第二次戦士ディメイダー

ぱれす

第1話 裏表アイドル

「いや~。今日もライブお疲れさん!」

 ライブを終えた私に陽気なプロデューサーの蛇睨へびにらみさんが掛けた最初の言葉はそれだった。今までライブの時も、バラエティーの時も、ドラマの撮影の時も、終わると嬉しそうに言っている。もう私的にはだいぶ聞き飽きている。もう少し他の言葉を言ってほしいと思っている。が、口に出すと全てが終わるので、言わないでおくことにする。

「ありがとうございますぅ! 今日の私も可愛かったですかぁ?」

 私は手を合わせ笑顔を見せてお礼を言う。

 私のキャラではないのだが、これも仕事なので徹底的にキャラを崩さないように答えておく。最初は抵抗感があったが、今じゃ完璧手前の所までキャラを作る事が出来た。意外とこれはこれで好きだ。たまに嫌いになるが、好きだ。

「可愛かったよ~。いつもと同じ、もしくはいつも以上に可愛かったよ~!」

 蛇睨さんは私の両手を握り、にっこりと笑った。

 私にとってこの笑みは、苦しすぎる。目を逸らしたいが、これも仕事。我慢しなくては……。そしてはやく終われ、この時間。

「いや~、それにしてもアオイちゃんが居ないのに、ツバキちゃんがんばるよね~。こうがんばられると、プロデューサーとして鼻が高いよ!」

 蛇睨さんはまた嬉しそうに答えた。

 喜んでもらえるならこれ以上嬉しい事は無い。けれど、蛇睨さんのこの笑みの裏側にはほとんど私の事なんて入って無いんだろうなと思っている。

「それじゃ、明日も頑張ろうね~!」

「おー! じゃあ、蛇睨さん。今日はこの辺で失礼します」

 私は荷物を持ち、楽屋のドアを開く。

「それではまた明日ぁ!」

「また明日~!」

 私は蛇睨さんに手を振りながら、楽屋を出た。

 芸能人やスタッフに会う度にキャラ作り満載の挨拶をし、なんとか人気ひとけのない場所まで来る事が出来た。周りを確認し、私はため息をつく。そして人格が変わったかのように呟いた。


「メッチャしんど」


 私はそう呟くと、スタスタとテレビ局を後にしたのだった。

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