4年生 少年野球

4年生になると、少年野球への参加が可能になる。

私は、今に至るまで、すべてのスポーツに興味がない。

やっても、見ても、面白くないのだ。

子供の頃、食堂などで食事をすると、ビール片手に、TVを見て一喜一憂する大人をバカだと思っていた。

今でも、スポーツで熱くなる人間は好きになれない。

ポーカー、ビリヤードのようなサイレントな駆け引きを好み、

アクティブなやり取りを嫌う、そういう性格なのだ。

そんな私が、野球に誘われたのである。


「桜雪、お前も少年野球入るだろ?」

クラスでも活発な男子が、声をかけてきた。

「クラスのみんなも入るんだぜ」

そうなのか?まったく興味が無かった私は、学級会での説明など聞いていなかったのである。

どうやら、男子の大半は手を挙げて、チームに所属する意思を示したらしい。

私はグローブも持ってなかった。

野球などTVでも見たことがなかった。

当時、TVの人気は、野球とプロレスであった。

どちらも、私には関係のない映像の垂れ流しである。

「あぁ」

と気のない返事をして、図書室に向かった。

私は、同じく4年生から入部できる、

科学クラブへの興味が強く、そちらには希望を出していた。

図書室へは、実験に必要な本がたくさんあったのである。


それから何日か過ぎ、なぜか私はグラウンドに体操服を着て立っていた。

有耶無耶うやむやのうちに体験入部になっていたのだ。

ひとりひとり、技能が計られる。

自前のグローブ持参の子が多いなか、私は備品のグローブを適当に拾い、

フライやライナー、ゴロなどの捕球を試みたが、どうにもグローブは使いにくい。

素手の方が捕りやすいような気がした。

つまり、全部失敗したのだ。

遠投は、ほぼ足元にボールが転がった。

続いて、バッティングテストである。

私は思い切りバットを振った、当たったのである。

ピッチャーの脇を抜けて転がるボール。

「走れ、行けるぞ!」

クラスメートの声がする。

走ることには多少自信があった。

私は走った。

3塁に……。

3塁を踏みしめると、

「アウト!」

一瞬の沈黙のあと、大爆笑である。

戻った私は、人気者であった。


ボケたわけではない。

ルールを知らないからだ。

打ったら、右方向に走る、だから、アウトになるのだ。

ロクに飛んでいないのに、間に合うわけないのである。

だから、少しでも距離的に近い、左側へ走ったのだ。

鬼ごっこ的な発想であった。

タッチをされる前に、ベースを踏みながら、1周すれば1点だと思ったのである。

右に行くと見せかけて、左へダッシュである。

サイレントな駆け引きを試みたのである。


テストが終わって、クラスメートが声を掛けてきた。

「桜雪、左利きなの?」

そう、私のグローブは左利き用だったのである。

なるほど右利き用にハメ変えると、投げやすく、捕りやすい。


なぜか、テストには受かった。

2軍ではあったが。

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