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 慌てて顔を背けて口を抑える。


 いけない、いけない、いけない!

 お客様の御前でなんてはしたない真似を。


 ぷるぷる震える体を前に戻し、息を大きく吸い込み、もう一度書面を見る。


「……ふっは、」


 いけない。二度目の失態を……。

 見間違いじゃない、ちゃんと達筆で書かれていた。

 おお……おおおお。


「あの、どうされました……なにか問題でも」

「もっ……申し訳ありませんお客様、ご確認をさせて頂きたいのですが、お客様の現ご職業というのは」


 私大変な勘違いをしていました。

 この御時世ですし、大体、見た目からして騙されました。

 スキンヘッドに、一本もない眉。特大ハンバーグでも入っているんじゃないかと思えるくらいの逞しい腕、眼力だけで人を殺せそうな人相の悪さ。そこにいるだけで空気を凍らせるような佇まい。布切れみたいなチョッキに、薄汚れたズボン。そしてスリッパを履く足は裸足。

 てっきりそう。王都のゴロツキか、盗賊団の頭、海賊、それかサーカスの猛獣使い、とかそこらだと思っていたんですよ。ええ。


 大事なことなので、もう一度いいますが。この御時世です。

 だって今や、それっていったら人気職ベスト5に食い込むものですし、まずなったら転職を希望する人なんていないやつです。

 しかもしかも、最近は若輩者が多く志願する職で、キャラやビジュアルもかなりバラエティに富んでいるんです。一番多いのがイケメン、並びに美少女、幼女なんてのもいるようですし。まぁだいたい、水牛やらなんやらの角を生やしたり、翼を持っていたり、悪魔的な尻尾があったり。または白髪だったり、眼帯や、オッドアイとか、耳が尖っていたりとか、そういうオプションがあったりっていう、デザインがかなり凝ってるんですよね。最近のライトノベルでだって、可愛い女の子が……とかっていうの多いですしね。


 この方がもしそうだったら、それこそファミコン時代になってしまいますよ。

 絶滅危惧種にも値しますよ。


「その、……つまり、ですから」


 転職希望をなさる、この土色の顔をしたお客様の現ご職業は――。


「魔王……です。そこに書いてある通り、魔法の魔に、王の王で……」

「まじか‼︎ ――あ、いや。すいません。今のくしゃみです」


 本日三度目の失態。

 凄い大御所が来てしまった。

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