第37話 勇者の言い伝え

 朝が来た。起きたくない。疲れた体を休めたい。が、あの三人を街に解き放ったが最後、きっととんでもない服を買って来るんだろう。切られたりしてボロボロになった服があるから必ず買ってくる。荷馬車に乗せてもらえない団体になるのは困る。

 何を目指してるのかはそれぞれ違うけど、俺がついてないと。ニタの意見は聞き入れないのか、ニタが何も言わないか、きっと後者だろうけど、ニタに任せておけない。なんでこんなことまで勇者が心配しなきゃいけないんだ!



 三人娘は大はしゃぎで街をウロウロする。昨日までの戦闘で疲れているはずなのに。


「リン、それはあんまりだよ」

「ジュジュはいらないよな。新しい服」

「ツバキ、それ爪で切られると困るんじゃないかな」


 と、相変わらずメイド服や、なぜこの世界でメイド服が必要なのか全くわからないが、ファンタジーな服や、露出が多くて本気で魔物の爪で切られたら丸見えじゃないか! って服を次々に手にする、リン、ジュジュ、ツバキ。

 そろそろ三人ともふてくされてきた。戦法を変えて逆に無難な服を、けれどそれぞれの好みの服を選んで勧める。

 服屋の店員になった気分だ。


 お! いい! これリンに似合う!

 だんだん服屋の店員が板についてきたのか? 俺。

「リンこれすごい似合うと思うんだけど」

「そう?」

「着てみてよ!」


 すごい板についてきてるな、俺。

 着替えたリン。猫耳なければもっといいのに。


「どう?」


 なんでだ? 至って普通の服になぜ恥ずかしさが加わるんだ。メイド服を平気で着てたリンなのに。しかもそれで戦ってたのに。


「いい! すっごい似合うよ」

「そ、そう。じゃあ、これにしようかな」



 こんなやり取りが永遠のように続く。ある意味戦闘だね。そしてそんな俺たちを笑顔で見てるニタ。お前はいつも平和だな。

 ニタも俺も魔物に切られていた服があるのでついでに買う。あれこれ俺に服を持ってくるリン、ジュジュ、ツバキ。いや、ツバキのは普通だからいいんだけどツバキの選んだ服を選べば、おまけであとの二人の服もついてくる。自分で選ぶのが一番だ。これ以上気を使えない。

 ニタはまたツバキの気まぐれな推薦で高校生の私服を選んだ。ツバキのニタに対するイメージなのか?



 結局ジュジュも服を購入して、全員で服をお買い上げ。まあ、荷馬車の護衛で稼いだからいいか。




 今日も疲れた。別の意味で。服屋の店員として働いてた気がする。俺には休みがないのか?

 トントン!

 ダメだってニタ。俺の制止よりも早く返事を返すニタ。早いよ返事が。


「はい。どうぞ」


 ああ、今日も入ってきたよ、ルート。

 まあ今日は、ニタは元気だろうけどな。どうせそこをルートは狙ってきたんだろう。荷馬車での話は途切れるし途中から話する気力が失くなるし。

 今日ルートは俺がいろんな気を使ってる間に、貯めていた話を書き上げたんだろう。続きをニタに聞いている。続きだとわかるのは続きだ! 続き! ってルートがニタに言っていたから。ルート、ニタには強気だな。

 ニタのポジティブなこれまでの旅の話は精神的にダメージが大きいな。疲れたからもう俺は寝るぞ!



 翌朝早くに次の荷馬車を探す。だんだんと魔王の城に近づいている。行き交う人も減ってくるだろう。魔王の城方面の荷馬車を探して回る。

 荷馬車の商人も剣士や魔法使いや魔術師を確保するのが大変なのか、ルートがいるからかあっさりと次の荷馬車が決まる。みんなよく行くな。俺なら嫌だが。まあ、俺も向かってるんだけどな。魔王の城に。




 戦闘員が増えてる。これは次の道の険しさを物語ってるよな。もうスタートする前から。



 俺の不安などお構いなしに荷馬車は街を出て行く。



 何度も地雷切りで遠くの紫色の煙を吹き飛ばす。平原だとこれが出来るんで楽な戦いになる。



 バシュ、バシュ!



