第10話

「詩織、捻挫したんだって?」

「うん。心配かけてごめんね、お父さん」

「いや、それはいい」

えっ、いい・・・?いいって、どういうこと?

「それより、郁彦に随分世話になったって母さん言ってたぞ。ちゃんと礼は言ったか?」

「い、言いました」

何、娘の心配よりそっち?郁彦?

「ホント、姉ちゃんてばドジだよな」

「うるさい!」

「俺に八つ当たりすんなよ」

「あんたね、弟なら少しは姉ちゃんの心配しなさいよ!」

「そんな怪我くらいでナヨる姉ちゃんじゃないだろ?」

「だからって・・・」

「もう、いい加減にしなさい!七夕(ななせ)、あんまり姉ちゃん揶揄わないの!」

「別に揶揄ってるわけじゃ・・・」

「もういい!寝る!」

夜、医者の宣言通り熱が出た。風邪でもないのに四十度近い熱が出たのは初めてで、足の痛みだけじゃない体の軋みに朦朧とし始めた時、耳元に優しい声が聞こえた。

「大丈夫か、詩織?」

この声は・・・

「・・・郁彦?」

何で郁彦が私の部屋に・・・それに、顔近い!

「な、なんであんたがここにいるのよ・・・」

「お前のこと気になって来たんだ。そしたら小母さんが上がってけって」

「だ、だからって、女子の部屋に入る、普通?」

「普通は入らない」

「じゃあ、出てってよ」

「お前と俺の仲だ、気にすんな」

そう言って顔を覗き込む郁彦・・・ち、近い!

「痛むんだろ?こんなに熱出て・・・」

おでこに、ひんやりとした何かが触れた。それは、郁彦が交換してくれていたタオルの感触。冷たくて、気持ちいい・・・

「そんな・・・いいよ・・・」

「ごめんな。こんなことしかしてやれなくて・・・」

「郁彦・・・」

「早く、良くなれよ」

「う、うん・・・えっ、何?」

じっと私を見つめていた郁彦の顔が更に近づき、気付いたら私は郁彦に抱き締められ、キスされていた・・・

「・・・ん!」

「あっ、ごめん・・・つい・・・」

ついって・・・ついで人のファーストキス奪うな!こんなムードもへったくれもないない状況で良くそんな気分になるな、少しは乙女心考えろ!そう言いたかった。言いたかったけど、郁彦に見つめられてその瞳に吸い込まれ、私達はもう一度キスをしていた。これは・・・熱のせいだよね、きっとそう・・・郁彦だって何となくその気になっただけで、特別な意味なんてない。深い意味なんか、ないんだよね・・・

「詩織、俺・・・」

「ごめん、もう休ませて・・・」

「・・・わかった」

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