虚実の蜃気楼 第2話

小笠原はガタンという金属音で目を覚ました。彼女は何時の間にか居間で寝ていた。テーブルの上には空になったアルコール飲料が幾つか空いていた。彼女は薄暗い中を夜目を利かして伺う。人の気配があった。


「起こしてしまったかい?」聞き慣れた陰宮声が小さく囁く。


小笠原はふと毛布が自分の上に掛けられていたのに気付いた。ゆっくりと毛布を退ける。隣には海野が寝息を立てていた。


「如何したのですか?」小笠原は髪を掻き上げて眠い目を擦る。


「ストーブの灯油が切れたから入れただけの事」その言葉に小笠原は時間を尋ねる。「まだ六時だ。今日は忙しくなるから未だ休んでいなさい。昨日は遅くまでノン出ていたのだろう?」


小笠原が覚えてるのは二時まで山岸と海野、そして茜の四人で年越しを楽しんでいた。居間を見回すと山岸と海野が寝息を立てていた。どうやら茜は自室に戻っていたようだ。香雲や修行僧は新年のお勤めがあると年が明ける前に本堂へと向かいそれからは会っていなかった。智子も早めに元日は忙しいのでと早めに就寝していた。


「智子さんはもう朝御飯の支度をしているんですよね。なら手伝わないと」小笠原はそう眠そうに言うと徐に起き上がる。


「寝ていなさいと言っているんだ」陰宮は溜息を吐く。「食事の準備の手伝いは奥様からも大丈夫と言われている。今年は例年よりも人手が多い。それだけでも助かっているんだから、奥様のお言葉に甘えてゆっくりと休んでいなさい」


小笠原が「でも」と言葉にしようとすると、陰宮はすぐに「でも、じゃない。休んでいなさい」と口にすると静かに居間を離れた。


陰宮は母屋を出る。手には白い陶器の皿と細長い竹を持っていた。伽藍の隅には腰ほどの高さに育った笹等の植物が育っていた。彼は屈み竹で植物を優しく叩く。そして滴り落ちた朝露を皿に集める。


「何をしているんです?」陰宮の背後から声がした。


「休んでいなさいと言ったはずだけど」陰宮は振り向かずに朝露を溜めた。「寒いから母屋に戻りなさい」


「大丈夫ですよ。厚手のコートを着てますから」


陰宮は手を休めずに溜息を吐く。「朝露を集めている。今日は令嬢と護摩を行う。その際に使用する符の為の朝露だ」


「符って御札ですよね。朝露を使うのですか?」


「朝露で墨を磨るのが正しい作法だ。符然り、梵字然りな。何時もは緊急だったりするから貴船神社の神水や修験者の修行場である瓜割の水を使用している。まあ、この不動明王の加護を得た朝日山の湧き水も偶には使う。だが、今日は新年の祝い事。偶には正式な作法でしないと仏や八百万の神に愛想が尽かされる」


小笠原が陰宮の隣に屈む。「何か面白そうですね」


一瞬手を止めて怪訝な顔で彼女を見た。「君こそ、物好きだな。蓼食う虫も好き好きと言うがな。十分に休まなと本当に大変だぞ。君達が想像している以上にこの寺の正月は人が来る」


「分かっています。でもそれなら先輩も休まない」小笠原は微笑む。「それにまた寝ちゃうと受付所を開く九時まで起きられない気がして」


陰宮は十分程朝露を黙って集めた。そして徐に立ち上がり離れへと足を向ける。


「もう終わりですか?」小笠原が彼の後ろを付いていく。


「どうせ、山岸達はぎりぎりまで寝ているのだろう」陰宮は振り返る「一人で起きているのも退屈だろうから御茶を一服煎れてあげよう」


***


焚き上げ場に張られた垂れ幕の中に朱の法衣を来た茜が静かに藁で編まれた座布に座っていた。垂れ幕の向こうからは初詣客の賑わいが聞こえた。時刻は間もなく九時になろうとしていた。


焚き上げ場の中央には木が組まれていた。それを挟むように経台が二つ置かれている。茜の前に置かれている経台には三巻の巻物が置かれていた。一方の経台には金剛鈴こんごうりんと呼ばれる金色に輝く鈴と曼珠沙華と蛇の紋が入った文箱、そして鉄製の香炉が置かれていた。香炉からは白い一筋の煙が上っていた。


「茜ちゃん、会長に言われたとおり母屋から持ってきたんだけど……」垂れ幕から段ボール箱を抱えて山岸が顔を出した。その顔色は不安と恐怖が入り交じっていた。「これ、何処に置けばいい?」


「あ、山岸さん。有り難う御座います。それは隅の方なら何処に置いておいて構いませんよ」茜はゆっくりと立ち上がる。「顔色が悪いようですが、昨日飲み過ぎたんですか? 未成年だから駄目ですよ」


山岸は首を振る。そして段ボールの上部を茜に見せて「これが不気味で……」と答えた。段ボールは縄で厳重に閉じられ、何枚もの札が貼られていた。何枚かは梵字で書かれており、上部の一枚だけ感じで「封」と力強く書かれていた。


「あのさ……これの中身は何?」山岸は段ボールを置く。「会長に中身を聞いたら不気味に、知らない方が良い事もあると言って、何だか気持ち悪くてさ。これと同じようなのがあと五個あるんだけど、俺は大丈夫だよね」


「大丈夫ですよ」茜は笑う「中身はただの写真とか霊感商法とかで売られた御札とかですから」


「本当に大丈夫なのかな。こんなに御札が張ってあるのにただの写真とかって」


「写真と言っても所謂心霊写真の類ですが」茜の言葉に山岸は背筋を凍らす。「だから大丈夫です。本当に危ない写真だったらすぐにお父さんが供養しますから」


「危なくない心霊写真ってどんなのだろう」山岸は段ボールを閉じている縄を解こうとする。


「止めなさい」陰宮の声で山岸は手を止めた。


振り返った山岸は目を丸くする。陰宮の姿が初めて見る格好だったからだ。黒い烏帽子に背に赤い刺繍が施された黒い狩衣、そして白い袴に黒い雪駄。何時もの法衣姿では無かった。茜も初めて見るのか口を開けたまま彼を見つめた。


「偶々光や雨等の偶然が重なって俗に心霊写真と呼ばれるものになったもの。または故意にそのように作った写真といった方が正しいか」陰宮は狩衣の袖から小さな黒曜石の刀を取り出す。「だが、人に見られ心霊写真と勘違いする。そうなると少なからず人の邪念が生じる。それにより偽物が本物へと変貌する事もある。また一枚では害のない写真でも複数枚が集まれば害する写真となる」


山岸と茜は陰宮の言葉を上の空で聞いた。段ボールの中身についてよりも陰宮の服装について疑問を持っていた。それに気付いたのか札を一枚づつ丹念に刀で切る陰宮は溜息を吐く。


