第13話

 次の日の放課後、遥は連に校舎裏に呼び出された。

(なんだ? 告白でもしてくれるのかね?)

 一瞬でもそんな妄想をして、脱力する。がそんな事してくれるはずがない。彼にとっては全ての人間は平等。特別な誰かを作るなんてありえない。ましてや、それが自分だなんて事は。

 幼馴染だからこそはっきりと解ってしまうのだ。

 小奇麗な校舎の裏には既に連が立っていた。相変わらずのイケメンっぷりである。

 その横には一人の女の子が立っていた。

 可愛い子だった。どこかで見かけた事があるような気がする……どこだっただろうか。

 美男美女の二人。傍目から見ても、こんな風な二人ならきっとお似合いなんだろうなんて考えた。


 そして、そんな考えに尋常じゃないくらいの嫉妬心を覚えた。


 妄念を振り切って、二人の前に立つ。

 一体何の話をされるんだろう。

「ほら」

 連が女生徒を促す。

「わ、私、簾藤紀里っていいます。四組です……えっと、その……」

 簾藤紀里と名乗った少女はきょろきょろと視線を動かし、全く落ち着かない。何か緊張しているのだろうか。

「謝りたい事があるんだよな」

 連が助け船を出す。連が優しい表情を彼女に向けている。そんな些細な事でも嫉妬してしまう自分が醜くて嫌になる。

「えっと……」

 もう一度、連の顔を見てから、彼女は遥の方に向き直って言った。

「最近、遥さんの事をつけてたのは私です。ごめんなさい!」

 彼女は深々と頭を下げた。

「そういう事なんだ。許してやってくれ。俺からも頼む」

 何故か連まで頭を下げる。

 そんな光景を見て、遥は鼻白む。

「女の子だったんだ」

 しかもこんな綺麗な子が。

 戸惑いのままに遥は言う。

「でも、どうしてそんな事……?」

「あ、その……」

 顔を上げた少女はしどろもどろになっている。

「友達になりたかったんだよな」

 連が言う。

 友達……?

「あ、はい……以前、合気道をしてらっしゃる所を見て……その……」

 そこまで言われてやっと思い出した。

「あ、あのよく見学に来てた美術部の子」

 綺麗な髪をした子だな、なんて思っていたからなんとなく覚えていた。

「そ、そうです!」

 表情がぱあっと明るくなる。

「でも、どうしてわざわざ、私?」

 こんな子なら友達でも彼氏でも、いくらでも作れるだろうに。

 少女はもじもじと指をいじりながら言う。

「その……遥さんの姿がかっこよくて……」

 そういう風に面と向かって言われるとなんだか面映ゆい物がある。

「ありがと」

 なんだろう。そわそわして落ち着かない。

「だからその……友達になってくれませんか……?」

 目の前に居る美少女が言った。


 ――――あたしは


「もちろん!」

 元気よくそれに応える事にした。

「後をつけてたのだって、要は話しかけるタイミングをはかってただけなんでしょ」

「そ、そうです」

「じゃあ、問題なし! これであたし達は友達ね」

 そう言って、遥は少女の背中を軽く叩く。

 少女の表情がぱあっと明るくなる。

 本当に綺麗な子だと思う。

 どうしてわざわざあたしを選ぶのか解らないくらい。

「あたし、練習があるからもう行くね。また今度ゆっくり話そう、紀里!」

「はいっ」

「あ、同学年なんだから敬語で無くていいからね」

 それだけ言って、遥はその場を後にした。

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