出られない部屋の話

「ハーッハッハッハッ! ハーーーッハッハッハッハッ! 引っかかったな! もうお前たちはその【部屋】の【ルール】に囚われている!」

 突如現れた【部屋】の中には、男女が閉じ込められていた。男は戸惑う様子も見せず、すぐに策を講じる。魔力を溜めているのか、はたまた武力か、【アーティファクト】に頼るのか、それはともかく、そこにあるのは圧倒的な力。全てを蹂躙するかのような力の奔流。しかし、【部屋】はビクともしない。


「ハーーーーッハッハッハッハッ!」

 笑い声はやまない。それもそのはず、その【部屋】には絶対にして不可侵の【ルール】があるからだ。【ルール】は絶対に破れない。たとえそれが強大な力を持つ勇者であろうと、強権を持つ王であろうと、いや、神であろうと、悪魔であろうと。それが【ルール】というもので、そのこと自体は疑いようもない真実、とにかくそういうことになっている。


 この【部屋】のルール。それは。

「この【部屋】は、入室時の『命の総量』を記録している。そして、その『命の総量』が変化しない限りは、貴様たちはこの【部屋】から出られない。つまり貴様らは互いに殺し合わねばこの【部屋】から出られないのだ。

 おおっと。当たり前だが術者であるワタシはその部屋の外にいる。だからワタシを殺そうったってそうはいかない。仮になんらかの方法でワタシを殺したって、その【部屋】は解除されることはない。もはやその【部屋】はワタシの意思を超えて存在している!

 また、貴様たちが仮に、遠隔で誰かを殺せるような術を持っていたとしても同じこと、あくまでその【部屋】の『命の総量』なのだから、【部屋】からは出られない。

 さらに言うまでもないことだが、その【部屋】に新たに他の生命が侵入することはない! 貴様らのどちらか、または両方が死ぬまで決して【部屋】は解除されない。

 ふむ? 時を遡ろうとしているのか。それも不可能ッ! その【部屋】のなかの時は、完全に外界と隔絶しているッ! もちろん室内はそれはそれで時間が流れるぞ。だから当然腹も減るさ。殺しあわないまでも、どちらかが飢えて死ねばそれまで。貴様らはそれまで待つのかなぁ、待てるのかなぁ、醜くお互いを食い物にしあったりせずに!!

 ダーメダメ、そりゃあ『命の総量』とは言ったさ。とは言え、それはあくまで『人間』の命だ。人間の定義ィ? そんなことを聞いてどうするのかね。貴様らの体に取り付いている小さな虫を集めたって、持ち歩いている植物を刻んだって、どう転んでも『人間』と認められるものか。そのくらい分かるだろォ、貴様らも。それが【ルール】というものさァ。

 ああ、試すがいい、試すがいいとも。気を失ったって『命』を失ったことにはならない。そぉだろう? 少しだけ心臓を止めて蘇生を試みるか? そんなのダメに決まってるさ! 死は不可逆で絶対だから死なのだよ! 可逆性のある変化は、まず認められないだろうねェ。んむ? ひょっとして試すフリをして、警戒されないうちに殺すつもりだったのかなァ。だったら悪いことをしたなァ。ハーーーッハッハッハッハッ!

 ワタシはね、貴様らのどちらが死んだっていいんだよ。どちらが死んでも戦力は激減、更に片方は相手を殺した負い目を持って生きることになる! ああ、いいとも、その部屋からどちらかが出られたら、ワタシが殺されたって構わないとも。これで我々は圧倒的に有利になるのだからネェ。

 さてどうするかね。どちらがどちらを殺すんだね。それとも緩慢に死を待つか? それもよかろう! 自分の手を汚さずに、相手が弱るのをただ見つめていると良いだろうさ! クハーッハッハッハッ!」


 勝ち誇ったように、狂ったように、笑い続ける声。その声が途切れた瞬間。


 かちゃり。

 そんな音がして、あっさりと【部屋】は消滅した。扉が開いて、が【部屋】を出たからである。


 そう。彼らは二人とも、無事に、なんのことはなく【部屋】を出たのである。


 もちろん【ルール】は絶対だ。不可侵だ。裏をかくことはできない。そのはず、ではない。絶対そうなのだ。確実にそうなのだ。【ルール】に裏などないのである。

 だが現実に、彼らは命を落とさずこの部屋を出た。


 

 それは一体何故だろうか?

(突然のクイズ)


→ 解答と解説: https://kakuyomu.jp/shared_drafts/WPEijGUyt5nCeCayeAnrKJx4O68sKfqu

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短い話 雅島貢@107kg @GJMMTG

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