002.サバイバルの始まり②

 まずは雨宿り対策だ。

 周囲の森を再び散策し、良さそうな場所を探す。

 そうして見つけた場所。


 比較的空間があり、それでいて木々の枝が密集している。

 大丈夫そうな場所は見つけた。

 目印をつけてからベッドの側まで戻る。

 黒鬼の力を使い、近くのよさそうな木を何本か伐採。

 ベッドの横幅よりも十センチ程大きめに板にしていった。


「職人なわけじゃないし。凸凹になるのは我慢するか」


 今度は出来た板を先ほどの場所に運んでいく。

 ベッドの縦幅を超えるように並べる。

 黒鬼化全開のまま今度はその上にベッドを移動させた。


 その後、壁がモヒカンのように生えてる床を持ち上げた。

 ベッドの真上の枝の密集している地点へ移動。

 木の一つに飛び上がり、そこから密集地帯にジャンプ、極力静かに置いた。

 それなりに太い枝が密集してるからか重量的には大丈夫そうだ。


 再び木に登った俺。

 今度は一緒に持ってきたビニールテープを使い、モヒカン床をずれないように固定していく。

 事前に床に開けといた複数の穴。

 そこにビニールテープを通し、木に縛り付けて固定。

 もちろん床の木目の溝にそって僅かに傾斜をつける事も忘れない。


 俺は更に、置いてきたままのダンボール等を移動させる。

 ベッドの下に入れれる物はそこに収納した。

 これでとりあえずの作業は完了だ。


 そうこうしている間に暗くなり始めている。

 残った木の板を衝立のようにベッドの外側に配置。

 無いよりはまし程度にしかならないけど、とりあえずの寝床が完成した。


 そして夕食は再び味気の無い肉を焼いて腹を満たす。

 鉄串や鉄板網も湖で洗い終わり、俺は特にする事もなくなった。 

 ベッドの上で寝転がりつつも、現在の自分の状況について改めて考えてみた。


 どうやらそれなりに疲れていたようだ。

 状況を整理し、考えをまとめる間もなく眠ってしまう。

 突然始まったサバイバルの最初の日は、こうして終わりを告げた。


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 朝と言うには早い時間に目覚めてしまったようだ。

 まだ少し、周囲が暗い。

 寝起きは悪くないはずなのだが、なんだか思考がうまく働かない。

 それでも何とか、起きてしまった理由を鈍い五感を働かせて考える。


 しばらくしてやっと気付いた。

 何かの音がする。

 耳を澄ますと、少し遠くから何かの泣き声が聞こえていた。


「鳴き声か!?」


 湖の方からのようだ。

 梓と梢を携えて、俺は極力静かに音のする方に近づいていく。

 そうして木々の間から見えてきた光景。


 そこには青い鴎のような鳥が群がっていた。

 更に注意深く目を凝らしてみる。

 どうやら、昨日氷漬けで放置した肉を貪っているみたいだ。


 氷を薄く張りすぎたのか?

 ほぼ融けきっておりほとんど残っていなかった。

 唖然としてしまい追い払う事も忘れる。

 しばらくその光景を見続けていた。

 寝ぼけていたのかもしれない。


 俺が近づいたからなのか?

 貪りつくしたからなのか?

