第11話
ドアが閉まる前、何かを躊躇う郁彦に声をかけるべきか悩んだのも一瞬のことで、ドアは無常にも鈍い音を立てて閉まった。
「ホントはもう少し・・・いて欲しかったんだけどな・・・」
郁彦が言うところの意地っ張りで素直じゃない私。可愛げのない私はこういう時にも如何なく実力を発揮してくれる。我ながら開いた口が塞がらない。
「郁彦の、くちびる・・・」
指で自分のくちびるをなぞってみる。確かに残る郁彦の感触。それはレモンの味でも甘い味でもなんでもなく、二人の関係が間違いなく男と女であると知らされた、もっと生々しい感触・・・
「はぁ、そうなんだよなぁ・・・」
どんなに蓋をしても、興味のない顔しても、自分の心に嘘はつけない。きっと郁彦だって気付いていたんだ、私の気持ち。気付いていたから、だから・・・ん?ちょっと待て!そんなロマンチックな状況じゃないぞ、今!明日からどうするのよ!どんな顔して郁彦に会えばいいのよ!・・・無理、絶対無理!郁彦に会ったら、きっと顔背ける、走って逃げ出す。って、今の私は走ることはおろか歩くことさえ出来ないじゃないの!あっ、もしかしたら郁彦、毎朝送り迎えするとか言い出すんじゃ・・・そんなのマズいよ、絶対!小学校ん時から、やっとの思いでただの友達的位置を獲得したんだ。今更また誤解を招くことなんてしたくない。ていうか、出来ない・・・だって、`学園七不思議‘はもうとっくに使用期間切れ。あー、それに猫!あの猫のこと!郁彦が余計なとこでキスなんかするから、肝心なこと聞き忘れちゃったじゃない!あー、もう!私のバカバカバカ!
頭の中をいろんなことが一度に駆け巡り、私はパニックを起こしそうになっていた。どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・
などと考えていたら、頭がぼーっとしてきた。解熱剤が効いてきたんだろう。ほどなく私は眠りに落ちた・・・これから起こることなど知る由もなく・・・
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