「気にしないでくれ。口五月蠅い輩の口封じの為にこの格好をしているだけだ」


「あっ、はい」山岸は慌てて陰宮の話していた写真について聞く。「どうして段ボール一杯に写真があるんですか。ましてや集まれば害をする写真を」


「この寺には仕事上でテレビ局や放送局と関係がある。時折番組で心霊特集があるだろう。ああいった番組で視聴者から寄せられた写真を纏めて供養するために運ばれるんだ」陰宮は段ボールを開けると刀印と呼ばれる印で空を切る。「だが、寄せられた写真のほんの一握りの写真は本当に危険な御魂が写っている。そういったものはすぐに供養する。だが、それ以外のは害の無い写真は供養するための焚き上げに使用する木材の高騰で後から纏めて供養するために保管している。まあ、お寺の裏事情というものだ」


山岸は開けられた段ボールから幾つかの写真が見えた。画面全体に白い球状の何かが無数に写っているもの。森の写真だろうか、木々の葉が巨大な人の顔に見えるもの。山岸は薄ら寒い物を感じた。


「さて、山岸。これと同じような段ボールがまだ母屋にあっただろう」陰宮は自分の座るべき場所に足を運ぶ。「すまないが全部持ってきてくれないか。くれぐれも勝手に開けるな。害の無いと言えども開けた瞬間に邪気を浴びて憑かれやすくなる。新年早々憑かれたくはないだろう」


山岸は頭を掻いた。人間、見るなと言われた方が見たくなるのが性分。世界中でも「見るなの禁忌」が山とある。有名なギリシア神話のパンドラの箱であったり、昔話の鶴の恩返しであったり。山岸もまた陰宮の言葉で好奇心が疼いた。


***


陰宮と茜は焚き上げの為に組まれた木々を挟んで座った。初めての焚き上げで茜は少し緊張していた。手に握られた珊瑚で出来た二連の数珠が幾度と掌で転がし、緊張を紛らわせていた。


陰宮は経台に置かれた文箱を開け、一枚の何も書かれていない札を取り出した。そして今朝集めた朝露を文箱に入った硯に流し入れると丁寧に墨を擦り始める。しばしの時間、茜は陰宮の作業を見ているだけだった。


墨が刷り終わると、利き手とは逆の右手で筆を持つ。筆に墨が染みこむと勢いよく札に梵字を書く。札には五つの梵字が書かれた。それらは五大明王と呼ばれる明王の梵字を表していた。五大明王とは不動明王、降三世明王ごうざんぜみょうおう金剛夜叉明王こうんごうやしゃみょうおう大威徳明王だいいとくみょうおう軍荼利明王ぐんだりみょうおうの五つの仏の事である。


「では、始める」陰宮は静かに不動根本印を結んだ。


茜は陰宮の言葉を聞くと一巻の巻物を勢いよく広げる。そして不動根本印を慣れない手付きで結んだ。陰宮は最後の準備をしている茜の見て呼吸を合わせる。


「「のうまく さうまんだ ばさら だん かん」」


二人の声が重なり響く。不動明王の真言である火界咒が唱えられる。それを七回唱えられた。


二人の声が一度止まる。陰宮は先程書いた札を縦長に半分に折ると香炉に入った墨で火を移した。空いた手では印を結んでいる。始めは黒く燃えた札であったが、陰宮が幽かに息を吹きかけると小さい火種と変わる。すかさず火を組まれた木々の間に入れた。


組まれた木々が徐々に大きな火に包まれる。陰宮と茜は降三世大印と呼ばれる印へと結び変えた。


「「おん そんば にそんば うん ばざら うん はった」」


それは魔を屈服させると言われる降三世明王の真言だった。この真言と印は様々な行法に使われ、時には魔を退散させる法として、またある時には結界を張るために用いられた。


火が何時しか組まれた木を全て覆い尽くした。その時には火の柱と化していた。すぐ近くに座している二人にここで決定的な違いが現れる。火の勢いで吹く熱風を浴びる茜は額から汗を流す。そして時折熱さのために顔を背け、真言も途中で切れ始めた。一方陰宮も同じ状態でありながらも額に汗は浮かび上がるも顔を背ける事はなく一途に火柱を見続ける。そして真言もまた綺麗に唱え続けた。


何度降三世明王の真言を唱えただろうか。熱さで意識が朦朧としている茜に澄んだ音色の金剛鈴が聞こえた。


「さて、写真を供養するよ」陰宮は立ち上がると山岸が持ってきた段ボールから写真を手に取ると勢いよく火柱へと放り込む。「あとは私が遣る。令嬢は休みなさい」


「どうして?」茜は法衣の袖で額を拭った。「私の真言が下手だったの。それなら次は気をつけるから」


「違うよ。焚き上げ供養、つまり護摩は荒行の一つ。初めてではまず遣り通す事はまずは不可能。それに猛烈に喉が渇いているだろう。脱水症状が始まっている。すぐに水分を取らないと倒れるよ」


「でも……それじゃあ、お兄ちゃんはどうなのよ」


「君とは遣っている年数も違うし、経験も違う」陰宮はある程度写真を放り込むと再び自分の持ち場に戻る。「それにもう遣るなとは言っていない。しっかり水分を取り、十分に休んだらまた行えばいい」


山岸が再び垂れ幕内に段ボール箱を持って入ってきた。入るなり巨大な火柱が立っているのに少し驚いた表情を見せた。


「良いところに来た。令嬢を母屋まで連れていって休ませてくれ」


「えっ、俺がですか?」


茜は「自分一人で行ける」と仏頂面で陰宮に答え立ち上がる。が、思った以上に脱水症状が起こっているのかふらつく。山岸は持っていた段ボールを地面に置くと慌てて茜を支えにいった。


「大丈夫?」山岸は顔色を見ると火による熱さので顔が真っ赤に染まっていた。


「母屋の冷蔵庫に水枕があるから水分を取らせて、冷やすようにしてくれ」


山岸は分かりましたと答えると屈んで、茜を担ぐ姿勢を取る。始めこそ、遠慮していた茜だったが自分の状態が考えているよりも酷いと悟ると素直に山岸の背に体重を預ける。そして急いで母屋へと向かった。


「やはりいきなり護摩行は無理か」陰宮はそう口に漏らしながら金剛鈴を鳴らした。


「「御側に候」」陰宮の背後に頭だけを表した二匹の式神が現れる。


「すまないが令嬢の様子を看てくれないか。あの子は御前に似て負けず嫌い。本調子に戻らなくても本調子と無理を通す子だ。十分に休むまでの間頼む」


「「しかして、どちらが参りましょうか?」」


「哭天翔、君の方が相応しいだろう。哭天翔は令嬢に看て、珀天翔は待機だ」


「「御意」」


哭天翔は高く駆け上がり母屋の方へと向かう。珀天翔は再び地面へと沈み消えていく。


「さて……続きをするかな」降三世根本印を結んだ。


***


「如何した?」海野が母屋へ向かう茜を担いだ山岸に近づき声を掛けた。「何かあったの」


「少しのぼせただけで大丈夫です」茜は顔を当たる外気の冷たい風を心地良く感じた。「海野さんの方こそ、受付所を離れて何かあったのですか?」


山岸は「サボりですか?」と軽い口調で話しかけようとしたが、「サ」という一言口にしただけで鬼の形相で海野に睨まれて口を閉ざした。


「実は今、厄払いをしに来た女の人が一歳ぐらいの子供と一緒に来たんだ。で、私は子供が苦手だから渚に厄払いが終わるまで子供の面倒を見て貰おう事にしたんだけど、その子供が泣くわ、喚くわ、噛みつくわと凄い子供なのよ」


