black ogre

zephy1024

第一章 美小鬼王編

001.サバイバルの始まり①

「何がどうなってこんな所にいるんだ!? 俺は!?」


 俺の名前は黒牙 晶人(クロガ アキト)。

 身長一七ニセンチ位の十六歳。

 一九九八年四月四日生まれだ。

 高校一年だが学校には余り行ってない。

 さして必要性を感じてないからだ。

 留年するようならやめればいいと思ってる。


 特殊な家庭事情ではあるが、それが理由で行ってないわけじゃない。

 中学生になった頃から、育ての親の仕事を手伝うようになった。

 正直、最初はあまり乗り気ではなかった。

 今でも率先して手伝おうとはしてない。

 ただ、そのお蔭で、たぶん学校では教えてくれないような知識もある。

 仕事の関係で内容はかなり偏ってしまってはいるけど。

 そんな俺でも今の状況をすんなり飲み込めたかと言えば否だ。


「とりあえず、ここは何処だ? 実は夢の中の世界で、眠っているだけなんじゃないかと思いたくなる状況だな」


 北には見た事もない何処かの湖。

 たぶん名前はあるんだろうけど、地理は苦手だからきっと知らない。

 洞爺湖とか摩周湖、琵琶湖なら知っている。


 南と西、東は鬱蒼とした森。

 近くに古城なんかがあってもよさそうな雰囲気だ。

 だが実際にここにあるのは、俺の寝ていたベッド。


 「確か、昨日の夜は普通にベッドで眠ったはずだよな?」


 拉致られたとは考えにくい。

 ベッドも一緒に拉致する意味がわからないし。

 そもそも、何故床や壁が円状に切り取られている?

 何かに飲み込まれたって方がまだ説得力がありそうだ。

 そう考えると一つだけ、思いつくものはある。


「とりあえずここが何処かわからないと動きようもないな。でももし思ってる通りなら、異世界になるのか? そんな馬鹿な?」


 周囲を見渡しても何か目立つようなものはない。

 携帯は・・・テーブルの上に置いたままだった。

 だけど、残念ながらそのテーブルは見当たらない。

 切り取られた床の位置から考えると、テーブルは範囲外のようだ。


 日の入り具合から考えてみると、早朝という時間だと思う。

 ベッドの下には救急箱。

 後は日本刀と拳銃。

 どちらもある少女の形見の品だ。


 日本刀は黒牙梓(クロキバアズサ)という、人名みたいな名前。

 銃の方にも黒牙梢(クロキバコズエ)という人の名前のような名称が付いている。

 こいつはS&M M645をカスタマイズしたらしい。


 一緒に並べられているマガジンが一つ。

 既に入っているマガジンは牽制用の奴だ。

 どっちも不思議な文様みたいなものが施されている。

 正直文様の意味は、よくわからない。

 そう言えばなんて読みかちゃんと聞いた事なかった。


「漢字から勝手に呼んでるけど。コクガシとコクガショウの可能性もあるか。まぁ、今となってはどっちでもいいや」


 食料はもちろんあるわけない。

 水は湖があるから、何とかなりそうだ。

 食住はなんとかなりそうだけど、衣が問題か。

 俺は上下とも黒のパジャマの格好のままだ。


 とりあえず伸びと屈伸をして心を平静に保つ努力をした。

 いろいろな事件に借り出された経験があるからかもしれない。

 良くわからない状況にも関わらず、思ったよりは冷静に状況を分析したつもりだ。

 ベッドはあるから寝るのには困らないけど、雨とか降られたら大変だな。


「うん、対策は後で考えよう。まずは付近を散策しようかな」


 一丁の銃を腰にいれ、一振りの日本刀を手に持って歩く俺。

 普通ならこの格好で外を歩けば、銃刀法違反で捕まってもおかしくない。

 そんな事を考えながら森の中に入ってく。


「迷子になったら困るのでってある意味既に迷子か」


 とりあえず木の幹に定期的に、傷をつけて歩いて行く。

 傷をつけるのには、親父から受け継いだ力を使った。

 ちょっと大型の鹿っぽい生き物。

 木の実っぽいもののなっている木。

 それなりに食料になりそうなものはありそうだ。


 視界の先十メートル位はあるだろうか?

