第2話 船に乗るとだいたい襲われるか最悪沈む

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 ぬるくなってしまった紅茶を一口飲み。

 お客様の顔色を伺うために思い切り首を伸ばす。

 相変わらず良くない色に変わりない、ひょっとしてこの方もともとこんな血色の悪いお顔なんでしょうか。

 だからといって不快感を抱いていないと断言できないですけれど。


「ほんとうに、申し訳ございませんでした……、いやあまりにも珍しいなぁと思ってしまったもので。あ、いや、けしてけして、時代遅れなどとはこれっぽっちも思っていませんよ、ええはい。味、味が大事ですから、ほら、あの、最近のアニメや漫画やゲームなんかでよく出る、顔の整ってて、いけてる声の、ミステリアスで、なんか吸血鬼と間違えそうな全身黒尽くめの魔王なんてもう何番煎じって感じでしょう。ハンサムや幼児体型、美形でお胸の大きい魔王なんて全然怖くもないですから、そういうの食べ飽きた感じしますでしょう。魔王なんて若者には勤まるものとも思えませんし、やはり王道が一番ですよ、王道が。ですからどうか、最大レベルの闇魔法でこの館を破壊するのだけはやめてください後生ですから。職業紹介人が無職のホームレスになってしまいますから、なにも笑えなくなってしまいますから」


 よくてゲンコツか、悪くて破壊光線か。

 それを想像して再び深く頭を下げる私。

 ところが。

 途中からなにを言いたいのかわからなくなってしまった私に魔王様は自分の顔色が優れないというのに、私を次のように気遣ってくれたんです。


「そんなこと……しないですよ、気にしないでください。人相悪いの生まれつきなんです……それでよく怖がられるんですが」


 万歳。

 どうやら取り越し苦労だったようで安心しました。

 この方、魔王は魔王でも下々しもじもの心を理解できる懐の広いお方のようです。

 言うなれば、白魔導師、僧侶、ヒーラーにも匹敵する寛容さです。

 ほんともう、屋敷吹っ飛ぶかと思いましたよ、ええ。良かった。


「手続きを進めてください」

「かしこまりました、ヴァルヴァロイ様」


 額の汗をハンカチで拭き。

 気を取り直して、手続きを続行。


「ヴァルヴァロイ様の現ご職業は、イルベルト王国の国境地帯から遥か遠く離れた極寒の谷、氷魔の里フリーオの、インブレス城を納める統治者、及び『魔王』――で、お間違い御座いませんね」

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