第36話 勇者伝説と魔王伝説

 朝からテンションの高い三人娘、ってあれ? ルートがいない。


「ルートの部屋見てくるから」


 ルートの部屋の前について俺はルートの部屋のドアをノックする。


 ドンドン!


「ルート! 起きてるのか?」


 全く返事がない。もしかして、昨日の戦闘に疲れてもう嫌になって逃げたとか? 急いで部屋のドアを開ける。


 そこには机に突っ伏して寝ているルートがいた。あの状況で本当に書こうとしてたのかよ。どれだけ書きたいんだ、勇者伝説。まあ、魔王の城までくっついてくるのかは不明だが、魔物の群れに突っ込んでるのは確かな旅に同行してる時点で相当な覚悟があるかバカかどちらかだな。


「おい! 起きろ出発まで間に合わないぞ!」


 ルートが座ってる椅子の足を蹴って起こす。


「あ、ああ。あー! もう朝?」


 なんで俺のタメ口いや、すでに命令口調も、この態度も気にしないんだろ。


「早く起きて来いよ!」

「はい。はい」


 なんでこんなに軽いんだろ。この魔術師は。

 とりあえず俺はルートを起こしたんで部屋を出る。



 さて、出発だ。ウキウキな三人娘と、またもや紙の束を取り出す諦めない魔術師、そしてその攻撃を受けるはめになる魔法使い。俺らって……。いったいルートはどう書いてるんだ? どっからどう見ても勇者伝説っぽくないんだけど。



 街を出てしばらくいくと、いったいなにがあったんだろ? 凄い、道が悪い。舌を噛みそうになるんでルートですら諦めたこの道。


 ガタガタ


 って続いたと思うと普通の道になるのにすぐに


 ガタガタ


 と、酷い悪路が続く。


 しばらく行って、気づいた。地面が動いてる。この道だけではなくそこら中に。魔物の仕業か! 先の道はきれいだ。このあたりが縄張りの終わりなんだろう。そして、ボコボコの地面の中に集まっているんだろう魔物。

 もう、隠せない、湧き立ってるし地面から紫の煙。


「止めてくれ!」


 荷馬車は止まり俺が荷馬車から降り立つ。降りた音に反応してか地面が勢いよく動いてこっちにくる。

 俺は剣を持ち上げ地面を刺す。


 ドドドドドド、ドドドーン!!!


 もうドドドっていってる間に地面からモグラだな、モグラの魔物が雷と土ぼこりと共に舞い上がってる。

 昨日も近くで使って見たけどあまり近いと魔物が降ってくるから危ない。なのでこのワザは少し離れた場所の大群用にしている。便利だが、海と同じであまりやると倒れる。

 辺り一面モグラが倒れている。まあ、モグラらしさ保っていたのは爪が本物も鋭いからか。なんだよ、あの顔はモグラか? って感じで邪悪だな。


「ルート! 運ぶぞ!」


 すぐに知らん顔して座っているルートに声をかけて、魔物を道からどかす。まあ、後ろだけど、後からくる人の迷惑なんでどかす。どうやらこれが旅のルールみたいだ。

 倒したのはすぐだったけど、運ぶのは一苦労。魔物倒したら消えてくれよ。サッと。ゲームみたいに『魔物の群れを倒した』って言葉と共に消えてくれないかな。俺の願いは届かない。



 そこからは地道な戦いだった。囲まれては止まって戦い。また運ぶ。できるだけ道じゃない場所へ魔物を誘導してみた。熊なのか? すごい勢いで爪で切り裂いて来るのをかわしつつ道の外れまで行って切ろうとしたが、何箇所か切られてしまった。かすり傷だって一番わかってるのに、涙ぐむジュジュ。俺から離れないリン。大丈夫だって。幸い熊の爪には毒はなかったし。ツバキも何度も大丈夫かと聞いてくる。

 やっと街が見えてきた頃にはクタクタだ。地雷切りも何度か使ったんで疲労も大きい。

 結構大きな街だな。そりゃそうか、荷馬車はここに来たかったんだもんな。

 それにしてもここまでの危険を冒しても商売するんだな。船もそうだったけど。船を降りる時荷物がドンドン運ばれていった。きっと帰りも荷物を満載するんだろう。この荷車も荷物の隙間に俺らがいる。平和な時は全て荷物だったんだろう。

 もうただの旅人は見なくなった。代わりに商人が剣士や魔法使いや魔術師を雇う数が多くなってる。これだけ襲われるんだ。人手が足りなかったじゃ済まないもんな。切り裂かれた服を見て思う。なぜ魔物は人間を狙うのか。手当たり次第に暴れまわってるのか?