「まさか、俺に面倒事を頼みに来たんですか。俺も子供は苦手ですよ」


「違う」海野は山岸の意見を一蹴する。「その子供の様子を見て智子さんが、虫かもしれないからチビを呼んできてと言われたの」


「虫?」山岸は首を傾げる。「虫って何です?」


「私が知るかよ」海野は苦い顔をする。「茜ちゃんは解る?」


「いえ……ちょっと解りません」


「解らないか。チビはあっちに居るんだよね」海野は焚き上げ場を指さす。山岸と茜は同時に頷く。


少し小走りで海野は焚き上げ場へと向かった。山岸は母屋へ向かおうとする。


「山岸さん、お母さんの所に連れて行ってくれませんか?」


「えっ、でも会長から水分を取って、冷やすようにって言われているんだよ」


「母の言う虫が凄く気になるので、御願いします」


山岸は仕方がないと智子が居る本堂に向かう。表から入ろうとしたがあまりにも人が多すぎたために裏から本堂に入る事にした。受付所では智子と見知らぬ老人の方がおり、手際よく蝋燭や護摩用の木札を販売していた。背負われ顔を真っ赤にした茜を見て智子は手を止めようとしたが、茜自身が手で大丈夫だと示すと躊躇いながらも参拝者の方の対応をした。小笠原と海野が話していた子供の姿は見つけられなかった。辺りを見回す山岸に茜は香雲等が使用している控え室にいるのではと呟く。


山岸は受付所に茜を下ろすと飲み物と水枕を取りに母屋へ向かおうと再び裏口から出る。


「あっ、山岸さん」本堂を出ようとした山岸を茜は呼び止めた。「すいませんが、塩も持ってきてくれませんか」


「塩?」山岸は首を傾げる。「うん、解ったよ」


去っていく山岸を見届けると茜は腰を下ろす。そして自分の顔を手で扇いだ。


「ねえ、哭天翔」自分の隣に何時の間にか座っていた哭天翔に尋ねた。「塩を何に使うの?」


山岸に塩を持ってくるように茜に言わせたのは哭天翔だった。哭天翔は「虫封じに使うのですよ」と呟く。茜には意味が分からなかった。


***


「先輩」暴れる子供を優しく宥めていた小笠原の前に狩衣を脱いだ単衣姿の陰宮が現れた。


「疲れが表情に出ているよ」陰宮は溜息を吐く。「だから休めと言ったんだ」


陰宮が現れた事により子供は一瞬大人しくなった。知らない人が現れたからだ。人見知りをする子供だった。だが、それも一瞬の事、再び大泣きを始める。


「大丈夫だよ。ほら泣かないでね」泣く子供を慌てて宥める。あまりにも大きな声で泣くため本堂で厄払いしている香雲達に迷惑を掛けないように努めていた。「もうすぐお母さんが戻ってくるからね。泣かないでね」


香雲達が厄払いの合間に休憩する部屋に小笠原達は居た。時折参拝者が鳴らす銅鑼や香雲の唱える重低音の真言に子供は身を震わし、暴れていた。


「紛れもない虫だな」陰宮は子供の目の前に座る。「すまないが手を見せて貰うよ」


不安そうに陰宮の行動を小笠原と海野、茜が見つめていた。陰宮が子供の左手を見る。小さい弱々しい手だった。次に右手を陰宮は見た。だが、左手と違って素直に手を見せず、触ろうとすると噛みつこうとしたり、手を振り解こうとする。


「チビ、虫って何だ?」


「疳の虫の事だ」陰宮は暴れる子供の右手を掴もうとする。「よく言うだろ。子供が暴れたり夜泣きをする原因は疳の虫が騒いでいるからって」


その言葉に誰も反応を示さない。初めて聞いた顔で陰宮を見ていた。


「今は言わないのか。昔は年配の方々なら虫封じの方法を知っているものなのに、時代は変わったという事か」


「チビ、凄く年寄り臭い」海野が吐き捨てる。「大丈夫なのか」


「まあ、放っておいても大丈夫だが、この様子なら母親が大変だからな」陰宮は子供の右手を掴むと辺りを見回す。「塩は無いのか」


「あ、今山岸さんが取りに行っている」茜が興味津々で子供の手を見つめながら答えた。「虫封じってどうやるの」


陰宮は、誰にでも出来ると答えると山岸が来るのを待った。しばらくすると「塩の置いてある場所が解らなくて」と息絶え絶えの山岸が控え室に入ってくる。塩が入った琺瑯の容器を陰宮に渡し、一緒に持ってきた天然水を茜に渡そうとした。


「令嬢、すまないが水を少し使わせて貰う」茜は受け取った瞬間に飲もうとしたが、我慢して陰宮に渡す。


容器の蓋を開けて塩を一つまみ握る。そして子供の右手に振りかけた。


「布瑠部 由良 由良……布瑠部 由良 由良……」


陰宮はそう唱えながら暴れる子供の右手の掌を指で撫でる。他の一同はその指先を見ていた。すると何かが現れる。糸のような白く細長いものが見えた。まるで何かの虫のようだった。


「布瑠部 由良 由良……布瑠部 由良 由良……」


幽かだが煙のようなものが虫から出始めた。ある程度繰り返すと煙が出なくなった。陰宮は虫を片手で摘むと、空いた手で刀印を結び虫と掌の境を切った。そして控え室に置いてあった厄払い用の符を一枚失敬し、虫を包んだ。


「あの今のは何ですか?」小笠原は子供を見ながら呟く。先程まで泣いたりしていた子供が大人しく笑っている。


「この子を苛立たせていた原因の疳の虫だ」陰宮は塩まみれになっている子供の手に天然水をかけた。「これでもう大丈夫」


陰宮が手を拭くものはないかと辺りを見回すと、小笠原は持っていたハンカチを差し出す。


「先輩って凄いな」小笠原は子供に良かったねと微笑む。「あんなに暴れていた子があっという間に大人しくなっちゃった」


「本当だな……」海野は感心の言葉を漏らす。「本当は何歳なんだ?」


「失礼だな。私はまだ二十二歳だ」陰宮は虫を包んだ札を懐に入れる。「また何かあったら呼んでれればいい」


「あの、会長」山岸が陰宮の懐を指さす。「その虫……戴けませんか」


「はっ?」


「いや、目に見えるそういった存在って珍しいですから、大学の実験器具で分析してみたいな、なんて考えちゃって」


陰宮はその言葉を聞くと口に手を当てて笑いを殺した。


「これは供養する。だが、安心しなさい。君の手にも疳の虫はいるから」


そう言われた山岸は驚きながら自分の掌を凝視する。


「大抵の大人にも疳の虫は憑いている。だが大人は自制心が強いから疳の虫が悪さをしようとしてもあまり影響がない」


小笠原や海野、茜もまた自分の掌を不思議そうに見つめた。だが、疳の虫がいるような気配は感じられなかった。


***


日が暮れ、辺りが薄暗くなり始めると参拝者の数も数えるほどになる。小笠原と海野は受付所を掃除していた。今日で彼女達の仕事は終わりだった。今日は二日、明日も多少なりとも参拝者の混雑を考えられたが香雲や智子の計らいで自分達の正月を楽しめと一日早く切り上げる事となった。


