クイーナ編
15
「レーティアンヌ!」
カラ城の訓練場で対戦をしたクイーナ・ペルデンガスが若きレーティアンヌに声をかける。二人は庭を歩いている。
「あなた、とっても強いのね。」
「ありがとう。」レーティアンヌは会釈した。
「ねえねえ。友達にならない?」
「友達・・・・?」
「うん!友達!」
「あ、ううん・・・」レーティアンヌには友達というものがファレンしかいなかったので、年の近い友達というのがわからなかった。
「あら、人間関係は不慣れそうね。」クイーナはくすくす笑った。
「まあ、な・・・。」
「じゃあ私が教えてあげる!友達って楽しいんだよ!」
「あ、ああ・・・。」
「カラ王!」クイーナが唐突に言って敬礼した。レーティアンヌも敬礼する。
「さっそく仲間ができたか。」カラ王は心底安心したような目で微笑んでいた。「仲間ができることは、素晴らしい事だ。お互い存分に学び合うがいいぞ。」
「はい!」クイーナは元気に返事する。
「はい!」レーティアンヌも負けじと返事する。
「レーテさん、何を思い出しているのですか。」
ヘルモが訊ねた。レーテは少し驚いた。
「相変わらず、君は察しが良いな・・・。カラの事を思い出していた。」
「レーテさんは、カラ魔王の事を激しく憎みつつも、どこか愛している。」
「ああ、腹立たしい事にな・・・。恩師に代わる存在だと思っていたのだ・・・。」
ヘルモやアラスタの機敏さを見ても、自分はつくづく鈍いとレーテは思った。どうして、あの時のカラの邪悪さを見抜けなかったのか。悔やんでも仕方がない。カラは常軌を逸していた。堕魔人でありながら高度に社会性を保つ事のできた存在であった。
「もうすぐ秘密の館にたどり着くぞ。」レーテは言った。「胎児は無事か?」
「はい。すーすー寝ています。」ヘルモは答えた。
「よし。じゃあ行こう。」レーテは金属廃棄場のような場所をがさごそとし、そして何かをゆっくり持ち上げた。
「レーテさん、手伝いましょうか?」ヘルモは咄嗟に声をかけた。
「大丈夫だ。ほら。」レーテは目で微笑みながら蓋を開けた。「行こう。」
「・・・・。」ヘルモはなんだかもどかしそうに口をつぐんでいる。
「どうした?」
「大丈夫です。行きます。」
ヘルモはレーテの後についていく。
「いらっしゃい、お、今日はまた奇妙なお客さんたちだねえ。初めまして。」
小人たちがそう呼びかけるのでヘルモはすっかり縮み上がってしまった。
「レーテさん・・・彼らは一体・・・。」
「ごく稀に、堕魔人が無力化した時に、奇跡的に意思を保つ者がいる。何をしでかすかわからないから、処分するように定められているのだが、私は研究や寂しい時の話し相手としてここにかくまっている。」
「でも、今、初めまして、て・・・。」
「彼らは何も食べもせずに生きていけるが、その代わり記憶は永久にもたないんだ。だから朝起きる度に自分たちがバーの従業員であるかのように思い込ませるように紙に書き込んでいる。」
「へえ・・・。」
小人の叫び声。「どんな用でここに来たんだい。」
「ああ、新しい従業員をつれてきたんだ。」レーテはヘルモから胎児を拾い上げていった。「こいつ。マルカレン=ゲゲレゲ、だ。」
「ゲゲレゲ?」小人は驚いた。「やつが死んだのか?」
「いいや、これはゲゲレゲの子分が、偶然生き延びた突然変異だ。」
「ほう・・・。」小人はなにやら紙に指で綴って書いている。名前を書いて登録しているようである。
「はい、登録は済んだ。」
「ありがとう、でも、彼にちょっと頼みがあって、早速しばらく連れていくよ。」
「ああ、そうか。それも書いておくよ。」
「ありがとう。」
ヘルモは混乱した。「奴ら記憶がないだろう、ゲゲレゲを覚えているのか?」
「堕魔人だったころの生前の記憶が残っているやつもいる。」レーテは胎児を肩に乗せてヘルモに答えた。
「あと、もしかして紙に書き込んでいるのは・・・・」
「そう。魔術だ。魔術は文字や絵よりもたくさんの情報を詰められる。だからみんなあの紙に登録されている初期記憶を鮮明に覚えている。」
「なるほど・・・。」
「ここで私が何を研究しているかわかるか?」
「研究?」
「堕魔人を人間に戻す手がかりだ。」
「そうなのか・・・。」
「これ無しには、みんな救われない。私の戦士活動も限界がある。」
「・・・・。」
ヘルモはその前にレーテが言っていた言葉がひっかかっていた。小人たちについての説明をする時だ。
『私は研究や寂しい時の話し相手としてここにかくまっている。』
レーテも寂しい時があるんだな・・・、とヘルモは思った。また胸の疼く感じ。
「どうした?」レーテが訊ねた。
「・・・なんでもありません。」
「ふふ、そうか。」
小人たちは適当に歌いながらふよふよと宙に浮かんでいる。
「♪世界はすでに終わっている。世界はすでに始まらない。止まった時間を巻き戻せ。止まった時間を巻き戻せ・・・。」
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