第5話 緊迫デリケート

「このクソ汚物がっ!」

 私の近くにぶっ飛んだ隊長が、ガトリングをロボットに打ちまくる。ドラマの撮影に使われる爆竹よりも、圧倒的に大きい音が叩き出されながら銃弾が撃ち込まれる。

 私は耳を塞ぎ、その場にしゃがむ。

 しかし、そんな私とは逆に、ロボットは平然と立ち尽くしていた。ガトリングから発射される銃弾をもろともせず、隊長を優しく摘まんだ。

「コノ人物ヲ攻撃対象ト認定スル」

「離せ!何をする、この汚物っ!」

 隊長はそう言いながら、ガトリングをロボットの頭部に打ち続ける。しかし、ロボットには全くと言っていい程、効いていない。ノ―ダメージだった。

「攻撃開始」

 ロボットがそう言うと、指の先から電撃を出した。隊長はあっという間に黒コゲ、アフロヘアになってしまった。

 ロボットはそれを確認すると、隊長を手から解放した。急に離された隊長はそのまま地上に落ちた。

「隊長!」

 黒コゲの隊長に部下達がわさわさと集まる。感染者の私を拘束していた部下も、私そっちのけで隊長の所へ向った。

「隊長、しっかりして下さい!」

「……」

「くそ、次はこの俺が!」

「いや、オレが敵を討つ!」

「何を言う。ここは拙者がる!」

「撤退だ」

「分かりました!今すぐ撤退――え?」

 部下達が我先にと、言い争っていた最中だ。隊長が指示を出した。意外な指示だったので、部下達は間の抜けた声を出した。無論、私も喜び交じりの声を出した。

 機動隊の部下達はもう一度、隊長に指示を聞き返した。

「もう一回言う。撤退だ」

 しかし、隊長の指示は1ミリも、風に吹かれても、ぶれることも、揺れる事もなく、変わりはなかった。

 部下達はそのまま、隊長の指示通り撤退を開始した。その内の数人は、しびれて動けなくなった隊長をせっせと運び去って行った。

 残った私の心境としては、とりあえずここを離れたい。これだけの騒動があれば、野次馬がすぐにでも群がってくるかもしれないからだ。

 しかし、私は動けなかった。足をくじいたとか、電撃に巻き込まれてしびれたとかではない。私は今、ロボットを見ている。見ていないと何をされるか分からなくて怖いとかではなく、ただただ正直に一言で表すと、単純な一目惚れだったのだ。かっこいい、かわいい、たくましい。いろいろな感想が入り交じった一目惚れを、私は恥ずかしながらしてしまったのだ。

「貴君、ツバキ。コレカラ当機ト来テモライタイ場所ガアル」

「それってどういう……?」

「会エバ分カル。ダカラ、来テモライタイ」

 ロボットはそう言うと、股を大きく開くように、その場に座った。

 私から見て、それはもう、完全にアレにしか見えない。M字開脚という名の、萌え座りに。

「早ク乗レ」

「乗れるわけないでしょ。何言ってんの?」

 私はロボットに甘くもなく辛くもない、ただただ冷たい言葉を送り返した。

「貴君、ツバキ。申シテイル事ガ、当機ニハ理解デキナイ」

「だから、乗れるわけないでしょ。どう見ても性能良いんだから、さっさと理解してくれない?」

 私はもう一度、ロボットに甘くもなく辛くもない、ただただ冷たい言葉を送り返した。

「当機ニハ全ク理解不能。ナゼ貴君ガソコマデ搭乗ヲ拒ムノカ理解不能」

 理解してほしくない、ロボットごときに。これは大分デリケートな問題なのだから。私にとっても、絵的にも。

「トニカク搭乗シテモラウ」

 ロボットはそう言うと、激しく抵抗する私をつまみ、股間部の搭乗席に無理やり連れ込む。と、同時にドアロックをし、完全に私を外へ逃がさない体制をとった。

 強行的に中へ入れられたので、衝撃により体中が痛い。このロボット、私を主人と認識しているくせに、少々がさつではないだろうか。本当にこのロボットは、私に忠誠を誓っているのだろうか。

 ロボットに対する不満にばかり気を取っていた私だったが、ここでふと、搭乗席内を見回す。外からでは一見、何の変哲もない窓だったのだが、中からでは全く別物だったのである。この高さから見える景色がまるで仮想のようなものだったのだ。言うなれば、ロボット目線だったのである。想像していた以上に高い視線だったので、ビビる私であったが、ロボットはそんな事に構わず、次の段階へと進んだ。

「コレヨリ、目的地ヘト向カウ」

 ロボットの声が搭乗席内に響くと、私はビビりながらではあるが、コックピットに座り、安全ベルトを締める。

 その時だった。平然と立ち尽くしていた、ある一つの民家が、あらかじめ計算されていたかのように、綺麗に倒壊した。

「警戒衝撃レベル5。戦闘警戒態勢ニ移行」

「え、戦闘?何を言って――」

 ロボットが警戒態勢に入る。私は焦った。このうえもなく、今、事実上危険を感知していたのだから。

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