「終わった……」海野が溜息混じりで話す。「それにしてもこの寺ってあんなに人が来るんだな」


「意外だったよね」小笠原は雑巾を掛ける手を止める。「意外と言えば先輩のあの姿も意外だったな。ほら、何て言うのかな、平安貴族みたいな格好」


「ああ、あの格好ね。真っ黒な服は今回着ていなかったな」


「あの姿が見られただけでもここで働けて嬉しかったな」小笠原は口元を緩める。「話が変わるけど道琉はやっぱり成人式には出席しないの?」


小笠原の問いに海野はすぐには返答しなかった。何か迷っているのか、腕組みをしながら溜息を吐いた。その後、何か言いにくそうに話し出す。


「なあ、渚。成人式に出席しようと思うんだけど……」


「出席するの」小笠原は嬉しい声を出す。


「ただ、渚の家に泊めてくれないかな?」海野は頭を掻く。「どうせ家に帰っても親父の嫌な顔を見るだけだし、居心地悪いしさ。おばさんに頼んでくれると嬉しいんだけど、駄目かな」


「お母さんやお父さんは気にしないから大丈夫だよ。でも、やっぱり家に帰るのは嫌なの?」


「帰らないけど一度は逢おうかなって考えているんだ。本当は成人式にも出席しないって考えていたけどさ、言われたんだ……子供の心配をしない親はいないんだから一生に一度の晴れ舞台ぐらい帰らないと駄目だよって」


「それって、もしかして道琉の彼?」


海野は曖昧に誤魔化す。以前付き合っていた彼と別れた後に良い人と出逢えたと話は聞いていた。だが、小笠原はどういった人なのか詳しい話は聞いた事は無かった。


「逢ってみたいな、道琉の彼。きっと優しい人なんだろうな」


「優しく何てないぞ。成人式は会社も休みだと思うから遊びに行こうって話したら何て言ったと思う?」海野は手にしていた雑巾を力強く握る。「所属しているアマチュアのオーケストラが成人式でコンサートを行うから遊べない、だよ。あの音楽オタクめ。その言い訳で私に成人式に行けって言ったに違いない。私よりも音楽が好きなのかって言いたくなった」


「でも、それで成人式に出席するって決めたんでしょ。道琉も素直じゃないよね」小笠原は笑う。「成人式には何を着るの?」


「えっ、私はスーツだけど?」海野は掃除を再開する。「振り袖なんて無いし、借りるのも高いしさ。渚は振り袖?」


小笠原は頷く。そして髪飾りであのかんざしを付けようと考えていた。


「宜しければ、お貸ししましょうか?」夕食を作り終えた智子が手に封筒を二つ持って受付所に持ってきた。「こちらは御給金です。本当に今年は助かりました。有り難う御座いました」


頭を下げる智子に二人はいえいえこちらこそと詫びを言った。受け取った封筒には表書きに名前が書かれており、たった数日働いたにしては厚みがあった。


「あの……こんなに良いですか?」小笠原は心配そうに答える。


「ええ、少しばかり感謝の気持ちも含まれますが、お年玉と思って下さい。折角の貴重な正月の時間を戴いたのですから」智子は穏やかに答えた。「海野さん、良かったら古いくて申し訳ないのですが、私の振り袖をお貸ししますよ」


「えっ、でもそれって茜ちゃんが着るための物じゃ……」


「着物は着て初めて意味が成す物です。箪笥に大事にしまっているよりも誰かに着て貰った方が着物も喜ぶというものです」


海野のはお言葉に甘えますと頭を下げた。その表情には大切な人に晴れ姿を見せたいなと言う笑みが溢れていた。


***


茜は居間で水枕に頭を載せて横になっていた。山岸は陰宮から渡された扇でゆっくりと彼女を扇ぐ。近くにはスポーツ飲料とグラスが載ったお盆が置かれていた。


「すいません、山岸さん」茜は唸るように呟く。「何か面倒な事ばかり頼んでしまって」


「気にしない、気にしない」山岸は明るく言う。「力仕事ばかりだったから、楽な頼まれ事だよ。でも凄いよね。あんな火事みたいな火の前で二時間も座り続けられるんだから。俺には真似できないな」


二日目最後の焚き上げは茜一人で全て行った。午前中には陰宮の手伝いとして参加していたが、徐々に参加している時間が延びていった。そして最後に水分を限界まで摂取して脱水症状対策をした上で一人で行うと宣言した。父親譲りの気迫で陰宮は断る事が出来ず、異常が見られた時点で止めると約束した上で一人で行わせた。だが、最後の十五分は真言が途切れ途切れになり、意識が朦朧となり始め陰宮が止めに入った。だが茜は言う事を聞かずに最後まで強引に遣り通した。その結果焚き上げ供養が終わると同時に倒れてしまった。


「でも会長の言う事は聞いた方が良いよ」山岸は真剣な表情をする。「最後なんて俺でも駄目だって解るぐらいふらふらになっていたんだよ。もし前のめりに倒れて火に突っ込んでいたらどうする気だったの?」


茜はあやふやな記憶を呼び起こす。最後の見た記憶は珀天翔が火柱から飛び出てきた姿。陰宮が前のめりに倒れそうになった瞬間に式神を使用して後ろに倒れさせようとしたのだろう。だが、珀天翔が茜に近づく前に後ろに倒れた。いや、強引に法衣の襟首を引っ張られ後ろに倒れた。


「あの引っ張ったのは山岸さんですよね?」


「いや、その……」扇ぐ手を止めた。山岸は法衣が擦れて赤くなった首を見た。「御免ね、危ないと感じてとっさに引っ張ってしまって。跡が残らなければいいだけど」


茜は首を触る。幽かに痛みがあったが、跡が残るような傷ではないとすぐに解った。


「すいません、御心配させて」


「気にしなくてもいいよ。俺も勉強になったから」山岸はグラスにスポーツ飲料を注ぐと茜に進めた。「俺なんていつも中途半端だかね。勉強だって中途半端だしさ、家にも中途半端なジグソーパズルはあるし。だから自分で最後まで遣りきろうっていう茜ちゃんの最後は凄かったな。あれは凄いというか、怖いか」


茜は体を起こすとグラスを受け取り口を当てる。まだ熱があるのか、頭がぼんやりしていた。


その時、電話が鳴る。昔懐かしい黒電話の音だった。誰もいないのか電話の音は止まない。茜は電話を取るために起き上がろうとするがふらついた。その姿を見て山岸は代わりに出るよと居間から去っていた。電話は階段の付近の台にあった。


