第七話 明日の見えぬ俺たち

 戦争は決して解決策ではなく、悪化させるものである。

               ――――ベンジャミン・ディズレーリ


    *


 ルッツたちは革命軍にソロヴィヤノフ宰相を引き渡した。

 他の隊員たちも無事に戦いに勝利し、満足げな顔をルッツに見せた。


「おかげで、ほとんど被害もなく宮殿を制圧できました。感謝いたします」


 サイートフはルッツの手を取り感謝の言葉を述べる。


「あ、いえ……。自分は任務を果たしただけです」


「皇帝と宰相の処遇については『裁判』で決めますからね」


「あ、うん……そうですか……」


 結論ありきの形式カタチだけの『裁判』。被告にとっては約束された敗北――。


「記録には残りませんが、私の記憶の中ではあなた方は永遠です!」


「あ、はい」


 任務を果たした亡霊部隊は、またひっそりとリヒトニアに帰還した。


 アルテニア帝国は新たな政府によって帝政を廃すことになり、労働者プロレタリアート独裁を掲げるアルテニア社会主義共和国となった。

 そして約束通り、西方同盟との間に講和条約が結ばれ、終戦を迎えた――。

 その報せは瞬く間に世界を巡った。特にリヒトニアやダリアの人々の歓喜はものすごいものだった。

 アルテニアの人々も、とりあえず戦争が終わったことには胸をなでおろした。


 ヴィクトリアは戦いが終わったことがよほど嬉しいのかバレエのようにくるくると回りながら、


「いや~、やっと邪魔な戦争も終わりましたねー。さぁさぁ、軍には辞表を叩きつけて二人で平和に楽しく暮らしましょう!」


「何を言っているんだ?」


「え……?」


 ヴィクトリアが回ってる途中でピタリと停止する。


「新しいアルテニアがどう動くかはわからないし、世界に戦争の種は尽きない。俺は次の戦争に備える。おまえにも手伝ってもらうぞ、ヴィクトリア」


「えー、もういいじゃないですか⁉ マイスターはもう十分戦いました。これからのことは他の人に任せてもいいんじゃないですか?」


「元々俺が自分で選んだことだ。誰かに強いられたことじゃない」


「もう~、しょうがないマイスターですね~」


 革命によりこの大戦は終結した――。

 結局、この戦争における勝利者はサイートフなのだろう。

 そして、これがまた新たな戦争の始まりだったのだ。

 アルテニアの強力なイデオロギーはやがて世界に大きな影響を与え、その摩擦は次の火を起こそうとしていた。


 マリーはまた猟師に戻ってヴィクトルと一緒に狩りをして暮らすようになった。

 ハンスは東洋文化に関する論文の執筆をはじめた。師との約束により、【チー】については詳しいことは書かないらしい。

 ラルフは貿易会社を起こした。主にリヒトニアと明端皇国の間を行き来しているらしい。

 ルッツはケーニッヒ大佐と共に次の戦争に備えて特殊部隊の発展のために尽力しているという。

 ヴィクトリアは――、


「しょうがないマイスターですねー」


 もちろん、今日も皮肉を言っていた。

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鉄血のシュピルツォイク 森野コウイチ @koichiworks

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