第16話ローラVIII

【サイド・ローラ】

 どうして? クラリスには会えなかった。

 どういうわけか、少し眼光の鋭くなったセバスチャンが、あのセバスチャンが!社長は今お留守ですと言った。耳を疑ったよ。

 クラリスが女社長?

 あの上役にいじめられて泣いてたあの子が? そんなことがあるものなのかね。

 いや、それはいいとしても。

 セバスチャンが愛おしい。かつてのように接してほしい、なのに……。

 どーいうわけ?

 どうでもいいお世辞とか、おべんちゃらなんぞ、ならべる人じゃあ、なかったでしょ!

 どうしてそんなに……冷たい目をしているの?

 仕事……どうしているの?

 へえ、出世……したんだ。

 よかったじゃない。

 おめでとう。

 でも、変よ。様子が、どっか変!

 え……?

 全部、クラリスのおかげ……?

 今ではクラリスが……奥さんで、セバスチャンが旦那様……?

 私が、いた場所は……そりゃあ貧しかったけど、ある程度安定していた。それが、底なし沼にはまったように、身動き取れなくなって、呼吸が苦しくなり……。

 私は路傍で嗚咽した。

 こんな、こんなことって……。一体ぜんたい、どっからこうなってしまったのさ! 教えておくれよ。なにが悪かったの?

 クラリス! あんた、まさか……! そうじゃないって、言ってよ! でもじゃあ、誰が、どうして私を貶(おとし)めた? 

 卑怯者! ひきょうものー! 私の人生を返せ――!


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