「倶梨伽羅不動明王寺です」


「……失礼だが、修行僧の方かね?」受話器の向こうから重量感のある低い男性の声がした。


「違います。バイトの者です」


「すまないが陰宮楓君はご在宅か」


「居ますが、どちら様ですか?」


「これは失敬、私は吉内よしうちと申します」


「今代わりますのでお待ち下さい」


山岸は保留を押そうとしたが、黒電話のためにそのような機能が無かった。静かに受話器を台の上に置くと陰宮を呼びに行った。


***


「代わりました。陰宮です」


「明けましておめでとう、星濫せいらん君」


「こちらこそ明けましておめでとう御座います。本来ならばこちらから御挨拶しなくてはいけないのですが、多忙でして申し訳ありません」


「いやいや、こちらも無理を頼んでいるんだ。こちらから挨拶するのが礼儀だろう」


「そういって頂けて助かります。して、今回は何の用でしょうか?」


「いや例の確認の為でね……本当に神津島でいいのかい?」吉内は躊躇った口調で話す。「北海道でも良いのではないかい?」


「いえ、神の集まる島だからこそ良いと考えております。それに北は危ないでしょう。黄楊つげの櫛は見つかりましたか?」


「……確かにその通りだ。黄楊の櫛を見失ってしまってね」吉内は溜息を吐く。「あれが見つからないとこちらも対処出来ないというのに。面目ない」


「あまり気になさらず……とは言えませんが」陰宮も眉を顰める。「客人が訪れる前にこちらも調べられる時間が出来きますからね。あまりにも文献や古文書が少ない故にまだまだ時間が掛かります。また町から離れた神津島ならば何か良い対処方が思い浮かぶかもしれませんし」


「そうか……解った。で何時頃を予定しているんだね」


陰宮はポケットに入れていた白い布を取り出す。開くとことりと小さい黒曜石の刀が出てきた。長さは五センチ程、刃先は欠けていた。


「もう寿命ですからね」陰宮は刀を手に取ると懐かしそうに眺める。「先生の忘れ形見というのに」


「使用し欠けたら研いでいるんだから仕方がない事だよ。……もう芳明さんが無くなってもう六年も建つのか。私も多くの事を御教授して頂きたかった」


「ええ、私も先生には教えて頂きたかった。私はまだまだ未熟ですから。そして例の件も先生なら糸口が見つけられたでしょうに」陰宮は黒曜石の刀を片付ける。「大学が終わったらすぐにでもと考えております」


「解った、では詳しい事が決まったら連絡しよう」


「宜しくお願いします」


陰宮は相手が電話を切るの待ってから受話器を下ろす。振り返ると法衣を纏った香雲が立っていた。厄払いで疲れているのか何時もの覇気が全く感じられない。


土御門つちみかどからか?」香雲は尋ねるも陰宮は明確には答えなかった。「この寺も寂しくなるのう」


「修行僧の方が居るではありませんか?」陰宮は笑う。「でも、あんまり厳しく指導しますと逃げてしまいますよ」


「ふん、余計なお世話じゃ」香雲は陰宮の頭に手を乗せる。「茜の面倒見てくれて有り難う。どうじゃった?」


「一人で出来ましたよ。頭をふらふらと動かしながらも確実に最後まで唱え続けた。あの御前譲りの根性は凄い。ただ、若い故に無謀だ。あれでは何時か自分を殺す羽目になる」


「若い故に無謀か……」香雲はわしゃわしゃと陰宮の頭を撫でた。「それは坊も同じじゃろうが」


陰宮は香雲の手を退けると、お疲れのようですから湯を張ってきますねと去っていった。香雲は視界に入っている限り陰宮の背中を見続けた。


「……黄楊の櫛……」香雲は顎を手で撫でる。「一体、何の暗喩じゃ」


***


朝食を食べ終えると小笠原は自室に戻り荷物を纏めた。今日で住み込みの仕事は終わりだった。忙しかったが自分の知らない世界を知る事が出来て勉強になり、楽しかった。


「渚、居る?」襖が軽く叩かれる。


小笠原が返事をすると襖が開く。海野が荷物を持って立っていた。


「御免、迎えが来ているから先に帰る」


「迎えって……もしかして彼?」小笠原は口角を緩めた「逢ってみたいな、道琉の彼」


「成人式の事、宜しく頼むね」海野は小笠原の問いに答えずに慌てて去っていった。


「もう、お母さんから返事が来たら携帯に電話する」通路に頭だけして去っていく海野に大声で伝えた。


荷物を纏めると一息ついた。自室の窓を開けると本堂の銅鑼が聞こえた。人の賑わいもあまり感じられない。ふと下を見ると海野が荷物を渡している男性がいた。二人は楽しそうに笑っている。


「何時もの道琉の顔じゃない」窓枠に頬杖をしながら呟く。「楽しそうだな。仲が良いんだ」


小笠原は目を細めて海野の彼を見つめるおがさわら。何処か見覚えのある顔だった。彼はこちらの視線に気付いたのか、小笠原に向かって頭を軽く下げる。海野が自分達が見られていると解ると恥ずかしそうに「見るな!!」と幾度と叫んだ。


「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ」何時の間にか部屋の前に立っている陰宮がぼそりと呟く。「不動明王の御加護がある寺なのだから、少しは静かにしてくれないか」


「あっ、すいません」小笠原は振り返って頭を下げた。「でも先輩、死んでしまえって酷くありませんか?」


「そうか?」陰宮は不敵に笑う。「だが、あの海野の怒りようはまさにそれだろう」


「あの人って道琉の彼ですよね」


「十中八九そうだろう。……その顔、似ていると言いたいのだろう」陰宮は小笠原の顔を見ながら胸ポケットから一本の煙草を取り出す。「確かに小山右衛門宗一郎様に似ているな」


「ですよね」小笠原は再び窓の下をそっと覗く。


「だから騒がしくするような真似をするな」陰宮は部屋に入り、こつりと小笠原の頭を小突く。「早く帰る支度をしないと働かすよ。折角の正月を楽しんで貰おうという御前と奥様の好意を無駄にしてはいけない。少しは海野を見習いたまえ」


陰宮は部屋を出る。階段を降りる最中も小笠原の「先輩、酷いです」という野次が聞こえた。我関せずな態度で自分の離れへと戻る。今日は焚き上げ供養は行わなかった。昨日中で全てを供養し終えたからだ。


「今年は早めに務めが終わった。さてゆっくり休むかな」背伸びをしながら欠伸をした。


離れに入ると中央の半畳を上げた。そして床板を外すと囲炉裏が現れる。押し入れか炭を取り出すと燐寸で火を着けた。火が付いた炭の上に鉄製の三脚を置くと事前に水を入れておいた薬缶を載せた。


