第15話
仮に、この状況だけで判断をするなら、間違いなく犯人は、夏目陽景で間違いないだろうけれど、僕はどうしてもそうは思えなかった。明らかに、不自然なのだ。闇雲に暴れ回っているかの様に見えていたが、どうもそうでは無い様だからだ。
そう――まるで。
見えない何かと戦っている、かのように。
「なるほど。さっきわっちが見たのは、これか」
ゆんは、意味深にそう呟いた。
「何が起こっているんだ……」
ゆんは、そこで何が起こっているのか、それが分かっているようだった。
「そうか。コータでは、目の前で起こっていることが分からんのも無理はないのう。ちょっと、待っておれ」
そう言ったのも束の間、僕の全身は強い痛みに襲われた。
「うわああああああああああッ!」
その痛みから逃れようとするも、全身の力は抜け落ち、抵抗すら出来なかった。膝から崩れ落ちた辺りで、その痛みが無くなった。僕の身に何が起こったのか、それを直ぐに目視することになる。
スタンガンだった。
いや、この際スタンガンがどうとかは関係ない。何故、スタンガンを使うタイミングが、今なのか、だ。暴れ回っている、夏目陽景に使うのなら理解出来るが、無抵抗の僕へ向けてスタンガンを使う意味が全く持って分からない。
「ふざけるな、殺す気かッ!」
「何を抜かしておる。コータにも見えるよう視神経を覚醒させ、わっちが計らってやったのじゃろうが」
ゆんは、スタンガンをバチバチと唸らせながら言う。
もしかして、これはお礼を言うところなのか。
「あれを見てみい」
ゆんは、顎で指した。
そこには、先程までは夏目陽景以外誰も居なかったはずの僕の視界に、小さな女の子も一緒に映り込んでいた。しかも、夏目陽景はその小さな女の子と激しく戦いを繰り広げている。
もしかして――いや、そんな、まさか。
「どう言うことなんだ……」
僕の理解を超越していた。
「恐らく、あの少女は幽霊じゃな。しかも、この土地に縛られておるところを見ると、地縛霊と言ったところかの。さすがに、何故あの二人が戦っているのかまでは分からんがのう」
幽霊。
地縛霊。
土地に縛られた幽霊。
これまでに起こった奇怪な事件と呼ぶに足る出来事は、この少女の幽霊の仕業だと言うことなのか。そうだとすれば、夏目陽景はその少女を除霊させる為にこうして戦い、辺りが破壊されていった、と考えられなくも無いが――そもそも、幽霊何てものが、本当に存在すると言うのか。
僕は、それをこうも簡単に認めてしまっても良いのだろうか。
その時、天羽の言葉が脳裏を過る。
人類に考えられ得るものなら、森羅万象全ての可能性は在る。
一瞬でも、もしかしたら幽霊なのか――そう思った時点で、僕は既に幽霊が居るかもしれない可能性を認めてしまったと言うことなのだろう。相変わらず、天羽は凄いな。こんな時でも、心から凄いと思える。
序でに、幽霊に遭遇した時の、対処の仕方についても聞いておけば良かった。神社にお祓いに行ったら高そうだから、次に会った時にでも、自分で出来る効果的なお祓いの方法でも聞いておこう。
「のう、コータや。少しばかし、妙ではないか」
「妙?」
「ああ。何故、あの少女は、あれだけの攻撃をされておきながら、一度として反撃をしないんじゃ?」
言われてみれば。
夏目陽景は、休む暇を与えること無く攻撃を仕掛けてはいるが、反撃の隙が全くないわけでは無い。それは、攻撃をかわすだけで精一杯と言うより、少女には攻撃の意思が無い様に見えた。
もしかすると、僕の考えているそれとは根本的に何か違うのかもしれない。
「なあ、あの少女の幽霊、こっちを見ていないか?」
「そのようじゃな」
そして、僕は少女と目が合った。
嫌な予感しかしなかった。
少女は、僕達が自分の姿が見えていることに気付いたのか――将又、気付いていてこちらへ向かって来るタイミングを計っていたのか、戦っている夏目陽景を他所に、こちらへ向き直り、飛んで来た。
「ちょっと、待て。こっちに飛んで来るぞッ!」
「そのようじゃな」
恐怖のあまり、目を瞑った瞬間だった。
「お姉ちゃんを助けてあげて……」
僕は、目を大きく見開いた。
「今、何て――」
僕が慌てて振り返った時には、少女の幽霊は疾うに通り過ぎ、廊下の闇の奥へと背中が消えて居なくなっていた。
今、確かに、お姉ちゃんを助けてあげて――確かに、そう言った。私を助けて、では無く。助けてあげて、と。それに、あの少女は夏目陽景に対してお姉ちゃんだと言ったのか。あの少女は、夏目陽景の妹だと言うのか。
分からないことが多過ぎる。
「何で、こんな時間に学生が校内をうろついているのかしら。下校時間は疾っくに過ぎているわよ」
夏目陽景は、高圧的な態度でこちらへやって来た。
「あなた達の性で、あの化け物を逃がしたじゃない」
「化け物?」
「あなた達にも見えているのでしょう、あの化け物が。怪我したくなかったら、この時間には学校へ近寄らないで頂戴。私の邪魔になるから。いいわね? 忠告は、これ切りよ。次、もしも遭う様なことがあれば、その時は容赦しない。覚悟しておきなさい」
そう一言残し、夏目陽景はその場を去って行った。
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