗馬がローゼンを譲り受けたのである。

「俺の愛馬はかわいいなー」

「宗馬君は、ローゼンにベロベロだな」

「だって初めての愛馬だもん!」

「早速始めるか!」

「はい!」

 返事と共に宗馬は、ローゼンを騎乗した。ローゼンは乗りやすい馬で宗馬と相性もいいようだ。

「じゃあ70cm(障害の高さ)から跳ぶか」

「えっいきなり70cmですか?」

「ひっそりとして家で練習してるのは知ってるからな! 初めて乗れる〜とか言っといてさ」

「そうですか(汗)すいません。でもどうして知ってるんですか?」

「この前、優馬さんの家に行った時、家の馬場で練習してたの見たんだよ」

「なるほど!」

「おしゃべりはそれくらいにして始めるよ」

 宗馬が足でローゼンに合図を出したら、勢いよくローゼンは駆け出した。

(タイミングは、バッチリだ)


ブルンブルンフンッ


 勢いが落ちることなくローゼンは、障害の前で跳んだ。宗馬は、ビビることなくローゼンをコントロールして第1障害を飛び越えた。今回の練習は、第3障害まであり第3障害目は、第一第二障害よりも10cm高い110cmとなっている。


(よしあと二つ)

「慌てずに飛べよ」馬場の真ん中から藤田さんが注意を促した。


パカラッパカラッパカラッ


(よし跳んだ!)

 宗馬の合図でローゼンは、100cmより20cm高い120cmほど跳んだ。

「馬に余計なスタミナを、使わせるな!」眉間にしわを寄せながら藤田さんは言った。

 藤田さんは、馬術のことになると鬼のようにかわってしまうのだ。その鬼のような藤田さんの指示は、前しか見えていない宗馬の耳には、入っていなかった。


パカラッパカラッパカラッ

 ローゼンのペースが段々と早くなってきた。

(よしあと一つ)


ザッザザ〜

 砂がこすれるような音がした。その瞬間宗馬は……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天才ジョッキーJr. 麒麟 龍馬 @13711371

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