第4話 タイムカプセル

満天の星空を見上げていた。

今日は特に星が綺麗だ。

この前、東京の親戚の家に遊びにいった時には、オリオン座の3つ星とか、おおぐま座の北斗七星しか見えなくて愕然としたが、今、改めてこちらの夜空を眺めていると同じ地球上の街だとは思えない。

都会の子に言わせれば「うらやましい」というこの星空。

東京に遊びに行く前は、それがどういうことかはかりかねていたが、帰ってきて久々に星空を眺め、それがこの街の財産なのだと、しみじみと実感したものだった。

隣にいる弟分の武史は東京を知らない。だからこの星々のありがたみをよくわかっていないに違いない。

そんなことで僕は少し優越感に浸っていた。

彼が隣でくしゃみをしたのをきっかけに声をかける。

「寒いか?」

「ううん、だいじょうぶ。」

「退屈だったらもう帰っていいんだぞ」

「退屈なんかじゃないよ」

少し痩せ我慢をしているような口ぶりが、可愛いやつだなと思わせる。


今日、僕は小学校を卒業した。

自分も泣くのかもしれないと思っていた。女子の中には嗚咽しだす子さえいたし、少ない生徒達の中にも、ぽつぽつとハンカチで目を拭う姿がみられた。

結局、僕は式では泣くこともなく、吹き抜けになった体育館の2階窓からのぞく第3校舎屋上の旗をなんとなく眺めていた。

とはいえ、教室に戻って若宮先生がお別れの話をし始めた時、ようやく実感が伴ってきて涙腺が緩むのを感じた。

若宮先生はいつも、両手を教壇に置き、自分の体を預けるように身を乗り出して話す。今日はいつもよりそれが大げさに感じた。

「長いようで短い間だったが、君たちの未来を願ってやまない。教師がこんなこと言うのも変だが、本当に感謝しているんだ。さよならじゃなくてありがとう、だ。」

そう結んだ。

今になって思えば、きっとその姿勢は先生の照れ隠しのようなものだったのかもしれない。

あれこれとそんな想念が頭をよぎり、こんな風に先生の授業をきくのも最後だと思うと、なんだか切なくて仕方がなくなった。


そういえばー

その放課後に埋めたタイムカプセルに入れたものは、武史にばれていないだろうか?


「武史?」

「なんだよ兄貴。あー、首疲れちゃった」

「だから無理するなって言ったんだ。」

思わず笑ってしまう。

「うん、それで?」

「いや、なんでもない。もういいんだ。」

「なんだよ兄貴」

「タイムカプセルの話。」

「ああ」


何も言わないところをみるとどうせ何もみていないのだろう。

僕には、好きな女の子がいた。

一緒によく遊んだが、ついに告白はできなかった。その子は違う場所の別の中学に進むと聞いていた。

これから先、何が起こるのかわからないけれど、大人になった時、同窓会か何かで再会して結婚できるかもしれない。

そんな荒唐無稽なストーリーを描いては、胸を膨らまし、ついでににやけてしまう。

卒業というのは不思議な魔力があるのかもしれない。


タイムカプセルに入れたのは、その子に関係したものだった。

我ながら、ませたガキだ。


「武史は何にしたんだ?」

「秘密!」

「まあ、そうだよな。」


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