第12話
簾藤紀里を家に帰した直後だった。
「いやあ、面白かったね。まるで漫画の様だったよ」
声のした方向を振り返る。
「力に覚醒した主人公が敵を倒すってね」
『白い少女』が連の背後に立っていた。
連はその少女を真っ直ぐに見据えながら問う。
「おまえは何者なんだ?」
この不可思議な力自体は、ずっと昔から使えた力の様に自然に身体に馴染んだ。しかし、それを目覚めさせた少女が不可解な存在である事には、違いなかった。
「ボクには『マキナ』っていう可愛いお名前があるんですよ」
マキナと名乗る少女はくすくすと笑いながら言った。
ふざけた奴だ。真意の様な物がまるで見えない。まるで彼女の周囲に淡い霧がかかっているように、この少女の本質はどうしても捉えられそうにない。
それでも、その霧を少しでもうち払おうと連はマキナに対峙し、問う。
「では、マキナ。おまえはあの都市伝説で言う『白い少女』か?」
マキナは空から降ってくる何かをつかみ取ろうとする様に、無邪気に両腕を広げて言う。
「そうですねー。ボクの事をそんな風に呼ぶ人も居るね」
マキナは満面の笑みを湛えている。しかし、その笑みはどこか不気味ですらある。まるで人形が動いて喋っているようだ。底が知れない。
連は心胆に怖気を感じながら呟く。
「おまえは人間なのか……?」
すると、マキナは両腕を広げたままくるくるとコマのように回り始めた。白い着物と純白の髪が風にたなびく。
「さあー? どうでしょう?」
惚けた声色。
まるで一輪の花が咲いたようだった。
彼女の存在だけで、夜の世界に光がさしたようにすら思える。
それだけ彼女の存在は世界にあって異質だった。
この様子では、まともに答える気があるとは到底思えない。
「じゃあ、とりあえず一個だけ教えろ」
連は右手を刀に変える。
「――簾藤紀里にあの力を与えたのはおまえか」
連は、低くドスの効いた声で尋ねる。
その様子を見て、マキナは回るのを止め、連に向きなおった。
「そんな怖い顔しないでよ」
それでも無邪気な笑みは決して崩さなかった。
「それは半分正解で半分外れ。キミの心の中でも言ったけど、その力、〈リアライズ〉は、人間の心の中に眠っているものだ」
「〈リアライズ〉……?」
「『心』を現実に変える力……それが〈リアライズ〉」
少女は連の周りを回る様に歩きながら続ける。
「〈リアライズ〉は誰の心の中にもある。ただ眠っているだけ。ボクはそれを目覚めさせたに過ぎない。だから、『簾藤紀里にあの力を与えたのはおまえか』という問いは、半分正解で、半分外れさ」
「どっちにしてもきっかけがおまえなのは間違いないんだな?」
「うーん、そうだね。それは否定できない」
連の周りを一周、正面まで回って、そう答えた。
「なぜ、あんな力を目覚めさせた。あんな力を不用意に与えれば、こんな戦いが起こる事は明白だろう」
もし、簾藤紀里が〈リアライズ〉なんて力を手にしていなければ、今日のような諍いは起こらなかっただろう。こんな事になるのは十分予測できたはずだ。
「質問の意味……じゃなくて意図が解らないな。別にボクが誰の力を目覚めさせようが関係なくない? 別に彼女とは友達でもなんでもない、赤の他人だったんでしょ?」
マキナの言葉に、連は当然の如く言った。
「俺は誰であろうとこんな力に振り回される人間が出る事を見過ごせない」
この少女も先程までの態度もさりげなく戦いを煽っていた。連の身を守らせる為に仕方なく、〈リアライズ〉を目覚めさせたというわけではなかったはずだ。
「ああ……キミはそういうマンガみたいな事を本気でいう人間だったね……」
マキナはいつの間にか笑みを止めて、連を見ていた。
しかし、それも一瞬。
「まあ、しばらく面白そうだから、観察させてもらうよ、レン」
少女は連に満面の笑みで言った。
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