放課 ~Mary, Mary, quite contr~

(1)

「犯罪とは、至高にして思考の芸術でなければならない。また、殺人とは、その最たるものとして、芸術以外の理由でなされることは赦されない」



 逆光の中、自らに背を向けて、いわおのような声音で語るその人物を、少年は見詰めている。



「この世界に正義である、悪であるという定義を持ち込むことは愚者以前の、盲目暗愚、無知蒙昧なやからの為すことだ。正義とは、悪とは、どちらも詭弁であり、表裏ひょうりであり、無価値な価値観でしかない」



 巌のような男性は黒一色の格好をしている。少年にはそれが、喪服と呼ばれる類のものであることが解っている。

 自らも同じものを身にまとうが故に、知っている。



「正義はない。悪はない。だが、それでも敢て詭弁を弄するのならば、生命にとっては生きることこそが正しく、それを奪うあらゆるものは悪なのだ」



 故に、他の命を喰らわねば生きられないすべての生物は悪であり、命を糧に生きるからこそ、生存し続けなければならない呪いにかかっているのだと、その男性は語る。

 少年は、それを無言で見詰めている。



「命が生きることは正しく、その正しさを貫くためには悪を為さねばならない。罪深き仔羊ストレイ・シープの、それが宿命だ。だからこそ、殺人は芸術でなくてはならない。芸術以外の理由で、人は人を殺してはならない」



 男性が、振り返る。

 逆光の中で、その双眸が――燃え盛るような黄金の瞳が、少年を射抜くように見つめていた。



「許せ、我が愛しい息子よ。オレは、お前を赦せない。この世の誰も、もはやお前を赦すことはない」



 少年は。



「贖いに生きよ、望むがままに生きよ。その魂の呪縛を知りながら、その魂のあるがままにお前は生きよ」



 少年は。



「問おう――お前は、何者か」



 少年は、答えた。






























「僕は、森屋帝司郎。犯罪王の――名を受け継ぐ者」





























 かくして少年は、その黄金の魂に純白の王冠を抱く。

 それが、荊棘つみの王冠と知りながら――

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