第35話 地雷切り

二人を治療しつつ荷馬車は進む。少し時間が欲しい。他にも剣士や魔法使いいるけど人手不足なんだから。

森をようやく抜けて平原に出る。マジか、マジなのか。俺の願いは天には届かない。全く。あれをどうしろって言うんだ。こっちに直進で走ってくる魔物の群。先頭の姿を見て納得。バッファローだな。あれは。

牛との違いは白黒じゃないとこしかわからない。あの突進の凄まじさもあるのか。バッファロー的なものが。

どうしようこのままだと激突されて荷馬車ごと吹き飛ばされてボロボロになるしかない。

あ! いけるのか? このイメージ。でもやるしかない。


「止めてくれ。やる」


あの群れには商人も気づいてる。いくら急ごうが逃げられないのはわかっていたんだろう。すぐに荷馬車を止めてくれた。

一人で降りる俺に治癒途中のリンが声をかける。


「トオル! 大丈夫なの?」

「なにするんだ?」


こっちは興味深々のルート。お前俺の心配ゼロだろ!


「浮かんだんだ」


そう言うと、俺はつるぎの刃を下に向ける。頭の上まで上にあげて一気に下ろす。地面に刃が触れた途端。



ドドドドドド、ドドドーン



地面の下で唸る地響き、それが突き刺さった剣の刃からこちらに向かってくる魔物の群れに到達した途端に、地表に上がる。雷が下から上に地面から魔物を巻き上げる程の勢いで上がっていく。

おお、思ってたよりすごかった。海でもそこまでとは思わず地雷切りを使ったが、こちらも想像してたより凄い。魔物の群を巻き上がったあと、土煙が上がるだけだった。あの紫色の煙はもう見えないし、立っている魔物も見えない。どうやら魔物の群れを全滅させたらしい。


地表に少し刺さってたつるぎを抜いて、荷馬車に戻る。

ジュジュ名付ける気か? キラキラした目で俺を見てるがリンの治癒を先にしてくれよ。


「うーん。こっちが地雷切りね! 海の方を考え直さないと」


いや、いいよ。もう船乗らないから。……あれ? 俺って魔王倒したら村に帰るんだろうか?


「さすが勇者だ!」


書きたそうにウズウズしてるがツバキの治療を辞めないルート。一応ちゃんと治療する気はあるんだな。

なんとか魔物に吹き飛ばされて荷馬車ごとボロボロになるのは避けられた。今のは海での攻撃の延長だから、浮かんでよかった。ギリギリな旅だな。


ツバキもリンも治療が終わった頃に魔物に襲われた。今度は牛。白黒だったからな。


それにしても驚いたのはルートだ。ルートはツバキを完治させていた。船の上の魔術師はみんな傷を軽くする程度だったのに。なんでこんな奴がそんな強い魔術を使えるのかさっぱりわからないが、いいことなんでよしとしよう。


考えてみればニタは魔王の城の近くの街に魔法使いのところで修行する為に来てるし、ジュジュは魔王の城の向こう側の世界樹を目指してる。俺について来て魔王を倒すのに付き合ってるのはリンとツバキだけだ。勇者伝説を書くなら当然ルートは最後までついてくる。回復はジュジュには劣るが他の魔術師と比べて格段上なルートがいて良かったんだ。

まあ、そうなると指輪の数が気になるけれど気にせず旅するしかないな。

魔王……まだ無理だと思うんだけど。魔王の城ってのがもう無理な予感を呼び起こすんだが。塔でもあれだったのに、城って。やれそうな気が全くしない。



それからも戦いは続く。みんな疲労困憊だな。ルートも魔物運びで疲れてる。ルート思ってるより体力がないな、体格いいのに。まあ、治療もしてるからか。ジュジュも治癒で疲れが顔に出てる。


やっと今日泊まる街まで来た。魔物との戦いで進む距離が読めないから時間と次の街までの距離で泊まる街が決まる。

途中からルートさすがにもうみんなにもニタにも聞かなくなっていた。ルートも疲れているんだろう。書いてられないんだろう。

それにしてもルート、本当に戦闘能力ゼロのくせによく塔まで行ってさらに中に入ったよ。感心するより呆れるが。


「荷馬車の目的地に着いたら一日休憩しよう。それまで頑張ろう」


部屋に入る前に言う。ジュジュもリンもツバキもさっきまで疲れてた顔してたのに、急にご機嫌スイッチが入った。街での休みイコール買い物だろうな、多分。またついて回って注意して回るのか。俺に休みはないのか! かと言ってほっとくとどうなるかわからないしな。荷馬車に乗せてもらえなくなるって。



ご機嫌で部屋に去って行く三人、ルートも気合いいれてるのか


「よし!」


って言ってる。

今日の事でも書くんだろうな。やっぱり体力あるんじゃないか。



ニタにまたまた地図で確認してもらう。


「次は荷馬車の目的地に着けるんじゃないかな?」


それでさっきあんなに張り切ってたのかあの三人娘。


「目的地ってどこ?」


相変わらずこの世界の地図を読めない俺。世界地図で旅行しないって普通!


「今がここで目的地がここ。ってトオル前にも言った気がするんだけど目的地」

「あ、確か。まあ、いいじゃないか。ふーん」


この分で行くと……って行かないか。魔物は増えてくる。どんどん先に進めなくなるよ。船は進み続けてたけど、荷馬車は魔物に襲われる度に止まらないといけないから。

それにあっさり魔王の城についても魔王の城に入る気がしないし。

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