第10話
「天羽……?」
「あっ、ごめん、御門君。さあ、集中集中。ただでさえ出来の悪い御門君のことだから、他人が一日でするであろう努力の二倍、三倍なんて優しい努力じゃ、何の身にもならないのは目に見えているものね」
「僕の努力を骨折り損で済ますなッ!」
どうやら。
「大丈夫。草臥れることだけは、儲けているから」
「いるかッ!」
僕の気の性だったようだ。
「あはは。でも、物は考えようよ? 損して得取れって言うでしょ。無駄な勉強で十分に損したんだから、私から御門君に得をあげよう。今やっているところは、今回の試験範囲じゃないよ?」
「えっ……? えぇぇぇぇッ!」
本当に骨折り損だった。
と言うか、分かっていて今まで教えてくれなかったと言う事実の方が、よっぽど怖いような気がするのだが、それは僕の中だけで留めておこう。それを言ったところで、注意しなかった天羽が悪いなんてことは微塵も無いのだから。
「御門君があまりに不憫で可哀想だから、今回の中間試験は赤点を取らないように、私が山を張ってあげる。はい、これが私から御門君への得」
そう言い、天羽は僕へ一冊のノートを手渡してきた。
まさか、これは。
「名付けて、得して損取れ大作戦と言ったところね」
天羽が山を張ったまとめノートだった。
「天羽が試験の山を張ったこのノートがあれば、僕は試験の問題を手に入れたも同然じゃないか。つまり、これがあれば僕が中間試験を掌握したも同じと言うことだ」
僕は、ノートを天高々に掲げながら言う。
「それは、言い過ぎ。もしも、私が先生だったらこんな問題出すんだろうなって言うところをまとめただけだから。それに、試験に出題される問題とその答えが完璧に分かるわけじゃないんだから、その解き方は御門君がちゃんと覚えなきゃ駄目よ」
御最もな意見だ。
「分かってるけどさ。でも、天羽の考えた問題を出さないような先生は、最早先生と呼ぶに値しないと言うことだろ。そう抗議しても、僕は先生達から咎められることはきっとないだろう?」
「もう、御門君ったら。言ったでしょ。得して損取れ大作戦だって。御門君の為にも毎回そうするわけにはいかないよね――と言うより、私がそんなつもりないから、悪しからず。だから、それなりの罰はちゃんと受けて貰うわよ」
「罰? パフェを奢れとか、デートしろとか?」
「何で、私とのデートが罰扱いなのかな?」
一応、笑っているものの、シャープペンシルの芯をノックし出しては、机に叩き付け芯をしまうのを繰り返している仕草を見ると、怒っていると見ても良さそうだ。冗談だと謝罪をしておかなければ、今後もっと手痛い反撃に遭いそうなので、早急に謝罪をしておいた。
「でもまあ、全ては御門君の努力次第ね」
天羽は、不敵な笑みを浮かべていた。
「そうだ。一つ聞いても良いか?」
「なあに?」
「天羽は、幽霊を信じているのか?」
「御門君はどうなの?」
天羽は、質問を質問で返してきた。
「まあ、信じているか、いないか――の二択で聞かれれば、信じていないかな」
「そうなんだ。意外。てっきり、御門君は信じているタイプだと思っていたんだけど。どうして、宇宙人は信じているのに、幽霊は信じていないの?」
どうして――その問いは、単純に見えて少し許し難しい質問だった。
別に宇宙人を信じているわけでは無かった。
ただ、ゆんが宇宙人であると言うことそのモノが、心の奥にすとんと落ちるものがあっただけなのだ。それは、あくまで僕の感覚的なものであったり、直感的なものであったりと、曖昧なもので何一つ根拠となるものが無いのだが、それが僕の中で自然に頷けたのだ。
同様に、自身を幽霊だと名乗る者が出て来たとして、それを僕が信じてあげられるのか、と考えた時に、ゆんのように信じてやることはきっと出来ない。そう思った。けれど、それが信じていない理由だと言うのには、あまりに合理的では無かった。
だから、
「何となく、かな」
そう答えておいた。
「何となく、ねえ」
天羽は腑に落ちない様な顔を見せていた。
「そう言う天羽はどうなんだ?」
「私は、人類に考えられ得るものなら、森羅万象全ての可能性は在ると信じているの。だから、宇宙人が居ても、幽霊が居ても、別段それに驚く必要も無いから、私は居ると信じことが出来るってわけ」
天羽は、そう言い笑顔を見せた。
良くも悪くも、天羽らしい答えに違いない。
宇宙人や幽霊を本気で居ると信じてやまない人間は、少なからず居るだろう。けれど、天羽を越える程の説得力を持つ人間は、世界広しと言えども、そうは居ないだろう。本当に宇宙人も、幽霊も居て当然の様に思えてしまうのだから。
そして、完全下校のチャイムが学校中に響き渡った。
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