作戦終了

 眠っている夢を見た。

これが夢だと自覚できることは中々にレアな状況だ。

だが、夢の中の俺の体は動けないでいた。

それどころか、自分の寝ている姿が見えている事に疑問を感じる。

そう、俺は自分自身を見下ろしていた。


 もしかして、これは幽体離脱と言うヤツなのだろうか。

口は半開きで呼吸の数は少ない。

じっと見ていないと死んでいるんじゃないのかとさえ錯覚する。

俺の寝ている姿はこんなにも間抜けなのか、と驚きを隠せない。


 ふと、自分の頬に流れるモノを感じる。

何だ?と手で拭うと涙のようだった。

自分の体を見て何を悲観しているのだろうか。

心の何処かで、本当に幽体離脱だとするとこのまま元に戻らないんじゃないかと不安になったのか。

それとも俺は死んでしまったのか。


 声が聞こえた。呟くような、囁くような声が。

それに合わせて体が軽くなり宙に昇り始める。

意識の覚醒を感じながら安堵した――――




「ようやく起きたのねこの間抜け面は。」


 俺が横になっているベッドの隣で日傘を差した女性が椅子に座っていた。

どこか不満がありそうでつまらなそうな顔は生まれつきだろう。

そうなら、室内で日傘を指しているのもきっと生まれつきのはずだ。


「貴方は私を見るなりいつも失礼な事を考えているでしょう?」

そんな顔をしているわ、と彼女は言う。


「まさか、お嬢様。俺は紳士だから誰に対しても失礼な事を考えないさ。」


 自分で言っても紳士なんて笑える話だった。

俺が紳士なら真城ちゃんはどれほどの淑女なんだ?


と、寝ぼけている頭も冴えてきた。

整理しよう。


 ここは俺達の館の内の一つの部屋だ。

白い壁と床と天井。

清潔なベッドが並んでいて、薬や包帯も置いてあり医務室といった所だった


 そこで俺は眠っていた。なぜ?傷を負ったからだ。

真城ちゃんと一緒にいて共に深い傷を――――



「真城ちゃんはどこだ?」


 周りのベッドには真城ちゃんの姿は見えなかった。

代わりに無傷な俺は一人ポツンとベッドにいる状況だ。


 お嬢―――どこぞのお嬢さんは少し考え込む。

難しい顔で、時より優しそうな表情をしながら。

その言葉を選んでいるかのような表情に背筋が凍りそうになる。



「待て、冗談は――――」


「昨日の事よね。彼女は頑張ったわ。戦いの中で彼女は貴方の意識が覚醒するまで待った。でも、貴方が起きるのが遅すぎたのね。」

「出血の量があまりにも多すぎた。そして、私達が助けにいくのも道中の信者で手間取ってしまってついた頃には――――」


 分かった待ってくれ、とお嬢の声を遮る。

それは、何で、あんまりにも、そんなことしか考えられない。

完全に背筋は凍り、脳に考えが巡らない。


真城ちゃんを守ることが出来なかった。


手遅れだったんだ。


あんな雑魚に遅れをとったせいだ。

深い溜め息をついて項垂れる。


 それでは、と彼女は椅子から立ち部屋から出る扉に向かう。

下を向いた俺に慰めの言葉をかけないのもお嬢なりの気遣いなのだろうか。

器用なようで不器用な彼女は少しだけ俺と似ていた。


不意にトントン、とノックが聞こえる。

どうぞ、と俺は力もなく呟いた。







「ジョンさん!起きていましたか!ミッちゃんさんがお粥を作ってくれましたよ!レアな個人めにゅー?ですよ!」


 勢い良く開いた扉から包帯を巻いた真城ちゃんが飛び出してきた。


ん?おい、どういう事だ。

お嬢を睨むと、向こうも睨み返してくる。


「知っていた?私も貴方が嫌いなのよ。」


 澄ました顔でお嬢は部屋を出ていく。

真城ちゃんは状況を飲み込めないようでお粥が入った鍋を持ちながら頭にクエスチョンマークを出していた。



 ディーラーへの報告はまた今度にしよう。

ただ、ミッちゃんのお粥を真城ちゃんに食べさせてもらえたら、これ以上の最高なことはないだろう。

なんて事を考えていた。

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