「ようやく落ち着けるな」咥えた煙草に火を着け、白い煙と共に溜息を吐いた。「楽なのもいいが、気を遣うほうも疲れる……」


薬缶の湯が沸騰する。と同時に山岸が扉を開けた。離れは茶室の為、正座して入った。


「会長、それじゃ帰りますね」山岸は頭を下げた。


「そうか、どうする車で送ろうか?」


「あ、長谷川さんに送って貰うんで大丈夫ですよ。会長は小笠原先輩を送って下さいね」


陰宮は余計な事は喋らない方が長生きできるよと微笑みながら話した。そして手を振って別れを告げた。


離れには二着の服が掛かっていた。一着は黒い法衣、もう一着は狩衣だった。陰宮は一服御茶を煎れると服を眺めながら口にした。


「先輩、帰る支度が出来たので宜しくお願いします」小笠原が呼びに来た。


陰宮は解ったと答えると御茶を最後まで飲み干す。そして燃えている炭に灰で消す。火が消えた事を確認すると離れを出た。


智子や御前に挨拶すると小笠原は陰宮の車があるガレージへと向かう。だが、途中で足を止めた。


「どうした、忘れ物でもしたのかい?」


「いえ、違います。お参りするのを忘れていなかったので」小笠原は本堂へと足を向ける。「先輩、少し待っていて下さい」


昨日までは長蛇の列をなしていたが、本日はあまり並ばれていなかった。小笠原は賽銭の準備をしながら自分の番を待った。一分程で自分の番にある。賽銭を投げ入れて銅鑼を叩いた。そして二回手を叩き御願い事をした。御願いすると嬉しそうに陰宮の元に戻る。


「小笠原、参拝方法が違うぞ」待っていた陰宮の呆れた顔で呟いた。「寺の参拝方法は基本は拝んで、最後に一礼だ。神社じゃあるまいし、二拍はないだろ」


「す、すいません」


「よく考えればここ最近君は謝ってばかりだな」陰宮は車へと向かう。「神社は二礼二拍手一礼、だが出雲派は二礼四拍一礼。仏は神ではない。崇める存在ではなく、拝む存在。だから拝んで、最後に感謝の一礼といった感じになる。まあ、宗派により拝む最中に経を読む。取り敢えず基本を覚えておきなさい」


小笠原はただ感嘆の言葉を漏らすしかなかった。


***


明後日に成人式を迎えようとしていた。陰宮は智子の振り袖を海野に渡すために見送りに行った。彼女達は節約のためか高速バスで故郷へと帰郷する予定だった。


小笠原は海野の彼が見送りに来るのではと楽しみにしていたようだったが、コンサートのリハーサルがあるために来ないと知ると落ち込んだ様子だった。


二人が乗せたバスがターミナルから出発するのを確認すると一人帰路についた。倶梨伽羅不動明王寺に着くと山門の前に見慣れない黒いセダンが停められていた。


「来客か……」陰宮はガレージに車を入れる。


伽藍に入ると哭天翔が待ち構えていた。


「主上、ご帰宅早々申し訳ありませんが御前がお呼びです」


「何処に居るんだい?」陰宮の問いに「座敷です」と答える地面へと溶けるように消えた。


陰宮は言われたとおりに座敷へと向かう。座敷に近づくと香雲の難しい声が聞こえてきた。顔を出すと座敷には中年程の男性が香雲と座っていた。二人の間には紫の風呂敷に包まれた木箱が顔を見せていた。陰宮は頭を下げる。


「おお、坊、帰ってきたか。こちらは相田雅俊あいだまさとし様と申してな。ちょっと儂には苦手なもので坊を呼んだ次第じゃ」


「あの……こちらの方は?」陰宮の姿を見て不審そうに見つめた。当たり前の反応だった。目の前にいる堂々とした巨躯の香雲より明らかに童顔女顔の陰宮が頼りなく感じた。


「星濫と申し、術士紛いの事をしております」陰宮は正座をし、二つ名を名乗る。


「こんな見てくれだが、儂ほどの術を使う者じゃ。ご安心を」香雲は陰宮の前に風呂敷を持ってくる。「古美術じゃ。見てくれ」


陰宮は古美術と解ると一度席を離れ布の手袋を取りに自分の離れに戻る。そして、座敷に戻ると木箱を開ける。箱の中には装飾が施された木枠に填められた鏡があった。古い年代の品なのか、鏡は曇っていた。


「金属鏡で御座いますね」陰宮はそっと箱から鏡を出す。「してこの鏡が如何しました」


「実はこの鏡は古美術が好きだった祖父の遺品でして」相田はハンカチで額を拭う。「先日の大掃除で倉から見つけたのです。折角だから飾ろうとしましたら子供達が突然白い幽霊を見たと騒ぎまして……またそれから悪夢を見せるようになったのです」


「白い幽霊……」陰宮は曇った鏡面を見つめる。


「この鏡自体、祖父が何時何処で買ったのか言わずして亡くなったので、あまりにも怖く不気味に感じまして、そういった事に長けたこの寺を紹介して貰った次第です」


「まったく邪気を感じぬだろう。憑き物や物の怪の仕業とは思えぬのだが」香雲は横から鏡を覗き込む。「ところで金属鏡とは何じゃ?」


「最近の鏡は硝子にアルミニウムの塗料を塗ったものが主流です。これは十九世期に発明された硝子に銀を定着させる技術から生まれました。ですが、それ以前は光沢のある金属の表面を磨く事によって鏡とした。読んで字の如くの金属の鏡という事です。これは長年手入れされていないので表面が曇っていますね」陰宮は鏡を裏返す。木の蓋で鏡の裏側は隠されていた。「金属鏡は通常の鏡と違って定期的に研磨が必要です。相田様、失礼ですが素手で触っても宜しいでしょうか?」


相田は戸惑いながらも頷く。陰宮は布の手袋を片手だけ外す。そして目を瞑り指先に神経を集中させて鏡面に触れた。


「恐らく白い幽霊の正体は……」


「相変わらずこの手の古美術は詳しいのう」香雲は相田に自慢するように話しかける。「この子が見てくれは幼いが立派な術士、そしてその術で鏡を使用する事も多々ある。元々、鏡は己の姿を実に写す事から神聖視された。ほれ、三種の神器に鏡があったり、神社の御神体が鏡である事も多々ある。また祭事でも鏡を……」


相田がふと「大丈夫ですか?」と言葉にした。香雲は相田の言った意味が理解できなかった。尋ねると陰宮を指さす。


陰宮は鏡面に指を当てたままピクリとも動かなかった。


「どうした?」香雲は陰宮の顔を無理矢理上げる。その瞬間に血の気が引くのを感じた。


陰宮の表情は虚ろだった。そして左目がじわりと赤く色づき始めていた。徐々にどす黒い紅が瞼から瞳孔を目指して染まっていく。まるで目が血液で浸食するかのようだった。


香雲は慌てて鏡を取り上げようとする。だが陰宮は離さなかった。香雲が太い両腕で取り上げようとしているのに、片手の細腕は鏡を離そうとしない。


「何が起きているんじゃ!!」香雲が大声と共に鏡を抱きかかえるようにして奪い取ろうとした。


漸く陰宮の手から鏡が勢いよく離された。鏡は香雲の手からするりと飛び、ガタンと音を立てて壁に当たった。一方陰宮はぐったりとその場で倒れる。


相田は目の前で起こっている理解不能な状況に身を震わせていた。


「何じゃ、一体何が起きとる?」香雲は力んだ為に息を荒げていた。そして陰宮の顔を覗き込む。「長谷川!! 下北!! 直ぐに来い!!」


相田は震えながらこの事態を引き起こした元凶の鏡を見る。幾ら古美術といえども彼にとってはすでに奇異なる化け物に変わっていた。


「何ですか……この鏡は……」腰が抜けた相田は尻餅を付きながら後ろに下がった。「もういい、これを引き取って下さい。こんな遺品は御免だ……」


香雲は陰宮を心配するも、立ち上がり鏡に近づく。


「これは観音菩薩……」壁に当たった衝撃で鏡は木枠から外れていた。香雲は風呂敷で鏡を包み込むようにして持った。曇った鏡面の反対側には穏やかに微笑む像があった。「違う……観音菩薩ではない」


