第31話 呑気

浅い眠りから目を覚ますと、板書の音が聞こえた

絶望的に寝覚めの悪い気分を抱えながら

私は頭を軽くふる……

肩まで垂れ下がる短な髪がゆっくり後を追うようであった


目の前には畑先輩もいなくて

あれだけ苦労した、いや、実際にはしてないのか

原稿用紙の束も綺麗サッパリ失くなっていて

またゆるい悲観の波が押し寄せてくる……


まだ夢のなかの方が幸せだったのかもしれない

まがりなりにも私の文章は完結していて

それを読んでくれる人がいて

余すところなく痛烈に評価してくれる

私は黙って言葉を受け入れよう……

その方が’生きてる’って感じがする


 と考えてはみたものの、それは半覚醒の脳が導き出した間違った結論だった。原稿用紙を破られたり、燃やされたり、切り刻まられたりするのは正直、心にクるものがあって、それは確実に私の喜怒哀楽を破壊していて、私が無感情にそれらを眺められたのは夢の中の話で現実にそんなことをされたら一発ポカッとはやっちゃうかもしれないとやっぱり思う。’生きてる’っ、なんてバカみたいなことで、感情を動かせなくなった人間はそれって本当に生きてんのか?なんてこと思う。人は感情に動かされて、激情のまま動いて、哀情のままに悲しめばいいとも思う。そうだ、私はもともと感情のままに動くような人間だった。理性は後で働けばいい。腹が立ったなら私はその場で畑先輩をポカッとやって、原稿用紙を灰になる前に救いだして、私の言いたいことを無理矢理にでも言ってみるべきだったのだ。いや、大丈夫か?まあ、畑先輩なら笑顔で受け入れるだろう。暴力を?いや、私の反応を。あの人はなんだかんだいって、他人に甘いのだ。

 

 

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