拳闘場アリーナ――そこはたぶん、そう呼ぶべき場所なのだろう。四方を硬く高い壁で覆われ、その壁の上から観客ギャラリーが見下ろしていた。

 悪趣味だなと見下す観客たちを見上げ、ノクトは去っていく黒服たちが置いて行った自分の得物を見下ろす。

 〈白刃〉と〈黒閃〉。ノクトが長年使ってきた品だ。鞘にと銃鞘に収まったそれを拾い上げ、腰のベルトと連結させる。

 試しに抜いて状態を確かめるが、手に取った瞬間――何の異常もないことが判った。

 ほんの少しでも弄られていたらなにかしら違和感が生じて、すぐに判るからだ。

 最も、その辺の人間がほいほいと細工できるような品ではない。製作者が超がつく一流の技師であり、名を言えば収集家コレクターが飛びつく物だ。そうそう手出ししないだろう。

 両の得物を鞘に納める都時同じくして、ギィィィ……と背後で鉄扉が閉まる音がした。続くがちゃりという音は、たぶん施錠した音だろう。

 放逐はなした動物が領域エリアから逃げ出さないようにしているのに似ているな、と何処か他人事のように考えていたノクトの頭上で、拡声器スピーカーから響き渡る声が聞こえていた。


『お集まりの皆様! これより本日のメインイベントを執り行いたいと思います!』


 瞬間、喝采が上がる。「いいぞー!」「まってましたー!」なんて言う野次まで聞こえてくる始末だ。

 よくよく目を凝らしてみると、観客の多くは随分と身なりのいい服を着ている中年の男女が多く見える。


 瞬間――『闇賭博』という単語が脳裏に過ぎった。


 地方貴族が暇を持て余して、その退屈凌ぎのために催されているというのを聞いたことがあったが、まさかその現場に出くわす日が来るとは思っていなかった。

ましてやそこの出し物として投げ込まれるなどと、誰が想像するだろうか。


「……とことん貧乏籤引いてるな、おれ」


 盛大に溜め息を吐く。なにをやらされるかは大体予想がついた。


『本日のゲストはあの黒髪の少年! 王都で傭兵をしているそうですが、果たして今宵の相手に何処まで遣れるか! それでは、相手方の選手に登場してもらいましょう!』


「紹介適当すぎやしないか?」


 思わず視界に突っこみを入れるが、当然ながらその声が届くわけもなく。代わりに、ノクトの正面――即ち対面の向こうにある鉄扉がゆっくりと開かれていく。

 こういった闇賭博――それも拳闘場を使った催しと言えば一つしかない。おそらくは人間を賭けの対象にした殺し合い(バトルロアイヤル)。

 まさか本当にこのようなことが行われていることに驚きを隠せないが、特に恐れる気持ちはない。

 対人戦闘であれば負けることはそうそうないだろうし、猛獣が相手でも〈黒閃(銃)〉があるのだから逃げ回って撃てばそれで――



 ――ぞろり



 何か――何かとてつもない恐ろしい気配が膨れ上がった。

 一瞬前まで物憂げな態度は一変。殆んど考えるよりも先に身体が臨戦態勢に切り替わり――殆条件反射で〈白刃〉と〈黒閃〉を抜いていた。

 開け放たれた鉄扉。その向こうから、まるで大量の羽虫が湧き出てくるような気配。

 足元から、大量の蛆虫が這いあがってくるような錯覚が襲う。

 のそり……と、それは鉄扉の向こうから姿を見せた。


 それは、異形だった。


 人でもない。しかし、獣でもない。そのどちらでもない――鎖に繋がれた異形それ。どれもこれもがそう呼ぶに相応しい化け物。青い鱗か、あるいは蒼氷のような表皮を持つ――人型の異形。

 空界に存在してはならない最悪の存在。


「ふざけやがって……!」


 心の底から怨嗟の声を吐き出した。思わず視線を頭上に向けると、そこにいる観客たちは揃って愉悦の笑みを浮かべている。

 迷わず正気を疑った。こんなものが眼下に存在しているのに、そんな表情を浮かべられる彼らを、ノクトはとても人間とは思えない。

 これは――これだけはこの空界せかいにいてはならない存在なのに!