香雲はかつて耳にした仏像を思い出す。仏像であって仏像で非ず、しかし仏像でなければならない仏像。もしそうならば実際には初めて見る仏像だった。


「まさか……マリア観音か」



***


灯籠の炎が風に揺らいでいた。何処からか迷い込んだ山繭蛾やままゆがが灯籠の前に落ちる。羽は傷つき欠けていた。大分弱っているのか何羽を動かすも二度と飛ぶ事はなかった。私はゆっくりと手を差し出した。山繭蛾がゆっくりと手の上へ登ってくる。羽にある鳥類の眼を模した模様が私を見つめた。


「死に場所を探しに来たのでありんすか?」私は山繭蛾に優しく問いかけた。「自由に飛べるのでありんすから、わざわざ自分から自由のないこの場所を選ぶ事もないのにね」


山繭蛾は掌で大きく羽を開閉する。まるで私の問いに答えるかのようだった。山繭蛾の成虫には口という物が存在しない。蚕から出ればただ死を待つばかりの存在。それを考えると私と同じ存在のように思えた。この世界に自由という言葉はないのかもしれない。


「似たもの同士でありんすね」私は山繭蛾をそっと部屋の隅に置く。「最後の時ぐらいゆっくりして眠るでありんす」


背後に敷かれていた布団がゆっくりと動く。私は乱れた紅の着物を着直す。時刻はまだ寅の刻であろうか。格子が填められた窓からは宵のうっすらと明るくなった空に満月が空に浮かんでいた。そう言えば昨晩は長月(旧暦九月)の満月だった。


「牡丹さん」布団の中からまだ幼さを感じさせる男の声がした。


「細田様、起こしてしまったでありんすか?」私はゆっくりと立ち上がる。「まだ夜明けでありんすからまだ寝ていれば大丈夫でありんすよ。わっちは飯炊きの仕事がありんすので、ここいらで失礼でありんす」


男の名前は細田寛二朗ほそだかんじろうと言った。旗本の次男坊、まだ齢は元服して三年しか経っていない。丁髷ちょんまげに反られた頭と幼さの残る顔にはどこか違和感があった。


「身請けの話を考えてくれませんか?」部屋から立ち去ろうとした時に細田が呟いた。


「まだ酒の酔いが覚めていないようでありんすね。お若いからと言って無理は禁物でありんすよ。酔い覚ましの白湯さゆを持ってくるでありんすか?」


「私は酔っておりませぬ。本気で御座います」細田は体を起こす。侍とは思えない白く細い体が見えた。「私がまだ十九才だからで御座いますか!!」


「お静かに御願いでありんす。まだ他の部屋の方々は眠っておられるでありんすから」私は口元に指を立てる。「そのような事はつゆも考えた事はないでありんす」


「ならば、どうして」


「細田様は旗本でありんすよ。それがわっちのような幼子の時から禿かむろとして太夫に仕え、今では郭の女郎をしているわっちを娶るなど父君や母君等が許しませんでありんすよ。ましてや由緒ある旗本、世間も許すはずがないでありんす」


「父や母が如何したというので御座いますか!!」細田が立ち上がり私の腕を掴んだ。「上様も昨年の赤穂藩の浪士による事件により界隈の評判は地に落ちております。そしてやれ獣を殺すな、やれ獣の肉を食すなといった悪しきお触れ。巷では犬公方と揶揄され、水戸の副将軍である光圀公からは犬の皮で作った贈答品が送られる始末。上様ですら評判が落ちた治世、それがしの評判が下がったところで問題などありませぬ」


細田は真っ直ぐ私を見つめた。その表情は世間を知らぬ幼い少年と何ら変わりなかった。私は捕まれた腕をそっと振り解く。


「わっちは幼い時に親から捨てられた身。それを拾って下さり、ここまで大きく育てて下さった大旦那様や大奥様には恩義がありんす。恩義を返せるまでわっちは何処にも行くわけにはないでありんす」


「では御恩を返してからでも。某は何年も貴方様をお待ちします」細田は力強く言った。その表情から本気だと感じられた。


「……初めての相手と恋沙汰を勘違いしてはいけませんよ。未だお若い、わっちのような女郎でなく、良き方が必ず居るでありんすよ。それにわっちの渾名を知らないわけないでしょう」


「違います。某は牡丹さんを」


細田の言葉を最後まで聞かずに部屋を出た。私は部屋の襖を閉める際に小さく呟く。


「死神に魅入られたら死んじまうでありんすよ。努々忘れなかれ」


部屋の隅に居た山繭蛾の羽が微かだが動いた。だがそれ以降二度と動く事は無かった。


***


女郎街、花街と呼ばれる街が私達の鳥籠だった。高い塀と深い堀で外界と区別され女郎達は何時か鳥籠から飛び立つ事を毎夜のように夢見た。外界からやって来る男共にはこの町は夢の世界であるが、私達には外界が夢の世界。いや、そもそも夢の世界など幻に過ぎなかった。


この郭に拾われ花の名前を付けられたのは四歳の頃だった。十八年という長い年月を郭の中で過ごした。年月は私に両親の顔を思い出せなくしていた。


捨てられた理由は定かではない。だが推測は出来た。恐らく私がこの世ならざる者が見えたからだろう。人の死期すら見えた。郭の最上である太夫の禿として仕えた時、体を交じらせた時等に男の死期を見た。幼い時には死という意味が分からず、見てしまった事を包み隠さずに口で男共に告げた。数日後に風の噂で死期を見た男が死んだと耳にした。それが幾度もあり、偶然として済む話ではなくなっていた。何時しか女郎や常連の男共からは影で「死神」と呼ばれるようになった。


「あら、遅かったね」炊事場に行くとくず姐様が居た。竈で飯を炊いていた。「旗本の次男坊様も随分と熱心だね。毎夜毎夜通うなんてさ」


葛姐様はこの郭では古株の一人だった。だが客は取ってはいない。本来ならば二十五歳頃を年季が明けた時点で女郎街を出られるはずだった。だが姐様はそれから十年経っても郭から出る事はなく、飯炊きや張り子として住んでいた。


椿つばきから聞いたけど、次男坊様から身請けの話が出ているんだってね」


私は姐様の言葉を聞き流した。郭、女郎街から出る方法は二つある。一つは年季が明ける事。もう一つが身請けや男の妾になる事。どちらもこの鳥籠の外に頼れる人がいなければ出来ない事。


葛姐様は身寄りもなく、そして思い人もいなかった。だから郭に残る事を選んだ。鳥籠に出られたとしてもたった一人の孤独。大切に鳥籠で飼われた鳥は、大空に解き放たれた時に自由に飛ぶ事が出来るのだろうか。


