第8話

「詩織!あんた、何やってるのよ!」

「ああ、説教なら後にして。帰ったらゆっくり聞くから。」

「どうせあんたのことだから、よそ見しながら歩いてて・・・」

「おはよう、小母さん。詩織、結構酷いみたいだから早く病院連れてってあげて。先生には俺が事情説明しとく。」

「って、あんたそのズボンで学校行くの?」

「ん、ジャージあるから。それより早く行けって。」

「わ、わかった。」

とは言ったけど、ズボン濡れてるってことはその下だって・・・いや、これ以上の想像は止めよう、郁彦からさっさと離れよう!

「郁ちゃん、ありがとうね。ほら、詩織、肩。」

「っつと・・・うっ!」

「あー、見てらんね。」

「えっ!」

「よっと!」

突然郁彦が私の腰に腕を回し、ひょいと・・・ちょっとこれ、何!お姫様抱っこじゃない!

「や、やめて、恥ずかしい・・・みんな、見てる・・・」

「そんなこと気にしてる場合じゃねぇだろ!少しは言うこと聞け!」

「はい・・・」

「ったく。」

「あら、悪いわね、郁ちゃん。重いでしょう、この子?」

重い、は余計だ・・・

「大丈夫ですよ、車までだから。そうだ詩織、この礼は・・・」

「・・・礼って何よ。」

「足治ったらキッチリもらうからな!」

郁彦がニヤリと笑った。嫌な予感しかしない。

「お礼要求するなら今すぐ下ろして、下ろせぇーっ!」

「あーっ!危ないから暴れるなって!とんだお姫様だぜ、ホント。」

「いつまでじゃれてんの?あー、見てられなーい!」

「うるさい!黙れ、猫!」

「あんた、自分の立場わかってる?」

「立場?何だよ、それ。」

「知りたかったら今夜十二時、近所の公園にいらっしゃい。いい、きっちり十二時よ。それ以上早くても遅くてもダメ。わかった?」

「ああ、気が向いたらな。ほら、詩織。足、気をつけろ。」

「あ、ありがとう・・・」

「ホントありがとうね、郁ちゃん!」

「気が向いたらじゃなく、絶対来なさいよ!じゃなきゃ、その子との未来、どうなっても知らないからね!」

一瞬、郁彦が固まった。

「やっぱ重い?」

「・・・そんなんじゃねぇよ。」

「・・・・・・」

痛む足を庇いながら車に乗った。窓から見える郁彦はといえば、こちらを見てそのまま動かなかった。私には聞こえなかった会話。何を話してたんだろう。ていうか、何で猫と会話出来るのよ、あいつは!車窓に流れる雲を眺めてぼんやりと考えていた。母の顔を見てほっとしたのだろうか、痛みが二割り増した。

「大丈夫?もうすぐ着くからね!」

「う、うん・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る