第13話クラリスVII

【サイド・クラリス】

 威勢がいいわね。

 やっぱり、あの人を愛しているのだわ。

 ずっとついてくる。馬車で走っても、姿が見えなくなるまで走っても。彼女の影はつきまとう。

 でもね、そう。だから、なの。ローラ。

 あなたのものだから、私はあの人が欲しい。

 私は馬車の暗がりから外に出た。一言、あの女を誘惑してと、となりの男に言い残して……。

 実際、彼は若くて金持ちだから、実行したのだろう。誘惑して口づけして、篭絡(ろうらく)した。あとは、あとは……知らない。

 私は逆の事をした。

 あらゆるつてで、彼を仕立て屋見習いの身分からひきあげ、デパートでオーダーメイドを引き受ける仕立て人として、採用させた。

 嫌で嫌でしかたがなかった支配人は、ちょろかった。味の濃い料理の後で強いお酒をがぶ飲み。あっけなくコロリ。直接手を下すまでもなかった。

 そのあとは全て私の思うがまま。上司はたらしこみ、邪魔な相手は手料理でもてなし、さらに疑われる危険性もなく左遷させた。手料理(アップルパイ)は、そう。あの日の記念碑。

 初めて、恋をしたと思った。彼が欲しいと。


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