「羨ましいね。あんたみたいな死神が身請けされて自由になれるなんてね」葛姐様は小さな鍋で粥を作り始めた。


私は黙って一膳の用意を行う。その間も葛姐様の羨む言葉を愚痴にしていた。


「私は身請けされるつもりはつゆとないでありんすよ」一杯の粥を器に入れ、お膳を持って炊事場から出る際に私は答えた。



***


私は一膳を持って郭の一番奥の部屋へ向かう。人気が全くない。誰も近寄ろうとはしないからだった。


部屋の前に立つ。


桔梗太夫ききょうたゆう、入るでありんす」私はそっと扉を開けた。


部屋の中には長月というのに火鉢があり、薬缶が載っていた。まだ晩夏、朝方と言えども暑さが残っていた。この部屋に入るとさらにむっとした湿った暑さが感じた。


部屋の中央には布団が敷かれていた。一人の女が横になっていた。かつては花街一番の美人と称された桔梗姐様だった。桔梗は薄く目を開けて仰向けになったまま微かに口を動かした。


「太夫は止めて頂戴。牡丹」擦れた小さな声だった。


太夫は郭の最高位の女郎に付けられる称号。桔梗もまたその称号に相応しい女郎だった。花街を練り歩く際にはありとあらゆる男達が振り向いた。さらには女郎ですら桔梗の美しさに振り向いた。凛とした真っ直ぐな瞳、ふっくらとした唇、優雅な立ち回り。すべてが憧れだった。


だが、現在の桔梗にその面影は一切なかった。端正な顔には黒い瘤が覆い尽くそうとしており、膿が滲んでいた。いや、瘤は全身に現れていた。一年前程から足を動かしただけで激痛が走った。それ以降は私は桔梗が歩く姿を見た事がない。この奥の部屋で一日中横になっている姿しか見た覚えがなかった。


「私には桔梗太夫は桔梗太夫でありんすよ。体の調子は如何でありんす?」


「何時もの事だよ。痛くて痛くてろくに眠る事すら出来ないよ」


古血ふるじと呼ばれる病が桔梗を襲っていた。郭に古くからいる者に起こる病で死病だった。


四年前、桔梗はある裕福な呉服問屋の御子息に身請けされるはずだった。当時私は桔梗の新造しんぞう(姉女郎の付き人。水揚げをしていない見習い女郎)をしていた。身請け話が決まって嬉しそうに話す姿を今でも昨日のように思い出す事が出来た。郭という鳥籠から出られるというよりも、大切な思い人一人に愛されるという事が桔梗にとって最上の事だった。


だが身請けのための準備として町医者に体を診察された時に不運が起きた。近隣で有名な町医者がそれを見た瞬間に青ざめた顔をした。女の部位に発疹が現れていた。


「……古血の始めの兆候、身請け話は御破算だ」町医者は残酷に告げた。


私には付き人して心当たりがあった。町医者に診察される半月前に桔梗はある侍の相手をした。侍は幕府からやって来た男で、大名の頼みもあり花街一番の太夫である桔梗が相手することになっていた。真面目そうな顔つきの侍。だが、微かだが死相が見えていた。私は気がかりになり桔梗に相手にする事を止めるように助言した。だが、大名の顔を汚しては郭の皆、さらには大旦那様に迷惑が掛かると悲しく私の言葉を断った。


「今になってあの時の牡丹の言葉を聞くべきだったと後悔しているよ」桔梗は苦笑いする。


「太夫、朝飯でありんすよ」私は桔梗の枕元に座るとさじで粥を掬う。


屑野菜と味噌が入っただけの粗末な粥だった。病により身請け話が御破算になった当初は呉服問屋の御子息から毎日のように精の付く食材が送られてきた。だが一月もすれば何も送られてこなくなった。今では私達が食べる野菜の屑、それが無性に悲しかった。


「昔と何ら変わりなく私に接してくれるのは牡丹、お前だけだよ」食事が終わり桔梗の口元を拭く。「他の皆は病を恐れて来やしない。来たとしても哀れんだ目で見つめられる……辛いもんだね」


私は薬を飲ますために桔梗の体をゆっくり起こした。病に冒された神経が痛み桔梗の口元が歪んだ。薬包紙に包まれた黒い粉末の薬を白湯で桔梗の口へと流し込む。「痛いの次は苦いね」と飲み終わった桔梗は笑う。


「……そういえば身請け話が出ているんだってね」桔梗の体を寝かそうとした時、桔梗がおもむろに尋ねてきた。


「何処でそのような話を聞いたのでありんすか?」


「葛やなつめ、撫子が話していたのを扉越しに聞こえてね。旗本の方だって?」


「身請け話ではないでありんすよ。若気の至りの世迷い言。そんな言葉をいちいち信用していたら女郎なんてやってられないでありんすよ」


「そうなのかい?」桔梗を細く弱々しい腕を上げ、私の顔に触れた。「私が聞いた話ではそんな風には聞こえなかったよ。牡丹は器量もあるし気立ても良い。それに私には負けるけど美人。もっと自分に自信を持ちなさい。そして身請け話がある内にこの郭から出て行きなさい。さもないと私みたいに後悔してしまうよ」


「わっちの居場所はこの郭でありんす。後悔はしないでありんすよ」


「……強がりを言って」桔梗姐様はゆっくりと私の左目付近を撫でる。「牡丹の心を頑なにさせるのはこの左目かい……この世ならざる存在を見る目」


私は何も言う事が出来なかった。


「こんな良い娘に惨い仕打ちをするとは、神様や仏様も酷いもんだね」


私は桔梗を寝かす。再び桔梗の表情が苦痛で歪む。


「……私も神様や仏様の悪口を言えないね……」桔梗は目を閉じながら小声で呟いた。


私はお膳を持って立ち上がると、部屋を後にしようと襖に手を差し出した。


「牡丹……お前に前々から聞きたい事があるんだけど、気を悪くしないでおくれ」


「何でありんすか?」私は手を止めた振り返る。


「……私はあとどれ位生きられるんだい?」桔梗の声が嗚咽混じりになる。「もう治らない事ぐらい分かっているんだよ。薬だって気休めだって事も。だけどね……この痛みがあと何年、何十年も続くかと思うともう……嫌で……嫌で……だから私が何時死ぬか知りたいんだ」


私は息を漏らす。私はどうして大切な人の死が見えるのかと唇を噛んだ。


「あと……一月程……でありんす」私は桔梗を覆っている影とこれまでの経験から割り出した余命を伝えた。


「……何だ。何年もあると思っていたのに……もうそれだけしか時間が無いのか

」桔梗は首を私の方に向けて微笑んだ。「有り難う。正直に言ってくれて。私には牡丹が仏のように思うよ。私が一人寂しく死ぬんだろうね」


私はゆっくりと襖を開けて一歩部屋の外に出た。そして静かに閉める。


「安心するでありんすよ。その際は六文銭と共に尼寺に投げますから……」私は聞こえないであろう声で呟く。「私もすぐに同じ場所に行く運命でありんすから……」


一ヶ月後、桔梗は風邪を拗らせると程なくして息を引き取った。




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