第15話 理由 


一矢には年の離れた兄がいた。一矢と血の繋がった兄なのか、そうでないのかは分からなかった。噂では。。。一矢と母親が違うはずだ。


一矢がこんなに女性に慣れているのも、物心つく頃から、美しい女性達に常に囲まれていたせいかもしれなかった。


憂はほっとしたのか、縁側の磨りガラスと透明なガラスの模様の間から、外の女性達の振り袖の着物を見るともなく見ながら、ふとガラスに映った自分の唇に手を当てた。


寒い日だから、リップクリームを忘れないように塗って行きなさいね。。。


憂の母はそう言った。でもまさか、今日、初めてのキス。。。。


そんなことになるなんて、誰も思わない。。。


ガラスに映った唇は、寒さのせいなのか、まるでガラスのように透き通っているくせに、真っ赤だった。


さっきあんなことがあったから。。。。?



憂は、もし他の人に知れたらどうしよう。。。と指先でその唇をなぞった。


こんなに赤かったら、おかしいんじゃないかしら。。。


それは甘酒のせいかもしれなかったし、慣れない着物が苦しいせいで、こんなに寒いのに、着物の中はじっとりとどこか湿っていて。。。


桃の節句に似つかわしくなく寒い日で。。。


山のせいかしら。。。


自分の吐息でガラスが白く曇り、着物姿の女性達が、まるで蝶の模様のように所々見えなくなった。

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