第15話クラリスVIII

【サイド・クラリス】

 世間知らずもいたものね。

 私が見てきた何倍も。

 だから、彼はもらったの。彼はもう下町の見習いじゃない。私のデパートの専属の仕立て屋よ。

 ほうら、見て。

 あなたを見る目はどんなかしら。今どんな顔をしているかしら。打ちのめされた自分を裏切って、金持ちの男とかけおちした恋人。

 それがあなたよ。

 駄々をこねる彼には困ったけれど、言いきかせたのよ。もう、あなたには別の恋人ができたのよって。だから、私を見て……ってね。

 ねえ、男のひとってね、仕事がうまくいくと、選ぶ女も変わるの。自分の身に引きつけて、そばに置いておく対象を決めるの。だから、私は今の地位を退くつもりはないの。もっともっと、がむしゃらに上をめざすわ。

 この感情(こい)を手離さないために。

 ああ、ローラ。かわいそうなローラ。ごめんなさいね、そしてありがとう。さようなら、ノータリンなローラ。馬鹿なローラ。

 あっはは!


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