 荷馬車の天井から音がする。荷馬車が止まる。


「魔物だ! 降りるぞ!」


 経験豊富そうな剣士がそういいながら荷馬車を降りてる。俺も降りて敵を確認。あ、またあれか。鷹。ただし今回は数が違うけど。鷹って群れるっけ? そういう習性は受け継がないのか?


 俺のつるぎを振って、この刃で切らず空を切って魔物を切ってるうちに、結構な距離も切れるようになったがさすがにあれは届かない。

 こっちを狙って飛んできたのは切れるがあの数を一匹ずつなんて想像しただけで嫌だ。


「ニタ、リン頼む」


 やはりここは魔法で片付けてもらうに限る。やっぱり魔法いいよな。

 ニタは無数の氷の針を鷹の群れに刺す。リンは例のイガイガを鷹にぶつけて落として行く。一匹残らず落としたらトドメを刺すために地雷切りで鷹がもう一度空へと舞い上がる。

 戦闘終了。


 平原には鷹がつきものなのか?


 そのまま平原を突き進み、止まっては戦闘を繰り返してようやく街に入る。



 宿屋で疲れた体を休める。今日はほぼ俺だけだった。鷹以外は遠くから確認出来て攻撃できるから。楽な戦いなんだけど、あれ、地雷切り。けれど、地味に体を疲れさせる。大きな動きだがたった一瞬なのに。

 ベットに横になってそう言えば……あの熟練してそうな剣士が、なにせまだ俺以外ほとんど戦ってないから本当に熟練しているのかはわからないけど、言っていた。


「こんなにも魔物が増えてるとは思わなかった」


 それに答える商人の荷馬車の主。


「ついこの前まではこんなに酷くなかったのに」


 って、言葉を聞いてなんかみんな見あってたよな、互いの顔を。あれ、なんだったんだ?


「なあ、ニタ。魔物が多くなったって話を聞いて、荷馬車の中がなんか変な空気だったけど、どういう事だよ?」

「ああ、いや。魔物が多いんだな。って」


 おかしい。ニタの様子がおかしい。


「おい! ちゃんと答えろ!」


 起き上がりニタを見て言う。

 仕方が無いかとニタは諦めたみたいだ。


「勇者がね。その……パーティーにいると魔物が寄ってくるって言われてるんだ。あくまでも、言われてるだよ!」

 ニタは言い伝えを強調するけど、その言い伝えで今俺は勇者のつるぎを背負って旅に出てるんだ。魔王の城へと。


「俺が呼んだのか……」


 船での激闘や荷車での度重なる魔物の襲撃は俺のせいなのか?


「トオル! 勇者が魔王の城に行って欲しくないんだよ。魔物は。魔王が消えれば魔物も消えるから。狙われても仕方ないよ。それに僕らはみんなそれを知っててトオルについて来てる。今更こだわることないだろ?」


 ニタ……意外に勇者の事知ってるし。


「魔物はこの先も増えるし、僕たちが大勢の魔物をやっつければ誰も文句ないよ。あの船の船長だってそうだろ?」


 そうだ、船長は俺が勇者だって気づいても、その事を気にかけなかった。むしろ、助かったとまで言ってくれた。あの船長、お世辞を言うタイプじゃないだろ。ポジティブなニタに俺もならおう。


「そうだな、それ以上に魔物をやっつけてやればいいんだな」

「ああ、そうだ! 聞いて、聞いて!」


 急なテンションの違いにビクついたが、ニタの話は火と氷以外に雷の魔法も覚えたらしい。あ、浮かんだらしい。例のごとくみせてくれたが……静電気? ってか俺に魔法をかけるな!

 というわけで、ニタの新しいワザが活躍する場は来ないな。イタッって一応なダメージあるけど。魔物に静電気って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る