 小型の鹿っぽいのがこっちを見ている。

 さっきのとはどうやら別種のようだ。

 毛の色がかなり地味。


「若干気が引けるが勘弁してくれよ」


 黒牙梢(クロキバコズエ)を構える。

 正面を向いている鹿っぽい奴の額を狙う。

 銃口から放たれた黒い半透明の弾丸が、狙いを違わず命中。

 鹿っぽい奴はその場に崩れ落ちた。


 この銃は普通の拳銃とは違い実弾は発射されない。

 マガジンは存在する。

 ただ、そこに溜めるのは霊力とか妖力とかそんな類の力だ。

 装弾数は十発で、力の強い人が溜めれば相応に威力も上がるらしい。


 ポッケに入れてるマガジンの方は本気で力をこめたもの。

 なので、使えばそれなりの破壊力が出るはずだ。

 使う機会があるのかと問われると疑問なんだけどね。


 うん、牽制用のはずだけど、鹿さんの頭が木端微塵になってました。

 おいしく頂くから勘弁してね。

 知識として叩き込まれてはいた。

 こんな知識何に使うんだと思ってたけど。

 だけど、まさかリアルで解体をする事になるなんてな。


 でも刃物ってこの刀だけだよな。

 しょうがないよね。

 とりあえず鹿さん担いで戻るとしようかな。


 俺は鹿さんを担いでベッドの側に戻った。

 湖の近くに移動。

 まずは放血をする。

 その後、試行錯誤しつつ鹿の解体作業に没頭していた。


 ちなみにこの黒牙梓(クロキバアズサ)という刀も、銃と同じで特別製。

 俺の特異な力を纏わせて、切断力を上げたり出来る。

 他には斬撃を飛ばしたり、刃の射程そのものを伸ばしたりも可能だ。


 その為、力を纏った上で使えば、手入れの必要はない。

 必要だったとしても手入れの方法なんて教えてもらってないから無理。

 無駄な消費を抑える為に、あえて黒鬼の力は利用しなかった。

 不思議とそのまま利用しても綺麗なままだからだ。


 そんなこんなで、俺は試行錯誤している。

 指導された当時の記憶を思い出しながらの作業。

 思ったよりも時間かかっているようだ。

 切り取った部分は、近くの木々から拝借した綺麗そうな葉っぱで包んでいく。

 俺の体が空腹を訴え始めた。

 気付けば恐らく昼過ぎだろうな。


「そりゃお腹も空くってもんだな」


 戦闘でしか使うことがないと思っていた魔法。

 まさかこんな所で役に立つなんて誰が予想しただろう。

 枯れ木を拾い、なんとか魔法で火をつけることにも成功。

 どうやって焼こうか考えてなかった・・・。

 刀に刺して焼くのはさすがに気がひけるなあ。

 一応形見なわけだし。


 何かないかベッドの下のダンボールを探してみる。

 二年ぐらい前にバーベーキューに使った鉄板網と鉄串があった。

 なつかしさに少し涙ぐみながらも、鹿の肉を適当にぶつ切りにして鉄串に刺す。


 転がってる岩を四角に切って、火の周囲に配置。

 何とか鉄板網を固定した。

 適当な大きさに切った鹿の肉。

 鉄板の上で焼いて食う。


「うん、食えるけどおいしいとは言えない」


 一応ではあるが食料は何とかなりそうだ。

 臭みと味にさえ文句言わなければ。

 俺は、とりあえず焼いた肉で腹を満たした。


 一息ついてから、少し小高い丘の上にあるベッドから湖に移動した。

 降りた湖はとても澄んでいて、魚が泳いでるのが見える。

 最初っからここの魚を獲れば、こんな苦労しなくて済んだんじゃないか。


 後の祭りって奴ですね。

 非情にショックだ。

 今までの努力が水泡に帰した気分だ。


 ・・・とりあえず、戻るか。

 残りの肉はどうしようかな。

 燻製ってどうするんだったか?


「確か煙で燻すんだったかな?」


 うん、駄目元でやってみよう。

 失敗してもまた狩るなり、魚を獲るなりすればいいさ。

 しかし、燻製にするのは断念した。

 どうやって煙の上に吊るすか方法が思いつかなかったからだ。


 どれぐらい持つかわからない。

 だけど、残りの肉は魔術の氷で覆った。

 その上で、丘の隅っこに並べる。

 これが後にちょっとした問題の発端になる。

 だけど、この時点ではそんな事思いもしなかった。


 とりあえず、人心地ついた俺。

 ここは元いた地球じゃないのかもしれない。

 そう思い始めていた。

 何が理由ってわけでもない。

 ただ、真夜中に起きた時の微かな記憶で、月のようなものが二つ見えた。


 森の中を歩いた時に、不思議な鳥をみたのも理由の一つかもしれない。

 そして何よりも目覚めた時の自分の状況。

 とある小説投稿サイトにある異世界物みたいな、そんな風にも感じる。

 まさかリアルで自分自身が体験する事になるなんて思ってもいなかった。


「神様って奴がもし本当にいるのだとしたら、俺なんかに何を求めているのやら?」


 そんな事考えてもどうしようもないか。

 雨を凌ぐ方法を考えないとな。

 寝てる最中に雨に降られるなんて御免だ。


 俺の目に入ったのは円形に切り取られた床。

 壁の反対側もそう言えば何があるか見てなかったな。

 たぶん隣の学生の荷物なんだろうけど、ビニールテープとダンボールが二つ。

 ダンボールの一つにはいろいろな食器が入っていた。

 もう一つのダンボールを開けてみると大量の本。

 何冊か手に取って中をパラパラと捲って見る。

 読んだ感じでは、小説やライトノベルのようだった。


 返す事が出来るとは思えない。

 何かの役に立つ知識とかも書かれているかもな。

 時間あるときにでも読んでみる事にした。

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