第6話:次の街へ

 領主はまともではなかったが、幸い街はまともだった。

 適当に宿を取り、一晩ゆっくり休んではい出発と相成ったわけで、私たちはひたすら街道を北に向かって進む。普段村から出ない私にとっては、これだけでちょっとした冒険だ。

「この先には『ファルス』という街があります。頑張ってそこまで行きましょう。でないと、野宿することになります」

 エリスがそんな恐ろしい事を言う。

 旅人にとって、野宿というのは生き死に関わる大問題だ。夜間活動する魔物も多いし、野盗に狙われる可能性も高い。よほど急ぎなら別だが、夜中に街の外を歩くのは自殺行為に等しい。

「じゃあ、ちょっと急ぎましょうか」

 この辺りの地理はよくわからないが、エリスの口調からそこそこの距離があることは察しがつく。私は歩く足に力を入れた。

「しっかし、歩くのも効率悪いな。馬かなんか調達したいぜ」

 私の少し後を歩くカシムがそう言った。

「あのねぇ、馬なんて高くて買えないわよ。そんな都合良く手に入れば苦労はしないって」

 私がそう返すと、カシムは鼻を鳴らした。

「まっ、それもそれだな」

 そう言って口笛など吹き始める。

「ルネスの街の領主邸から、色々持ってくれば良かったですね」

 おおよそ聖職者とは思えぬ事をエリスが言った時だった。遠くから戦闘の音が聞こえた。

「2人とも、行くわよ!!」

 私が声を掛けると、皆は黙って掛けだした。程なくその戦場に着く。見ると、大きな荷馬車の周りに剣を構えた人間それぞれ対峙している。どうやら、野盗の類いに襲われたようだ。

「おい、どっちに加勢する?」

 走りながらカシムが聞いてきた。

「アホ、なんで野盗に加勢するのよ!!」

 叫びながら、私はボロボロの姿をしたいかにも野盗然とした姿の1人に向かって、初歩の炎系攻撃魔法を放った。目の前の男に気を取られていたらしいそいつは、驚きの声すら上げずに沈黙する。

 この事により、野盗の注意がこちらに向いた。

「早く逃げて!!」

 見える野盗の数は6名。戦うには馬車が邪魔だ。

 私は大声で叫んだ。

 すると、馬車はゆっくり動き出す。その間にも、私は野盗たちに魔法で攻撃を加えて身動きをとれなくしておき、カシムとエリスが剣とメイスで叩きのめしていく。かくて、戦闘とも呼べない戦闘は終わった。

「ふぅ、暇つぶしにもならん」

 剣を鞘に収めつつ、カシムがつまらなそうに言った。

「1番下っ端の戦闘要員ですね。取るに足りません」

 エリスがそう言った時だった。2人が急に身を反らせた。

「えっ!?」

 わけが分からずそのまま立っていると、シューンと尾を引く音とが聞こえ、左肩の辺りに激痛が走った。

「!?」

 声にならない悲鳴を上げるあたし。左肩を見ると矢が刺さっている。

「おい、防御魔法!!」

 カシムの声に、私は反射的に防御魔法を放った。すると、その障壁に次々に矢が刺さる。

 ……また私だけ痛い思いですか。ったくあったまきた!!

「カシム、矢はどっちからきてるか分かる?」

 肩の痛みはあるが、それ以上に頭にきていた。

「ああ、多分あの森だ」

 ここから少し先にある街道沿いの小さな森を指差すカシム。

「ありがとう。炎の精霊よ……」

 あたしは火炎系最強呪文を唱え始めた。

「お、おい、よせ!!」

 カシムが止めに掛かったが、今の私はそんな事は耳に入らない。

「ブラスト・ファイヤ!!」

 私の杖からはき出された巨大な火球が森めがけて飛んでいき、そして大爆発を巻き起こした。空にキノコ雲が立ち上る。

「あーあ、みんな潰しちまいやがって。なんかお宝あったかもしれないのに……」

 そんなカシムの声を無視して、私はエリスに向き直った。

「悪いけど傷の手当てお願いね」

「は、はい!!」

 あっけにとられていた様子のエリスが、慌ててあたしの傷を手当する。

 こうして、私たちは『ファルス』の街に無事に(?)到着したのだった。

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