 街に着いて荷馬車を降りる。交渉の時に金額を言ってなかったんだけど一人ずつ報酬をもらえた。魔術師は少ない額だな。ジュジュも魔術師扱いだ。

 はあー。結構なアルバイト金額だけど命がけだったことを思えば少ないな。それにしても平和な時に剣士や魔法使いは何してるんだ? 魔法使いは使い道ありそうだけど。剣士は必要なさそうなんだが。



 宿に入り部屋で少し休んでニタに聞いてみる。それにしても、俺ってこの世界で育ったわりに何にも知らない。剣術や体力をつける事にばかり時間をとられて何にも知らずに育った。ニタが呆れ返るぐらいに。


「なあ、平和な時、魔王がいなくて魔物もいない時あるんだよな?」


 確か何百年に一度魔王と勇者が現れるんだよな。そして魔物も出てくる。


「うん。そうだよ。こんな時に生まれるなんて運悪いよな」


 いや、俺に同意を求めるな。俺が勇者だから。この為にこっちに転生してきたんだから。多分。


「じゃあ、平和な時に剣士や魔法使いって何してるの? 今は魔物と戦ってるけど」

「ああ、魔法使いはその力を戦いではなく、いろんな事に使ってるよ。今までも使ってたじゃない。船を動かしたり、灯りをつけたり、荷馬車も」


 ああ、そうか。船長も魔法使いだった。全く外見からはわからないが。やっぱり船長が良かったな。5人目。


「剣士は闘技場で戦うんだよ」

「え? なんで?」

「鑑賞するんだよ。闘技場は街の外れにあるんだ。結構大きいから。今は魔物が住み着いてるかもな」

「そうか」


 なるほどな、それで剣術が伝わり続けてるんだな。もしくは、そうやって次の魔王の時に備えてるのかもしれないな。必ず現れるんだから。

 あれ? 何で? 何百年にって言ってるのに次がわかるんだ? リンも船長もルートもそして村の魔術師と村人、みんな伝説読んで知ってたっぽい事言ってるがそれは前の魔王と勇者の話だよな? なんで次がわかるんだ?

 ああ、ニタ……勇者伝説に疎そうだよな。俺が魔王倒しに行くって言ったのに勇者だって思わないくらい。まあ、一応聞いてみよう。


「それでさ、なんでみんな魔王や勇者が現れる時を知ってるんだ?」

「ああ! それは魔王がこの世界に現れる前に世界中の空が紫色になるからだよ。五日間紫色の空が続いて、そこから十年後に成長した勇者が旅立つって決まってるから。勇者伝説じゃなくて魔王伝説にそれは記されてるから」


 なに! 魔王にも伝説があるのか? 書くのは誰だよ? っていうかニタ知ってるじゃないか。かなり詳しく。


「魔王の伝説って誰が書いてるんだ?」

「勇者伝説と同じ人だよ。魔王の伝説なんだから、魔王の城に行って魔王の最後見届けないと書けないだろ?」


 そうだけど、魔王にも伝説が必要なのか? っていうかなぜ勇者伝説を毎回書くんだ?


「その伝説って、何のために書かれているんだよ?」

「うーん。さあね。教訓とか?」


 ニタの話が曖昧になってきた。


「教訓って……勇者伝説って勇者が読んだらダメなんだよな?」


 未来が変わるから読んだらダメってリンに言われたけど。


「さあ、あんまり詳しくないし」

「読んでないのか? どっちも」

「うん。ないよ。さっきのはまあみんな知ってる程度の話だから。詳しく聞きたいならリンかルートに聞けばいいんじゃない?」


 あっさり切り捨てたな。みんな知ってる事……この世界の育ての親や村中が俺には隠してたんだな。隠し過ぎだよ。すっかりこんな世間知らずが出来上がってしまったし。


「いや、ちょっと気になっただけだから」


 リンもルートも聞いたら話止まらなくなって、また聞いたらいけない事も聞きそうだ。



 それから俺たちはすぐに眠った。明日は久しぶりにゆっくりできる。いや出来ないな。街が大きいのを見て三人娘ははしゃいでたしな。明日はその調子で街中をはしゃいでる三人に連れまわされるんだろう。

 ルートは宿で書きたいと言って、即断ってきた。誘ってないが、三人が街を歩きながら話をしてるのを聞いて。一応誘った方がいいか迷っていたけど、向こうから言ってくれた。まあ、昨日の様子だと本当に書きたいんだろうな。睡眠を削ってまで書いてたし。

 ただな、魔王の城に行ける気がしない。ルートそういう話のオチでもいいんだろうか。勇者伝説。そして会うかわからない魔王伝説。

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