 飛び去っていく。


 その後には、本当に何も残っていなかった。

 丘の上で呆然と青い鴎の一群を眺めていると、何か大きな影が通り過ぎる。

 その影は青い鴎の一群に突っ込んでいった。


「赤い大きな鷹!? いや、でか過ぎるだろ!?」


 十メートルはあるだろう巨大な鳥だった。

 巨体にも関わらず、その飛行速度は侮れない速さ。

 赤い鷹に追撃され、散り散りに逃げていく青い鴎。


 何度か赤い鷹が旋回して、俺を見つけたようだ。

 その嘴には、噛み砕かれたらしい、青い鴎数羽分の足や羽が見えている。

 青い鴎を追うのはやめて、こっちに向ってくるように見えた。


「何故だろう? 恐怖は感じないな」


 その鳥特有の鉤爪のような足を、俺に向けながら降下してきた。

 俺は足に力を集中、赤い鷹に向かい飛び上がる。

 突っ込んでくる赤い鷹の胸部を、八つ当たりのように蹴った。


 血を撒き散らして飛んでいく赤い鷹。

 湖の真ん中辺りまで弾き飛ばした。

 飛び上がる事もなくそのまま沈んでいく。


 見掛け倒しだけの鳥だったのか。

 正直そう思った。

 だが、それは大きな間違いだと後々気付く事になる。

 理由はわからない。

 でもこの世界では、俺の力は自分が思っている以上に強大なようだ。

 サバイバル二日目はそんな事件から始まった。


「ああ、もっと考えて攻撃するべきだったな。あの鳥食べれそうだし」


 湖に沈んでいく大きな赤い鷹を中心に広がっていく赤い色。

 強化して蹴りはしたのだが、まさかこんなあっさりと倒せるとは思ってもいなかった。

 だからと言ってわざわざ泳いでまで引き上げようとは思わない。


「朝ご飯どうしようかな。魚でも獲るか」


 沈んでいく赤い鷹は放置して、湖の側ぎりぎりに立つ俺。

 右手を前にかざして心の中で念じた。

 手から迸る衝撃波が湖に吸い込まれていく。


 巨大な波飛沫が湖に起こり、その振動が湖中を電波していってるはずだ。

 威力は調整したつもりだが、それでも予想以上の数の魚が浮いてきた。

 相当数の魚がこの湖に生息しているのだろう。


 浮いてきた全ての魚をロックオンし、更に念じる。

 俺に引き寄せられるように湖岸に飛んでくる魚達。

 簡単に言えば引力で引き寄せたのだ。


「二十四匹か。それにしても湖なのに思ったよりもいろいろな魚がいるんだな」


 眼前には本当に多種多様な色の魚がぐったりしている。

 珍しいのでは七色の魚なんてものもいた。

 その中で見た目的に食べれそうな魚と食べれ無そうな魚に分けていく。


 結局食べれそうなのは十八匹。

 残りは湖に戻してあげた。

 小柄な魚ばかりだったが、四匹を残して氷で覆って簡易冷凍にする。

 念のため昨日よりは氷を厚めにしておいた。


 七匹を一塊にして氷の塊二つにした。

 その上に残りの四匹をのせて昨日焚き火した場所へ向かう。

 鉄串を持ってきてなかったので、一度ベッドの所に取りにいった。

 その途中で、青に輝く綺麗な蝶に目を奪われた。


 火を起して鉄串に魚を刺して焼いた。

 若干深海魚っぽくて見た目あれなのから焼いて食べてみる。

 これが案外おいしかった。

 しいて言うなら鮎に近いかもしれない。


「一昨年に鮎を食べる為だけに、余市町まで連れて行かれたんだっけな。突然俺が消え去った後どうなってるんだろう? まぁ急いで戻る必要も感じないか」


 何だかしんみりとしてしまった。

 とりあえず塩が欲しい。

 この魚、塩焼きにしたら絶対もっとおいしくなると思うんだよね。


 焼き魚を四匹平らげてみた。

 結局俺の好みに合うのは最初の深海魚っぽい見た目の魚。

 湖の側で鉄串を洗った俺は、ベッドのある簡易住居に一度戻る。

 梓と梢をさっき戻ってきた時に、そのまま置きっぱなしにしていた。


 危機感なさすぎだよな。

 念のため忘れないようにしないとだ。

 それに服も何とか手に入れたいな。


 梓と梢を装備した俺は、まずは湖の外縁を一周する事にした。

 目印に木の板を一枚スタート地点に突き刺す。

 対岸が見えないから、それなりに大きい。

 大きさは予想以上だった。


 一周してスタート地点に戻るまで、おそらく昼頃までかかった。

 途中で休憩したとはいえ、時間で言うと五時間とか六時間とか歩いてる。

 先がどうなってるかはわからない。

 だが湖は、いくつかの川と繋がっていた。


 湖の形は瓢箪型で俺は瓢箪の底側から歩いていった形のようだ。

 誰かが住んでいるような痕跡は一つも見つける事は出来なかった。

 まさか未開の地とかだったりするのだろうか。


 とりあえず簡易住居に置いてきた鉄串と、氷の塊の一つを持ってきた。

 氷を粉砕して魚を取り出す。

 再び焼き魚にして腹を満たした。

 焼き魚を頬張りながら今後どうするべきか考える。


 森の更に奥を行く、見つけた川の一つに沿って歩いてい見るのも手だ。

 他にもいくつかな候補が思い浮かぶ。

 結局俺は、森の更に奧に言ってみる事にした。

 森である以上何処かでその森が切れる場所があるはずだ。

 自分のいる場所を中心に、活動範囲を広げていかなければならない。


 焼き魚を食べ終わり、後片付けも終わらせた俺は再び歩く事にした。

 ちなみに今回の魚はスケールを小さくした鮭みたいの三匹。

 それとししゃもっぽい魚が四匹だったけど、どれも微妙だった。


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 歩き始めて二時間は経過してると思う。

 現実の時間で言えば十五時とか十六時なんだろうな。

 まだ二日しかたってないのに、その前の生活が遠く感じるな。


 森は相変わらず続いていて、自分の考えが甘かった事を認識する。

 それでも若干森の鬱蒼さが軽減してきてる気もする。

 でも、ただの気のせいかもしれない。


 座れそうな岩を見つけたのでそこで休憩する事にした。

 実は昨日木の板を作っていた時に、簡素だけど水筒的なものもこしらえた。

 中には湖の水を入れている。

 その為、一応水分補給は問題ない。

 見た目綺麗だったし、きっと大丈夫だろう。


 もし大丈夫じゃなくても、実際どうしようもない。


「考えてもしょうがない事か」


 ふと気配を感じて視線を上にあげる。

 凶暴そうな一メートルぐらいの猿が三匹。

 嫌な感じで俺を見下ろしていた。

 何か敵意の視線で見られてる気がする。

 顔は猿そのものなんだけど毛が血の色みたいに真っ赤。

 手足も毛に覆われている事を考慮しても筋肉質な感じがする。


 こいつらの縄張りなのか?

 それとも肉食の猿とか?

 そんな事を取りとめも無く考えている俺。

 突如、三匹が一斉に踊りかかってきた。


 こんな所で争うのも馬鹿らしい。

 それでも降りかかる火の粉なので、納刀したまま叩きのめす。

 予想外に弱かった。

 三匹ともあっさりと意識を手放して転がっている。


 他にもいると面倒くさいので、俺はその場を後にした。

 帰路につくべきか進むか迷い、進む事にする。

 帰りは夜の森を進む事になるという事を、考えてはいなかった。

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