第14話ローラVII

【サイド・ローラ】

 威勢がいいと褒められて、なるほどそうだと考えたもんだ。あんた、やっぱり見る目があるんじゃない。なのに、どーいうわけでいちゃもんつけに来たんだい?

 私が独り身かって? じょーだんじゃないよ。今更、若い旦那に囲われるご身分でもないんだかんね。

 まあ、それでもちょっとぐらいはいいかなと、思っちゃったんだよねえ、これが。連れてかれて、えっと思ったが、案の定でさあ。

 案の定、奴のパパが現れて、私を六番目の愛人にすると言う。仕方がないな。

 ところが一旦は身を引いたあんちくしょうめが、パパのいなくなったすきに、財宝をやるから、遠くへ行けとばかりにあしらう。これまた仕方がないやね。ありったけの宝石と毛皮を身に着けて、もとの下町に泣くなく帰ったよ。この間、わずか三か月。

 なんだったんだろうねえ、私の今までも、これからの人生も。

 おだてられるもんじゃないね。よくわかったよ。しょせん、縁のない世界だった。これからはこの宝石と毛皮を見つめて生活することになるのかねえ。

 セバスチャン……逢いたいねえ。

 だけど、下町の店にはもう、いなかった。

 年寄った店長が、私をしょぼついた眼で見て、名前を呼ぶからそうだよ、ローラだよと名乗ると、手紙を出してきた。

 えっと思った。だって私、字が読めないもんね。そんな私に宛てられても仕方のない手紙だ。店長だって知っていてもよさそうなものじゃないさ? ぼけちゃったの?

 けど、どういうわけだろうか……。その封筒を受け取ったとき、ふわりとアップルパイの、あの独特の香りがした気がしたのさ。

 弱ったねえ。突然クラリスを思い出してさ、店長に尋ねたのよ。そしたら、デパートにまだいるってさ。

 けど会えない。だからよしなって言うんだよ。ぷるぷるして、なにか脅えていたね、あれは。なんだったっていうんだろうね。

……寂しいね。

 あんまり寂しいから、やっぱり会いに行っちゃったんだ。

 そしたら……。


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