第3話

「なぁ、詩織。」

「何よ。」

「中学入ったら急に俺のこと避け始めたよな、お前。」

「そ、そうだった?」

「そうだよ。てか、謝恩会終わった辺りから露骨になった気してんだけど?」

「気のせいだよ、気のせい。」

「いや、気のせいなんかじゃない。」

「だったら何だっていうの?もう六年も前のこと今更蒸し返すわけ?それで楽しいの、あんたは?」

「いや、楽しいってわけじゃない。俺は真実が知りたいんだ。」

「真実?はぁ?真実なら、嫌ってほど見てたんじゃないの、聞いてたんじゃないの?それとも何?自分がいかにモテてきたか、私に再認識しろとでも言いたいの?」

「そうじゃない!俺が知りたい真実は・・・」

「いい加減にして!あんたにとっては素晴らしい思い出しかないんだろうけど、私には・・・」

あれは、思い出したくもない苦い思い出・・・長かった六年ももうすぐ終わる。中学生になったら少しは変わるだろう。郁彦のせいでろくな思い出がない小学校時代。中学生になってもそんな思いするのは嫌だ、絶対嫌だ。だから多少なりとも期待したって罰は当らないよね。そんな微かな望みさえ、私は抱いてはいけないんだと思い知らされた。

小学校の卒業式間近。同級生ばかりか後輩の女子達まで、郁彦の寄せ書き目当てでクラスに押し掛けて来ていた。そして口々に囁き合っていた言葉・・・

「どうして琴原さんみたいな人が、鷲崎くんと仲いいんだろうね。」

「家が向かい同士なんだって。」

「えー、でもそれってあんまり関係なくない?」

「ほら、だからさ・・・」

「ああ、学園七不思議!」

「そうそう!」

「学園七不思議」・・・トイレの花子さんとか北階段の大鏡とか、深夜の音楽室や理科室、そういう怪談めいた話はどこの学校にもある。要するに、私と郁彦の仲は怪談話にも匹敵するほど不思議なことらしい。そのせいでいじめを受けていたわけではない。一度発展しそうになったことがあったけど、その時は郁彦が間に入って事無きを得た。それ以来女子たちの間で私は「触らぬ神」扱いだ。私を怒らせたら郁彦から嫌われる、口もきいてもらえなくなる・・・そんな噂がまことしやかに囁かれていたのだ。だから私に近づいてくる女子はみんなご機嫌とりで、少しでも郁彦に取り入ってくれるんじゃないかと期待している、そんな子ばかりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る