第9話

検査の結果骨には異常なく、重度の捻挫と言われた。

「腫れが引くまで数日かかりますよ。まぁ、ギプスするほどではないので、テーピングで固定しますね。それでも多少は動くと思いますので、なるべく動かさないよう安静にしていてください」

「はい・・・」

「それと、今夜熱が出るかもしれません。解熱剤も処方しておきますね」

「ありがとうございます、先生」

テーピングは、挫いた時以上に地獄だった・・・

「ところで、何で捻挫なんかしたの?」

「だから、猫のしっぽ踏んづけたってさっきから言ってるでしょ。もうしつこい・・・」

「猫のしっぽ踏んづけて捻挫するなんて、あんたホント鈍いっていうか・・・」

「うるさい!放っといて!」

誰も好き好んで捻挫したわけじゃない。猫のしっぽ踏んだわけでもない。あれ、今思えば、あの猫わざと・・・

「でもさ、郁ちゃん側にいてくれて良かったよね、ホント」

相変わらず母との会話は噛み合わない。何故なら、母が稀代の天然だからだ。

「別に。郁彦いてもいなくても状況は同じだし」

「またそういう可愛げのないこと言う!」

「ホントのことだもん」

「でも、そのしっぽ踏んづけられちゃった猫ちゃん、大丈夫かしら・・・」

「見知らぬ猫の心配より娘の心配して!」

「あら、それだけの憎まれ口利けるんならあんたは大丈夫でしょ?」

大口開けて笑う母を見て、自分は本当にこの人から生まれてきたのか頭を抱えそうになった。そういえば猫・・・何であの仔猫、あんなとこにいたんだろう・・・わざと踏まれて私を捻挫させるなんて、何か魂胆あったの・・・それに郁彦・・・何で仔猫と話出来たんだろ・・・郁彦の言葉からそれを解明するのは無理だ。明日学校で・・・いや、学校はマズい。こんな話、人に聞かれたら・・・かといって郁彦ん家行くのはヤダし・・・とにかく、痛みと腫れが引くまでこの件はお預けにしよう。

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