 そんなノクトを嘲笑うかのように、再び司会が声を上げた。


『さー! 本日もやってまいりました! このアリーナのチャンピオン! あの暗雲の下から取り寄せましたヨトゥンが、今宵も派手に暴れてくれるぜー!』


 同時に巻き起こる歓声。

 その声を聴いた瞬間、ノクトはどうしようもない憤りを覚えた。

 断言していい。こいつらは正気じゃない。

 ヨトゥンを空界に持ち込んでいるなど、イカれている以外のなにものでもない。

 三百年前に地上に蔓延した汚染物質――負素。その影響下から逃れるために、人類は地上を捨て、空の上に生存域を移した。


 移さなければいけなかったのだ――こうなるから。


 ヨトゥンとは、長い間負素の影響を受けて遺伝子変異を起こした、人間の慣れの果てだ。

 体皮が蒼い水晶体へ変異し、目が総じて赤く染まり、身体能力が飛躍的に向上する。同時に脳が負素に浸食され、徐々に思考能力が低下――最終的には理性のない怪物へ成り果て、負素に汚染されていない人間を襲うようになる。

 負素と並ぶ――あるいは負素以上に危険。何せ人間の気配を感じたら、見境なしに襲ってくる。それも、恐ろしく強靭な肉体で、群れを成して。

 空界へ人類が移る以前、ヨトゥン一〇〇体がいるだけで都市が壊滅したとすら云われている、正真正銘の化け物。

 だから人類は負素を忌避する。

 存在するだけで人間をこんな風に変えてしまう物質を、恐れないわけがないのだ。

 なのに――此処にいる連中はそれを忘れている。

 もしかしたら自分たちがこうなるかもしれないという危機感を忘却している。

 救いようのない愚かさに反吐が出る。

 憤慨するノクトの頭上で、拡声器から砂嵐のような雑音が零れたかと思うと、『あー、テステス』という気のない声が――カインの声が漏れ聞こえた。


「カイン・ダランっ!」


 思わず名を叫ぶと、拡声器の向こうから『はーいよ。聞こえてますぞ、と』という、明らかにこちらを小莫迦にした返事が返ってきた。


『さーて『黒騎士』。せいぜい愉快に踊ってくれたまえよ? 死ぬときはできるだけ派手に頼むぜ? 盛り上がりに欠けるのは勘弁だぞ、と』


 かかか、という笑いを最後に、一方的なカインの声は聞こえなくなる。

 ノクトが何かを叫び返すよりも先に、唐突にカーン! という鐘の音が鳴った。それがゴングの音だと気づいたのは、ヨトゥンを繋いでいた鎖が一斉に外れたからだった。

 同時に、発射された砲弾のような勢いでヨトゥンが迫る。目測で五〇メートルはあったであろう広い拳闘場を瞬く間に走り抜けてくるヨトゥンの速度に驚嘆しながら、ノクトは左手の〈黒閃〉を構えて高速連射クイックドロウ

