3年生 骨格標本

理科室を利用できるのは、5年生からである。

上級生が2階へ移動する姿は、それだけで大人に見えた。

憧れにも似た好奇心が、私を突き動かした。


口が達者な子供であった。


例により、廊下によく立たされているうちにクラスの垣根を越えて、親しくなった廊下フレンズと、放課後こっそり理科室に行ってみようということになった。


上級生に見つかったら、たぶん、苛められるのだが、好奇心は抑えられない。


決行の日、グラウンドで、時間を潰す。

下校時の放送が流れる、生徒は学校から出なければならない時間だ。

私たち4人は、物陰を忍者気取りで、校内に忍び込む。

中庭を抜け、校内に入り、階段を登り、2階へ、

廊下に誰もいないことを確認して、廊下を中腰で進む。

壁にへばりつき理科室の前。

そっとドアの窓から中を覗う……。

誰もいない。

ソッとドアを開け、中へ入る。


見るものがすべて、大人の道具といった感じがした。

実験……なんかいい響きだ。

上級生はココで何をしているのだろう。

ガラスで出来た、実験用具は、棚に収められ、興味が尽きない。

触りたいのだが、鍵が掛かっている。

たぶん高いのだろう。


部屋の奥には、液体に着けられたカエルやトカゲ、

箱に納められた、植物や昆虫。


なんてすてきなプレイスであろう。


みんな興奮していた。

理科室の後ろには、人体標本と骨格標本がこちらを見ている。

不気味である。

少し怖い。


扉に鍵は掛かってない。

キーッと扉を開けると、ホコリが舞う。

少しホコリ臭い箱の中、悪戯心で、1人を閉じ込めた。

「開けろよー!」

結構嫌がっている。

すぐに開けて

「弱虫」

と3人でからかった。

「怖くねぇよ」

と別のヤツが入る。

なんとなく順番に入ることになった。

最後は私の番だ。

入ろうとしたとき、ガラッとドアが開いて、電気が付いた。

「なにしてるんだ!」


私たちは、教務員室で怒られた。

担任が端から順にビンタをしてくる。

最後は私の番だ。

叩かれる寸前

「先生、こいつらは入ったけどボクはまだ入ってなかった、同じように叩かれるのは嫌だ」

と言うと

「一緒に遊んでれば同罪だ」

と右手を振り上げた。

「先生、殺人と殺人未遂では、罪の重さが違う、同罪と言う先生は、おかしい」

となおも拒むと、

「うるさい!」

と私だけ2回叩かれた。


理不尽である。


口は災いのもとなのである。

子供も大人も。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る