第17話
「もしかして、天羽はその事故現場に学校が建てられたことを知っていたのか?」
「まあね。私は、ずっとここら辺に住んで居るからね」
繋がった。
繋がってしまった。
あの少女の正体も、あの少女が何故学校へ現れるのかも。
けれど、引っ掛かることは、まだあった。
夏目陽景は、恐らく自分の姉である夏目陽向の姿を目視し、理解出来ていて尚、姉である夏目陽向と戦っていると言うことになる。恐らく、成仏させようとしているのだろうけれど、幽霊だとは言え、実の姉である幽霊を化け物呼ばわりするだろうか。
それに、夏目陽向が去り際に放った、お姉ちゃんを助けてあげて、と言うあの言葉の意味がまるで分からない。亡くなったのは、姉である夏目陽向だ。そのはずだ。それなら、夏目陽向は何故、お姉ちゃんを助けてあげて――そう言ったのだろうか。
まだ、何か――もっと、致命的で決定的な何かを、見逃してるのではないだろうか。そんな気がしてならなかった。
それでも。
「悪い、天羽。今日の勉強は――」
「止めにしたいんでしょ?」
天羽は、開いていた教科書をパタンと閉じる。
「良いよ、別に。私は元より大丈夫だから。それに、御門君が一日勉強をしなかったくらいじゃ、世界は愚か、この街も、学校も、何も変わりはしないから大丈夫よ」
天羽は、ニコリと笑顔を見せそう言った。
まあ、天羽の言っていることは事実で違いなく、勉強を付き合って貰っているのは確実に僕の方で、天羽が僕に対して毒を吐こうがそれを否定することなど出来やしないのだ。
「御門君が、どうして夏目さんについて聞いて来たのかも、何をやっているのかも聞かない。だけど――」
天羽は、実直な瞳をこちらへ向けた。
「中途半端に投げ出すような真似だけはしないでね」
相変わらず察しが良い。
「ああ」
僕はそう一言だけいい残し、図書室を後にした。
時刻は、十九時三十分。
校門前。
帰宅後、天羽から聞いた話をゆんへありのままを伝えた。ゆんは目を閉じ、腕を組み、その場で腰を降ろし、静かに僕の話に耳を傾け、なるほどと頻りに頷き、話が終わるや否や、カカカといつもの高笑いをしていた。
まるで、何もかもその全てを理解したかの様に。
そして、僕は、ゆんの憶測を交えた推測を聞かされた。正直、驚きを隠せなかった。憶測が混じっている時点で、荒唐無稽ではあるが、それでもゆんのその推測は、あまりに突飛で、奇矯で、異常で――非現実的だったにも関わらず、ゆんの憶測交じりの推測は筋が通っていた。
それも、僕の抱いていた疑問、姉である夏目陽向を化け物と呼び戦っていたのかという理由も、夏目陽向が去り際にお姉ちゃんを助けてあげて、と言った言葉の意味も――全て一度に全て解消させられてしまった。
もしも、ゆんの推測が正しいとすれば――いや、でも、そんなことが現実として在り得るのだろうか。それでも、それが本当だとするならば、夏目日景はとんでもない秘密を隠していることになる。
それも、一個人としてだけで収まることの無い秘密だ。
それを今ここで、どうしてなのかだの、何故なのかだの、そんなことを考える必要は全く無い。それを考えたところで分かるはずも無いからだ。それなら、直接聞きに行ってしまった方が早い。
だから、僕達はこうして再び学校までやって来たのだ。
正直な話、僕達が夏目陽景と陽向の姉妹間の問題に口出しすること自体、本当は可笑しいことなのかもしれない。本来なら、姉妹の間で解決すべき問題だからだ。偶然だったのかもしれないが、僕達はそれを知った。
失われた真実を知ってしまったのだ。
それなら、僕は御節介と分かっていても届けてやりたい――そう、心から思ってしまったのだから。
「ん? どうしたんじゃ? コータらしくないのう。心なしかいつもより男らしい顔になっておるぞ、大丈夫かや?」
「男らしいも何も、僕は正真正銘の男だ。男である僕が、男らしいのは当然のことだ。ゆんの目には、僕が普段どう映っていたのか良く分かった」
僕は、思わず笑みを溢した。
「若しかして、気を使ってくれているのか?」
「カカカ。あまり、肩肘張らん方が良いぞ。コータみたいなタイプは、緊張して結果を残せないタイプと相場が決まっとるからのう。例えるなら、成績の良い友達から要点をまとめたノートを借りたおかげで、テストで良い成績を残せるはずじゃったんじゃが、名前の記入し忘れで、結局のところ零点扱いになってしまう――みたいな感じかのう」
「中間テスト前のデリケートな時期に、本当に在りそうなことさらっと言うなッ!」
カカカ。
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