 二発の弾丸がヨトゥンへ真っ直ぐに飛び直撃するが、ヨトゥンは弾丸が食い込んだことを気にも留めず疾駆する。


「っ――『破貫弾スラッグ』!」


 即座に銃身を開いて閉じる動作ブレイクオープンアクション――振り上げると同時に銃身を折り、振り下ろすと同時に銃身を畳んだ。


《装填》の術式が起動し、新たな弾丸が装填される。通常の『弾丸』ではなく、威力重視の『破貫弾』へ変更し、再び構えを取ると――容赦なく発射。

 右肩と腹部。近距離戦闘用の破壊弾を叩き込まれ、流石のヨトゥンも大きく体を仰け反らせた。表皮が弾け飛び、青い液体が零れ落ちる。

 しかし、それでも致命傷にはなり得ない。逆に攻撃されたヨトゥンが咆哮を響かせた。空気が震え、鼓膜を破るのではないかと言わんばかりの衝撃に思わずすくみ上る。

 爛々と輝く双眸がノクトを捉えた。完全に敵と認識されたのだと悟る。

 距離的に再び装填して撃つのは間に合わない。

〈黒閃〉を銃鞘に納めて〈白刃〉を構える。再び撃ち出された砲弾のような速度で迫るヨトゥンが、地面を踏み砕きながら接敵。

 ノクトの胴ほど有りそうな太い腕が振り上げられた。

 同時にノクトも地を蹴る。振り上げられたヨトゥンの右腕とは逆の、左側に向かって跳ぶように踏み込みながら〈白刃〉を振るう。

 背後で空振った拳が地面を砕く音を聞こえたが、意図的に無視。

 振るうと同時に発動した《斬撃刃》が剣身を覆い、硬いヨトゥンの身体に刃を食い込ませた。


 ――だが、浅い。


 斬りつけた脇腹は、ノクトが想像した物よりも遥かに浅く斬っただけ。致命傷には程遠い。

 転瞬、ヨトゥンが我鳴りを上げる。傷を負わされたことで激昂したのか。あるいは恐慌に陥ったのかは判らない。どの道、結果としては同じことだ。

 咆哮を上げながら、ヨトゥンが出鱈目な動きで腕を振り回し始めたのだ。考えも何もない、まるで子供が駄々をこねるような――しかし子供などより千倍は性質の悪い暴挙。

 一撃で仕留めきれなかった自分を呪った。最も、自分の倍近い体躯を持つ異形を険の一撃で倒し切るなどもとより不可能だとも思うが、なんにしても失敗だったということだけは判る。


 ヨトゥンが怒りを露わに襲い掛かってきた。


 咄嗟に躱すが、次の瞬間には第二撃。続いて第三撃。

 巨大な鉄塊の如き拳が次々と――文字通り拳打の雨となってノクトに降り注ぐ。

 躱しきれない――そう思った時にはもう、その太い腕から繰り出された薙ぎ払いがノクトを捉えていた。

 理不尽な暴力の一撃。めきめきと嫌な音が胴から聞こえてくる。

 辛うじて堪える。だが、攻撃の手はそれで止まるわけではない。

 がつん――という音がしたときにはもう、地面に身体が横たわっていた。頭部を殴られて倒れたのだと気づくのに数秒を要してしまう。

 痛みの余り思考が鈍る。頭の回転が遅くなり、状況を理解しきれていない。ずきずきと身体から悲鳴がし、がんがんと頭が痛む。


 だが次の瞬間、そんなものは全部ひっくるめて吹き飛んだ――それこそ文字通りに、だ。


 巨大な鉄塊で殴り飛ばされるような――そんな錯覚と共に、ノクトの身体は球技の球のように軽々と空中へと舞い上がった。


 放物線を描いて十数メートルの距離をノクトの身体が飛び――地面へ落下。全身を強打し数度地面を跳ねて、ようやく勢いが止まると同時、


「があっ……はっ……!?」


 全身のあらゆる箇所に激痛が走った。最早何処が痛いのか判らず、ノクトは痛みに耐えるようにその場を転げ回った。

 頭上から哄笑が聞こえてくる。観客たちの笑い声。下品で汚らしい――嫌悪感を覚える笑いだ。

 だが、睨みつける余裕もない。脇腹の痛み。恐らく肋骨が一本か二本折れている。それ以外に折れているものは、たぶんない。罅が入った骨は何本かあるかもしれないが、折れていないならどうにでもなると意識を切り替えようとして、不意に吐き気を催す。

