第2話 二次元ラヴィング
今日は……というよりも、今日の帰りも闇市へ来た私。仕事の疲れがドッと来る(特に精神面が病む)この時間だが、ここに来た途端、覚醒したかのように疲れがぶっ飛ぶ。さすがは闇市、良い所。さてさて、今日はどんな者が入荷したのだろうか。
私は行きつけの店に入る。
「店長。今日は何か入ってます?」
店に入ると共に私は迷わず店長を呼ぶ。今の時代の闇市、来たらまず店長を呼ぶ。これが通なやり方だ。これ大事。
「おう。今日は終わるの早いな。何かあったのか?」
奥の方から店長が現れる。この時間帯に私が来た事が珍しいのか目を丸くしていた。
「いつもと変わりません。それより入荷は?」
「おう、そうだった。新品は特に変わらずと言っていい程入荷していないんだが、中古で何個か良い物が手に入った」
中古か……。まあ、この時代に新品なんて入ってくるわけがない。決定的に宣言させてもらう。しかし、中古で入ってくるのもそうそうない。しかも何個も。一体何が入ってきたのだろうか。楽しみだ。
私は息を呑んで待つ。そして運ばれてきたものに心だけではなく、全てを持っていかれた。
「これだ」
「これは……っ!」
思わず呑んだ物が戻ってくるぐらい息が詰まった。
「どうだ? 驚いただろう?」
「驚きました……っ。まさかこんな所でお目にかかれるとは……っ」
ごくりと唾を呑む。心臓の鼓動が速くなり、息が乱れ興奮気味になる私。
店長はそんな私を見て、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべる。
「で、買うのか? 買わないのか?」
「買いますっ! 絶対買いますっ! 即買いますっ! 買わせて下さいっ!」
私は店長の質問に即決で購入を決めた。ここで出会ったらもう二度と出会う事は無いだろうと思った。それくらい貴重な商品だ。
「まいどあり。精々大事にしてやってくれよ。そうすれば黒猫達も喜んでくれるからな」
店長はそう言うと、店の袋にフィギュアを入れて(しかも外から見えないようにカバーまで掛けてくれるというネ申対応)私に渡す。はぁ……はぁ……これでしばらくは妄想と目の保養には困らない。
「店長、今度でいいですから、お礼か何かさせてくれません?」
私はここまで良くさせてもらったので、ついお礼の約束を頼む。しかし、
「何言ってるんだ? アイドルがわざわざこうして俺の店に買いに来てくれてんだ。お礼なんていらねえよ。こうしてくれてる事自体が俺にとってのお礼だ」
店長はそう言うと、店の奥に戻って行ってしまう。私は今出来る最高の敬意として、「ありがとうございますっ!」とテレビの中ですらやらないくらいの声でお礼を言った。また明日も来よう。私はそういう思いを心に堂々と置いて店を後にした。
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