 堪え切れない嘔吐。思わず腹の中身を吐き出して、赤いものが混じっているのに気づく。


 これは拙い、と本能的に悟る。


 血を吐くということは、それだけ内臓も痛めたことの証明だ。痛めた臓器によっては取り返しがつかないことにもなりうる――つまり、今自分は死にかけているのだ。


 ああ、ふざけんなよ。


 文字通り血反吐を吐きながら胸中でそう嘯く。

 死に欠けていることを理解すると同時、どういうわけか笑みが込み上げた。


 くつくつと、からからと、げらげらと――どうしようもなく笑いが漏れる。


 本当に、碌でない状況だ。貧乏籤の引きっ放し。良いことなしで泣けてくる。

 だけど、そんな碌でもない――むしろどうしようもない状況だというのに、ノクトはやはりにたりと嗤う。

 別に楽しいわけでもないし、面白いわけでもない。痛いし辛いし面倒なことこの上ない。


 単に笑えるくらいに苦しい状況とき――だからこそ笑うのだ。


 泣く場面ではない。嘆くのはまだ早い――今はまだ、取り返しがつかないわけではないのだから。


 痛む身体に鞭打って、強引に動かした。傍に転がっていた愛用の剣を――〈白刃〉を手に取ってゆっくりと立ち上がり構えを取る――半身になっての片手正眼。


 かちり、と頭の中で歯車が咬み合うような、あるいは思考が入れ替わる音がする。


 臨戦態勢。本当の意味での戦う意識しせい


 一瞬、ヨトゥンの動きが止まった。なにかを見定めるような、あるいは――臆するような眼差しが向けられてきたが、知ったことではない。

 目の前に立つ異形は、自分にとっての敵だ。牙を剥き、爪を突き立て、命を奪おうとする敵対者。


「さあ来いよ。一緒に派手に踊ろうぜ?」


 言葉が通じるとは思えない。それでもノクトの挑発が通じたか、ヨトゥンが再び咆哮を上げた。

 それに引き攣られるように観客も沸く。

 そんな中で、ノクトだけは不敵に笑みを浮かべて迫るヨトゥンを見据えていた。

 〈白刃〉の柄を握り締め、一歩――前へ強く踏み込む。瞬間、剣撃が虚空に疾った。


 マクアフティル流刀術、落葉らくよう


 一呼吸の内に、十三太刀。落ちる葉すべてを切り捨てるような正確無比な斬撃が、今まさにノクトへと飛び掛かろうとしていたヨトゥンを襲った。

 縦横無尽の十三の斬撃を受けたヨトゥンが絶叫を上げる。銃弾をも耐え抜いた硬い体表が裂け、青い鮮血が全身から吹き出し悲鳴を上げるその姿に、観戦していた観客たちが騒然となる。

 全身を切り刻まれたヨトゥンが、痛みに耐えるようにその場で蹲る。まるで数瞬前の自分を見るような気がして少しだけ気が引けた。本当に、少しだけ。


「主演が怪我して動けなければ、もう舞台は御開きだな。安心してくれ――幕は引いてやるっ」


 ノクトのその科白を拒むように、異形が呻きながら立ち上がった。震えながらもノクトを見据え、異形はその拳を握りしめてノクトへと迫る――まるで最後の悪あがきのように。

 対峙するノクトは、冷静にヨトゥンの拳を捉えていた。

 なにぶん、最初のような勢いもなければ殺意もない。自分より弱いものと戦っていたのに、気付いたらそいつは自分より強くて、どうしようもないから、取り敢えず殴ろう――そんな気概しか感じられない拳を、最早脅威とは思わなかった。

〈白刃〉を振り上げ、そして目の前の拳に――思い切り振り下ろす。それだけで、向けられた鉄槌の如き拳を弾き返す。

 そんなんじゃ駄目だ。そんなヌルい拳撃パンチじゃ仕留められないぞ、とでもいう風に、剣を振り下ろしたままノクトは唇の端を吊り上げて見せる。

 そして、仕返しとばかりに踏み込んで、〈白刃〉を一閃させた。

《斬撃刃》の光を帯びた刃が、ヨトゥンの胴を右から左へと一文字に疾る。初手とは打って変わって、ざしゅ! という子気味良い音を響かせてヨトゥンの身体の刃が斬断する。

 更に追撃。

 今度はただ剣を振り抜くだけではない。左腰の鞘に瞬時に〈白刃〉を納め、抜き打ちの構え。


 それは技だ。


 ただ剣を振り回すだけのチャンバラではない。戦いの中で生まれ、確かな実践の中で熟成され、研鑽を積み重ねることで骨肉へと染み込ませた技術だ。

 より多くの戦いを制し、より多くの死線を超えるために編み出された――戦い抜くための技術。


 居合腰。ノクトは呼気を吐き出し、それに合わせて強く震脚――そして抜刀。



 ――マクアフティル流刀術、疾葬しっそう



 放たれたのは神速の居合切り。

 稲妻の如き鮮烈な一閃が疾り、気づいた時にはもう、斬撃はヨトゥンの身体を突き抜け――その背後にノクトが立っている。

 一瞬の間。空白の時間。それが終わると同時――ヨトゥンの身体が傾ぎ、そして血飛沫を上げながら地面に倒れた。

 観客たちは暫しの間、なにが起きたのか判っていないように戸惑いを口にし――やがてヨトゥンが敗北したことに気づくと、一斉に罵声を上げた。

 ブーイングの嵐である。どうやら賭けをしていたらしい連中は、揃ってヨトゥンの勝利に投資していたようだ。賭けが成立していないんじゃないかと思うが、そうとなれば少しだけ胸の内がすっきりした。ざまぁみろ、だ。


『……派手にやってくれたな、『黒騎士』』


 拡声器からカインの声が聞こえてきた。何処か困惑したような雰囲気を孕んだその声が聞けただけで、満足してしまいそうになるが、そうは問屋が卸さない。

 ノクトは痛む身体に鞭を打ちながらしたり顔で言う。


「お望み通り、せいぜい派手に踊ってあげただろ? 礼はいらないぞ。悔しそうな顔を見せてくれればな」


『この……ガキが!』


 憎念と敵意の籠った声が響く。そうして音声が切れて数秒もしないうちに、カイン・ダランは観客たちを掻き分けて姿を現した。その傍らには、嫌悪と忌避が入り混じったような表情をしたデルムッドもいた。

 憎悪を孕んだ眼光がノクトを射抜く。カインの険しい表情など初めて見た気がするが、大した感慨はなかった。あってもせいぜい子悪党にはお似合いな貌だな、という程度だろう。

 そんな醜男のような渋面を浮かべたカインが、憎々しげに吼えた。


「楽に死ねると思うなよ、『黒騎士』。『ブロート』の連中はお怒りだぞ?」


「それじゃ、こっちからもいいか?」


 切り返すと、カインは鼻で笑いながら首を縦に振る。

「人生最後の言葉というやつか? 良いだろう。『黒騎士』殿の最後の言葉、しかと拝聴してくれよう」


「いや、別にそんな大層なものでもないんだが……」


 ふんぞり返るカインに向け、ノクトは呆れ半分に肩を竦めながら、溜め息交じりに共に言い放つ。



「――お前らこそ逃げなくていいのか? もうそこまで来てるんだぜ」



「――……なに?」


 ノクトの言葉の意味が判らなかったのか、カインが眉を顰めて首を傾げた――その隣で、デルムッドがはっと我に返るように目を見開いたのを見て、ノクトはついにこらえきれなくなったという風に、にたぁぁぁと底意地の悪い笑みを口元に浮かべて、宣告する。


「もういいぞ。派手にかましてくれ」


『ああ――任せろ』


 ノクトの左手――指揮甲から響いたのは、まごうことなきエル=アウドムル・ユグドの声。

 そして次の瞬間、凄まじい轟音と共に世界が揺れ――そして、天井に巨大な穴が開いた。

 ノクトを除いた拳闘場にいたすべての人間が驚愕し、絶句し、呆然と立ちすくむ中で、その穴の向こうから拡声器による音声が響き渡る。


『――総員突撃!』


 エルのその声と共に、天井に空いた巨大な穴から幾つもの疾影が――騎竜艇の一団が鬨の声を上げながら突入した。





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